第30話 アレンシア包囲網
「閣下、都市国家シューヴァルの使節団がお見えです」
「この前話した時間ピッタリに来たな。通してくれ。くれぐれも粗相のないようにな」
うららかな日差しで過ごしやすい日々が続く中、水面下では着々と事は進行していた。
事前の打ち合わせで話し合う時刻を決めたのだが、その予定時間ピッタリにシューヴァルの使節団がやってきた。
「此度はわざわざ
「率直に申し上げましょう。あなたにアレンシア国を討ってもらいたいのです」
「アレンシアを!? なぜ?」
都市国家シューヴァル。穏やかな海沿いの町で各地の港から来た船や南大陸の商品を積んだ船が毎日のように行きかう貿易都市である。
ここだけに限らず世界に点在する都市国家は主にその土地の豪商や地主が束ねており、あらゆる国王に従属しない永世中立を掲げている。
もしここを攻め落とそうとしたら並みの王では手も足も出ない数と練度を誇る防衛軍や市民兵を相手にしなくてはならない。
それに万が一勝てたとしても世界中の都市国家はお互いに同盟協定を結んでおり、そこを経由した人、物、カネ、情報は一切流れてこなくなる。
だから占領してもマイナスがあまりにも大きすぎて意味がないためこんな乱世でも永世中立でいられるのだ。
「アレンシア国は魔物を使い我がシューヴァル周辺で
下手な国より軍事力も経済力も上である都市国家を敵に回すのは最悪と言っていい愚策中の愚策だ。逆に言えばそんな事をやらないといけない位追い詰められているというわけか。
「商人たちの安全からいっても今回の件、我々は黙っているわけにはいきません。ただ永世中立を名乗っている以上、安易に侵攻のための軍を動かせないという事情もあります。そこで貴方たちハシバ国を裏から支える事に致しました。アレンシア国を討つのであれば我々は最大限のサポートをいたします。いかがでしょうか」
どうやらあの豚王暗殺未遂事件と「豚攻めに耐えた」事でずいぶんと有名になってしまったらしい。今回の話が舞い込んできたのもそれが理由だろう。
彼らが言うその支援の内容とは……
戦時の際マコトの軍勢への食料、武器、その他物資の供給。
総勢600名近くになる傭兵たちの手配。
マコトが立案する作戦費用の全額負担。
さらに神霊石を5つ進呈する。
というかなり規模の大きな支援内容だ。
「いかがなさいますか?」
「よし。受けよう」
どっちみちアレンシア国とは戦争をする仲だ。ここまで来た以上後には引けない。マコトは快諾した。
「ディオール、早速伝道師を雇ってアレンシア国内で宣伝活動を行わせてくれ。あとイトリー家の者たちと連絡をとってくれないか?」
「かしこまりました。手配しておきます」
神霊石5つを手に入れたマコトは早くも動き出した。
「我らは暴君により虐げられし市民を解放するための使者なり! マコト様がこの国を解放した時には国民が負担している税の半数を廃止し、国民を守る!」
太鼓をドンドンと叩き、ラッパをプープーと吹かしながらアレンシア国の圧政を非難する伝道師があちこちで現れ始めた。
「コラ! 何をやってる!」
兵士が声をかけると彼は一目散に逃げて行った。アレンシア国内のいたるところで似たような活動が行われていた。
「閣下、各地でマコトの勢力によるプロパガンダ活動が行われています」
「野郎! 見つけ次第徹底的に排除しろ!」
武力侵攻には納得できる建て前が必要だ。「今の王より新しい王の方が良い」というのが知れ渡れば直接的、間接的に敵軍の士気を下げさせることもできるし制圧後の統治も上手くいく。「新しい王に支配されてよかった」と思わせれば理想だ。
その一方で水面下の工作も開始した。今は豚王の配下であるイトリー家との接触を試みていた。
「なるほど。戦場で……ね」
「はい。勝利に貢献して頂ければイトリー家による再統治をお約束いたします」
「すまないが、この身は『今は』
「父上! 悔しくないんですか!? あの豚王を倒せる絶好のチャンスなんですよ!? それをふいにするおつもりですか!?」
「『今は』私の主はあの王だ。忠誠を誓った以上、逆らう事は出来ん。『今は』な。忘れたのか? お前も私の部下である以上、
「父上! あなたはどこまで落ちぶれたのですか!? もういい! この腰抜け抜きでやりましょう!」
消極的な父親、モリス=イトリーに対し息子のエリック=イトリーは豚王打倒に積極的だ。
結局彼を中心に作戦が練られることになった。
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