第5話 薔薇の騎士団団長ディオール

 打ち捨てられたボロ小屋とその周りに張られた数張りのテント、その中で整えられた髪も立派なあごひげもすっかり白くなった初老に近い男が若い娘からの手当てを受けていた。

 男の腕に巻かれた血と膿で汚れた包帯をほどくと、下からは骨にまで達する深い傷跡が何か所も刻まれているのが見えた。その傷を新しい包帯で覆う。


「申し訳ありません。団長。この程度の手当てしか出来なくて」

「良いんだ。それと、団長と呼ぶな。私はもう団長ではない。薔薇ばらの騎士団も存在しない。今の私は主を護れなかった無様な敗残兵であり、野盗の頭だ」

「私にとっては団長は団長です。そこは譲れません」


 しばらく無言で手当てを受けていた、その時。


「団長! 敵襲です!」


 見張りの団員が声をあげた。




「イザという時はコイツを使うか……」


 マコトは1枚の羊皮紙を取り出し、見つめていた。


「大将、何だいそれ?」

「魔法が書き込まれた羊皮紙さ。使う本人は魔法が使えなくてもこれさえあればあらかじめ書き込まれた魔法が使えるらしいんだ。まぁ1度に使えるのは1回きりで1度使ったら魔力を充填する必要があるらしいんだが」

「へぇ。便利だねぇ。どこで買ったんだい?」

「いや、城の倉庫をあさってたら出てきたんでお守り代わりに持ってたんだ」


 マコト一行は目的地周辺にたどり着く。すると、武装した若い娘が2人立ちはだかる。


「水と食料、それに金目の物を置いていけ!」

「あんたたちが噂の野盗かい?……あんたたち野盗という割には妙に小奇麗だねぇ。本物の野盗はもっと汚れた格好してるもんだよ。あんたたち、本当に野盗かい? 本当は『騎士団』なんじゃないのかい?」

「! お、お前らには関係ない! どうやら痛い目に遭いたいようだな!」


 少女たちが襲い掛かってくる! お虎が突っ込みマコトがサポートし、ゴブーが後ろから矢を射かける。3対2と数では有利なためかマコト側が押し込んでいく。


 お虎の文字通り人間離れした力で片方の少女をねじ伏せていく。それを阻止しようともう片方がマコトを無視して彼女に襲い掛かるがそこへ肩目がけてゴブーの矢が突き刺さる!

 矢が刺さった衝撃で獲物を手放してしまう。もう片方も傷つき武器を奪われてしまう。




「さーて、親玉を出してもらおうか?」

「待ちなさい」


 ボスを出すよう脅しをかけるお虎に応えるかのように、拠点にしているボロ小屋から初老の男が出てくる。


「だ、だん……じゃないやお頭!」

「私が相手いたしましょう」


 いたるところに包帯が巻かれた明らかにボロボロな老人という身体で、はたから見れば死に体だが雰囲気からして明らかに格上だと思わせる男だった。

 マコトはケガ人だろうがお構いなしに先陣を切って斬りかかる。が、相手はそれを片手剣で受け止める。


「!? な、何だ!? ……動かない!?」


 マコトは体重を乗せて全力で斬りかかっているにも関わらず、相手は微動だにしない。まるでそよ風でも浴びているかのように涼しい顔であった。

 そして彼が剣を振るうとマコトの手からいともあっけなくナタがすっぽ抜け、宙を舞う。


(バカな! しっかり握ってたはずなのに!)


「うおおおお!」


 マコトが退くとほぼ同時にお虎が男の背後から襲い掛かる。が、盗賊の頭は攻撃が届く前に・・・・・・・動いてかわした。そして返す刃でお虎に斬りかかる。脚から血が噴き出した。

 ゴブーの矢も同じように矢を放つ前に動いてひょいと避けた。


(!? コイツ! あたしらの動きが読めるのか!?)


 お虎は歴然の戦士ほどではないが、商人や退治に来た下級兵士相手にそれなりの戦闘経験がある。だからこそわかる。相手の強さ。

 手負いでもなければ自分たちが束になっても手も足も出ない程の圧倒的な強さ……常人では死んでいていもおかしくない程の大怪我をして弱っているからこそ自分たちはあいつと「いい勝負」が出来るのだと誰よりも強く感じていた。


「気を付けて! こいつ、とんでもなく強いよ!」

「お判りでしたら話が早い。ここはお互い見なかったことにしてくれませんかねぇ?」


 お虎の声を隠す必要もない。とでも言わんばかりに盗賊の頭はしゃべる。


「となるとまともに戦っても勝ち目無さそうだな……おいゴブー、お虎」


 マコトはお虎とゴブーを集めて作戦を話す。そして覚悟を決めたのか……


「うおおおお!!」


 ゴブーが盗賊の頭の両足にしがみ付く。次いでお虎が彼の背後から羽交い絞めにする。


「大将!」

「行って! 大将!」


 2人に言われるがままマコトは羊皮紙を開きながら盗賊の親玉めがけて突進する。羊皮紙から炎が出てきてマコトの右手にまとわりつく。それは巨大な炎のランスとなった。


「バーストランス!!」


 マコトが渾身の一突きを放つ! 炎のランスが彼の腹に直撃し、盗賊の頭はその場で崩れ落ちた。マコトは拾い直したナタを彼の喉元に突きたてた。




「観念するんだな」

「ディオール様!」


 野盗の一人が悲鳴を上げる。ディオール様、と。ゴブーは驚きの声をあげる。


「ディオール様? って事は、こいつが本物のディオールって事か!?」

「そうです。私はリシア国に仕えていたディオール=エトピリカと言います。私はどうなっても構わない。どんな要求でものみましょう。ただ部下の命だけは見逃して欲しい。頼む」


 盗賊の頭……ディオールは喉元にナタを突きつけられてもなお動じない。


「どんな要求でものむ……そこに二言はないな?」

「ええ。何だったら万色の神に誓いましょう」

「なら、俺の部下になれ」

「……どういう事ですかな?」


 ディオールは首をかしげる。


「だから俺の部下になれって言ったんだ。お前怪我してるとはいえ相当な実力者なんだろ? その力、存分に使わせてもらうぞ」

「……良いでしょう。それで部下が救えるのなら文句はありませんな。あと彼女らの傷を癒してくれれば言う事無しですな」

「わかった。んじゃあ仮契約を結ぶぞ」


 マコトがそう言うと彼とディオールの胸から一筋の光が出て繋がる。

 基本的に召喚された者は地球から来た王と自動的に「仮契約」を結ぶのだが直接会って口約束で結ぶこともできる。

 これにより、王が神霊石の力で起こす奇跡で願いをかなえてもらう資格を持つことになる。

 仮契約を結んだのを確認するとマコトは神霊石を取り出した。


「ディオールを含めた薔薇の騎士団全員の傷を癒せ!」


 そう言うと神霊石が光り出す。そして砕けて光の粒となり14人の少女たち、そしてディオールを包む。ボロボロだった彼や騎士団団員の少女たちの傷は文字通り、瞬く間に消えてしまった。


「すごい。傷が癒えた」

「あんなに深かったのに!?」


 少女たちが驚きの声をあげる。


「願いはかなえたぞ。次はお前の番だ」

「良いでしょう。今より私は閣下の剣にして盾。このディオール=エトピリカ、命尽き果てるまで忠誠を誓いましょう」


 忠誠の言葉で契約を結んだディオールの胸から虹色の光の球が出て、スマホの中に入る。レアリティはSSRダブルスーパーレア。大けがを負っていなければ全く歯が立たない相手だっただろう。


「ディオール様……」


 不安そうに少女たちはディオールを見つめる。そんな彼女たちにマコトが声をかける。


「お前たちも来るか?」

「良いのですか?」

「ああ。言っとくけど何も無い国だぞ。風呂も無いから体を洗いたきゃ川で水浴びだ」

「良いですよ。それでも」

「私、ディオール様と離れたくない」

「私もディオール様の所へついてきます」


 全員一致でついていくことになった。


「「「我らは誉れ高き薔薇の騎士団! 国を護る薔薇として命の限り閣下に尽くします!」」」


 青、緑、白の光の球が総勢14個、マコトのスマホの中に入る。団員たちは多くはレアであり、HRハイレアノーマルもそれぞれ2名いた。大収穫だ。


「ところで大将、ギルドの依頼はどうしやす?」

「既に山賊は他所に移った後らしくて影も形もありませんでした。とでも言えば大丈夫だろ。俺が適当に言っとくよ。じゃあみんな、帰るぞ。俺達の国に」

「はっ」


 王に導かれるがまま、一行は新たな祖国へとしっかりとした足取りで向かっていくのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る