381.報酬:リザルト2
俺だけが覚えたらしいスキルの検証が終わったところで、それ以外の報酬を確認することとなった。
といっても、パーティ用臨時インベントリに入っている報酬は、そこまで珍しいものというわけでもなく、レアリティを考えなければ普通のレイド報酬と大差はないそうだ。
レアリティを考えなければ。
「うぉー! この指輪、即死無効が付いてるぞ!」
「こっちの頭防具は雷耐性だ! 防具としての性能も高いし、めっちゃおいしいぞ!」
とまあ、入手したアイテムを検品しているメンバーはこんな感じである。
特に、即死無効の付いたアクセサリー類がいくつか入手できているらしく、これがあれば次回以降の攻略がかなり楽になりそうとのこと。
できれば、次回は俺なしでクリアできるようにしてもらいたいね。
たいしたことはやっていないけど、めっちゃ疲れた。
「トワ君、今回のレイド報酬だけど、希望は何かあるかな?」
アイテムの仕分けに行っていた白狼さんが戻ってきた。
希望、希望ねぇ……。
「特にありませんね。珍しい素材があれば、クランにお土産として持って帰りたいですけど」
「やっぱりそうなるか。了解したよ。銃カテゴリーの装備もドロップしているようだけど、そっちは興味あるかい?」
「いえ、特には。ほかにもガンナー系の参加者がいるでしょうし、そちらに優先してもらってかまいませんよ」
「わかった。……それにしても、先にユキさんにも希望を聞いてきたけど、欲がないっていうのも困りものだねぇ」
本当に困っているのか、白狼さんが肩をすくめながらそんなことを言う。
「俺たちは戦闘系のプレイヤーじゃないですからね、基本。戦闘用のアイテムを渡されても宝の持ち腐れですって」
「そうだろうけど……活躍に見合った報酬を渡さないと、それはそれで不満が出やすいというか、ね」
「俺の場合は、特別なスキルも覚えましたし、それでいいんじゃないんですか?」
「クエスト報酬としてシステム的に与えられたものと、レイド報酬としてプレイヤー間で取り引きしたものとではわけが違うんだよね。まあ、君とユキさんの分ということで素材アイテムを多めに回しておくよ」
「ありがとうございます。それで大丈夫ですよ」
とりあえず報酬の分配はこれでよさそうだな。
後は……何があったっけ。
「そうそう、クリア報酬で手に入ったスペシャルスキルチケットだけど」
ああ、そんなものもあったな。
白狼さんが説明してくれるみたいだし、説明を聞いてみよう。
「どうやら、オーディンが使ってきたスキルのうちいくつかを覚えられるチケットのようだよ」
「オーディンのスキルですか?」
「魔法系ならロックオンサンダー、物理系なら次元断だね。グングニルは覚えられないみたいだ」
「遠距離攻撃用の物理スキルはないんですか?」
「ないみたいだね。それがグングニルなんじゃないかって話だよ」
「なるほど。ありがとうございます」
そうなると、俺が覚えるのはロックオンサンダー一択になるんだけど……まあ、今度でいいか。
「トワくん、お話、終わった?」
「ああ、ユキか。お疲れ様」
「ユキさんもお疲れ様。こちらの話はすんだからもう行くよ。それじゃあ、またね」
ユキがやってきたのと入れ替わるように白狼さんが戻っていった。
そういえば、ユキは今まで何をしてたんだろう?
ユキの性格だと、戦闘が終わったらすぐにでも合流するような気がするんだけど。
「ユキ、何かあったのか?」
「うん? どうして?」
「いや、しばらく俺のところに来なかったのが珍しいなと思って」
「ああ、そういえばそうだね。最初はリクと話し込んでて、その後は、あっちでいろいろと話を聞いてたんだよ」
「あっち?」
「そう、あっち」
ユキが指さした方向には、いつの間にかオーディンが再び現れていた。
とはいっても、再戦という気配はなく、アイテム分配で賑やかになっている一団を楽しそうに眺めている感じだ。
もちろん、俺たち以外にも気づいているプレイヤーはいるが……尻込みして近づけないでいるな。
まあ、さっきまで戦っていた相手なんだから当然だろうけど。
少なくとも敵ではないみたいだし、行ってみるか。
「こんにちは。オーディンと呼んでも?」
「ああ、一向にかまわないぞ。よく我が試練に耐えた」
「ありがとうございます。それで、試練も終わったのに、なぜまた現れたんですか?」
「ああ、渡さねばならないものがあるのでな。そちらの娘には話したが……できれば全員一度に渡したい。呼んできてもらえるか?」
どうやら、まだイベントは終わっていなかったらしい。
そういうことなら、アイテム分配も一時中断してもらい、遠巻きに見ていたメンバーも含めて全員に集まってもらった。
「さて、全員そろったな。改めて、試練の突破おめでとう。貴殿らが初めての突破者だ。誇るがいい」
「ありがとうございます。それで、我々を集めた理由は何でしょう?」
「そうだな。物事は早め早めに進めねばな。では貴殿らにスレイプニルを与えよう!」
「おおっ!」
プレイヤーたちから歓声が上がる中、オーディンから光が放たれ、それが各プレイヤーに宿る。
これでスレイプニルの入手クエストも完了かな。
〈眷属『スレイプニル』を入手しました〉
《とあるプレイヤーにより『スレイプニル』が開放されました。詳しくは追加されたヘルプをご確認ください》
メッセージも流れたし、これで本当の意味でのクエストクリアか。
長かったなぁ。
「さて、これでスレイプニルもおまえたちの中に宿すことができた。本来なら、魂になじむまで時間がかかるが、今回はこちらで調整しておいたので名付けを済ませればすぐにでも呼び出せるだろう」
さすが初回クリア者特典。
その辺もフェンリルと一緒か。
「なあ、オーディンさんよ。スレイプニルも、呼び出したとき、最初は子馬からなのか?」
「いや、スレイプニルは最初から成獣の姿で貴殿らの元に現れる。ただし、成長するまでは戦闘力はないに等しいがな」
「完全に移動用ってことか。ありがとよ」
「ほかに質問があるものはいるか?」
その後も、いくつかの質問が出ることとなった。
ユキもスレイプニルの好む食事を聞いていたが、個々の個体で変わる、と言われてしまいちょっと落ち込んでいた。
まあ、基本的に雑食で何でも食べるというのがわかっただけでも価値はあったと思うけども。
質問が出尽くしたタイミングで、オーディンは帰って行った。
アイテム分配のほうも決着が付き、俺とユキはそこそこ多めな素材アイテムを抱えてクランホームへ帰還することとなったのだ。
ちなみに、白狼さんや仁王などの主要メンバーは、この後『インデックス』においてクリア報告とクリアデータの引き渡し、戦闘データ等の報告などなど様々な報告業務があるそうな。
今回のレイドは主要クランが勢揃いしてのアタックだったし、使った消費アイテムや装備品も一級品を惜しげもなく使っている。
それだけのものを用意するのは名だたるクラン揃いでも容易ではなく……『インデックス』などがスポンサーに付いていたらしいのだ。
「なるほどねぇ。白狼さんたちも大変だわ」
クランホームで出迎えてくれた柚月がそんなことを言う。
確かに、他人事だし、そんなものか。
「しかしそれにしても、珍しい素材じゃのう。金属と革素材ばかりというのが難点じゃが」
「木材や布材はなかったらしいぞ。まあ、敵が馬に乗った騎士の時点でその辺の素材が落ち無いのは妥当だと思うけど」
「それもそうじゃの。クラン内での分配は近いうちに決めようぞ」
「そうね。革っていうことは曼珠沙華も使うかもしれないし、私たちだけで決めるわけにも行かないでしょう」
いまクランホームにいるのは、俺と柚月、ドワンの三人だけ。
ユキは戻って早々にログアウトしていった。
「それで、トワはこの後どうするのよ?」
「どうって言われてもな……普段通りに生産三昧に戻るつもりだよ。いい加減、戦闘も刻印も飽きた」
「じゃろうな。わしもイリスも刻印はもう疲れたわい」
「……疲れたといって、オーダー入らないわけじゃないと思うけど。特に『インデックス』に今回のレイド情報が持ち込まれているならね」
「……じゃのう」
「……五重刻印はもうやだ」
現状、刻印装備でごり押しするしか方法が見当たらない以上、刻印装備の依頼が来るのは避けようがない。
でもなあ……。
「数日程度はゆっくりしたいなぁ……」
「まあ、その辺はなんとかなるんじゃない? さ、トワも今日はログアウトしてゆっくり休みなさいな」
「そうさせてもらうか。それじゃ、おつかれ」
こうして、割と長きにわたった『天上の試練に挑みし者』攻略は終わりとなった。
なお、攻略から数日間はゆっくりできたが、次の週末くらいから刻印装備の依頼が殺到してゆっくりできなくなったのは蛇足である。
**********
次回更新は土曜か日曜を予定しています。
掲示板回だよ!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます