後日談その2 Unlimited World Restart

366.リスタート

お待たせしました。

後日談、本編開始です。

なお、ネタに困ってますので、進行遅めです_(:3」 ∠)_

**********


「ねえ、起きてってば、悠くん」

「うん、うぅぅ」


 春休みが始まってからの朝、誰かに呼ばれて目を覚ます。

 ……いや、誰に呼ばれてるかはわかってるんだが。


「ほら、悠くん。いい加減に起きて」

「……もう少し寝ててもいいんじゃないか? 雪音……」


 春休みが始まってから、雪音はずっと俺の家に泊まっている。

 うちの親も、客間として使っていた空き部屋を雪音に引き渡し、雪音も海藤家と何回も往復して最低限の生活用品を運び込んでいたようだ。

 ……化粧台なんかも、プレゼントされてたみたいだし、本格的に雪音を引き込もうとしてるな、うちの親は。


「悠くん、春休みだからって不摂生はダメだよ。ようやくリハビリも終わったんだし、きちんとしようよ」

「……別に、朝六時から起きなくちゃいけない理由もないと思うんだ」

「そんなことないよ。ほら、起きよう?」


 雪音が来てからというもの、毎朝六時頃には起こされている。

 規則正しい生活ではあるんだが、正直、毎朝六時はつらいものがある。

 ……雪音が来る前は、朝七時に起きてて、それでも十分に支度が間に合ってたのに。

 これ以上粘っても無駄だろうし、起きるか……。


「ほーら。いい加減に起きよう、ね?」

「……わかったよ。起きて着替えるから、部屋を出てってくれ」

「着替え、手伝わなくて大丈夫?」

「着替え程度なら問題ない……というか、重い物を持たない限り大丈夫だから。心配してくれるのは嬉しいけど、自分のことができないほど深刻でもないぞ」

「そう? ならいいんだけど。それじゃあ、下で待ってるね」


 雪音が部屋から出て行ったので、大人しくベッドから起き上がり、着替えを済ませてしまう。

 カーテンを開ければ、今日もまたよく晴れた朝だ。

 まだまだ寒い季節だけど、晴れ渡ってるのは気持ちがいいな。

 ……放射冷却が恐いけど。


 身支度を調えて、リビングに行くと遥華も起きていた。

 こちらもかなり眠そうである。


「おはよー、お兄ちゃん」

「ああ、おはよう。そっちは大丈夫か?」

「うーん、慣れてはきたけど、やっぱりまだ眠たいね。お兄ちゃんは?」

「……まあ、大丈夫な範囲だな。顔を洗って歯を磨いてくるよ」

「わかったー。雪姉が朝ご飯を作ってるから、早めに戻ってきてねー」


 雪音が泊まり込むようになってからというもの、食事の支度は出来る範囲ですべて雪音が担当している。

 雪音に言わせれば、俺に料理をさせるのは危なさそうなので、自分がやるとのこと。

 気を使ってもらえるのは嬉しいけど、そこまで気を使われるのもなんとなく申し訳ないな。

 ……さて、そんなことより、身支度を調えて朝ご飯だな。



―――――――――――――――――――――――――――――――



「それじゃあ、病院行ってくるね」

「ああ、気をつけてな」

「大丈夫だって。きちんとわたしがエスコートしてくるから!」

「……遥華がついて行くことも不安材料なんだが」

「なにおー」


 今日は雪音の通院日だ。

 いままでは俺が付き添いだったのだが、今日は遥華が付き添いをすることとなった。

 本来なら、俺が行きたいんだけど……雪音と遥華、ふたりともに反対されたので、大人しく留守番だ。


「大丈夫だよ。病院が終わったら、すぐに帰ってくるから」

「そうそう。寄り道しないで帰ってくるから安心してね、お兄ちゃん」

「わかったよ。まだ道路が滑るから気をつけてな」

「うん。それじゃあ、行こうか、遥華ちゃん」

「そだね。行ってきます、お兄ちゃん」

「ああ、いってらっしゃい」


 ふたりを見送り、リビングに戻る。

 だが、特にやることもないし、テレビを見ても面白い番組は特にないな。

 ……少しゲームをやるとしようか。

 ようやく本調子に戻ってきた〈Unlimited World〉をするため、俺は自室に戻って準備をするのだった。



―――――――――――――――――――――――――――――――



「あら、おはよう、トワ。今日は随分早いわね?」

「おはよー、トワっち。午前中からログインとか、珍しいね」

「おはよう、柚月、曼珠沙華。今日はユキが出かけてるからな。時間が余ってしょうがないから、ログインしてきたんだ」


 普段だと、午前中は雪音に誘われるまま筋トレ……というか、ストレッチ? をしている。

 刺された足は完治して元に戻ったけど、まだ筋力は戻っていない。

 外はまだ寒いし、なにより路面が凍っていたりするから、ジョギングとかはできない。

 そのため、室内でできるストレッチなどで筋肉をほぐしているのが日常だ。


「ふーん、ユキちゃんがいないとログインできるんだ? っていうか、トワっち、ユキちゃんの尻に敷かれるの早くない?」

「……争ったって勝てないんだから、いいんだよ」


 まあ、尻に敷かれている自覚はある。

 ただ、雪音と言い争っても勝ち目はなさそうだし、実際、役に立つことをしてるんだから、どうにもならないよな……。


「まあ、いいんじゃないかしら、仲が良くて。……それで、トワ。あなたに指名で装備を作ってほしいって依頼がきているわけだけど」

「ふむ、誰からだ?」

「ターフって人ね。シューティングスターのプレイヤーよ」

「シューティングスターか。……正直、まだ依頼は受けたくないな」

「そう? リハビリも終わった訳だし、★12を作るのも安定してるでしょ?」

「どうせなら、それ以上を作れる環境が整ってから依頼を受けたいな。特級生産セットを買いそろえてからにしたい」


 特級生産セットは、★13以上のアイテムを作るために必要な生産道具だ。

 俺が休止している間に追加されたわけだけど……俺はまだ、入手できていない。

 入手のための条件が、生産系ジョブのギルドランクを上げることで、俺はまだランクアップできていない、というわけだ。

 ランクアップできていない理由は、単純に試験に通っていないからなんだけどね。


「……まあ、その気持ちはわかるわね。いまの実力なら、特級生産セットも手が届くわけだし」

「そういうわけだから、もう数日待ってもらってくれ。さすがに、ランクアップ試験をクリアできるだろうし」

「10個連続で★12を作る、なんて、怪我をする前だったら余裕だったのにねぇ」

「まったくだ。現実の怪我の影響が、ここまで影響するとは思ってなかったぞ」

「その辺もVR特有なのかしら? ……でも、コントローラーを使ったゲームでも、細かい調整ができなくなっていたら同じのような?」

「そんな細かいことはどうでもいいんじゃない? トワっちもようやく特級っていうことで」

「……まあ、ようやく、だよな。このクランで特級になっていないのは、俺だけなんだし」


 そう、特級生産セットを持っていないのは俺だけだ。

 ユキも特級生産セットを持っているあたり、かなり出遅れている。

 仕方がないこととはいえ、どうにかしたいものだったのだけど。


「とりあえず、夜には再試験に挑めるから、そのあとだな、依頼は。まあ、数日は新しい設備の作業に打ち込みたいけど」

「了解。返事はわたしがしておくわ。……それでこれからどうするの?」

「んー。お昼前まで、減った在庫の補充でもしてようかな。それなりに売れてるんだろ?」

「それなり、以上に売れてるわね。ウォルナットの作った薬も売れてるけど、回復量の多い錬金術を併用した薬のほうが売れやすいから」

「うーん、クルミにも素材を提供するか?」

「ウォルナットもあれでプライドがあるしねぇ。たぶん、受け取らないでしょうね」

「そんなものか。まあ、薬の生産をしてくるよ」

「お願いね」

「またねー、トワっち」


 柚月たちと分かれて、自分の工房へと足を踏み入れる。

 そこでは、オッドとクロユリが作業をしていた。

 オッドは俺がきたことを確認すると、作業場所を譲ってくれたのでサクッと薬作りをやってしまう。

 ……オッドもかなりレベルが上がっているし、そろそろレベルキャップかな?

 さて、薬作り、早く終わらせよう。

 別に禁止されているわけじゃないけど、雪音たちが帰ってくる前に作業は終えておきたいからな。


 こうして、俺の新しい一日は今日も始まったのだった。

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