終章 限りのない世界など存在せず

361.赤に染まる雪

本日から最終章公開

一気に公開していくよ


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 十二月が始まってすでに二週間ほど経過した。

〈Unlimitedゲー World〉ではクリスマスイベントなど始まっているが、個人的にはそっちの参加は最小限にしている。

 十二月はいろいろと忙しいんだよ。

 現実リアルでクリスマスパーティー準備とか、雪音の誕生日プレゼント選びとか。


 十二月は雪音の誕生月である。

 毎年、誕生日パーティーはクリスマスと一緒にやってきた。

 本人曰く、別々にやっても短い期間で何度もパーティーをするのは気が引ける、とのこと。

 実際問題、数日間隔で二回パーティーをするより、一回にまとめてしまった方が楽というのもある。

 ちなみに、まとめた結果、クリスマスイブにやるのが例年だ。

 やっぱり、オードブルなどを頼むのは世間一般のパーティーに合わせた方がいいらしい。


 ただ、プレゼントだけは一緒とはせずに、毎年ふたつ渡しているのだが……


「今年は、誕生日とクリスマス併せてひとつがいいな」


 という、雪音の一言によってひとつのプレゼントを選ぶことになった。


 プレゼント自体は、基本的に雪音同伴で選ぶのでハズレを選択することはない。

 周りには『サプライズがない』などと言われるが、本人も一緒に選びに行くこと自体がイベントになっているので、同伴で買いに行くのが毎年のこととなっている。

 去年贈ったプレゼントは、大きなぬいぐるみとクッションだったかな。


「悠くん、今年はどうするの?」

「どうって?」

「クリスマスだよ。イブはパーティーをするけど、クリスマス当日の予定は決まってないでしょ?」


 そういえばそうだったかも知れない。

 去年は……どうしてたかな?


「ちなみに、去年はβテストで三人とも不在だったよ」

「……ああ、もう〈Unlimited World〉が始まってたっけ」


 それはつまり、雪音を放っていたというわけで。

 二年連続で放置したら、怒られる程度じゃすまないよな。


「あー、今年はとくに用事もないかな」

「それなら予定は大丈夫だよね。ホームパーティーをやりたいから、手伝ってほしいな」


 ホームパーティー?

 雪音にしては珍しいな。


「わかった、手伝うよ。ホームパーティーって、なにをやるんだ?」

「うーん、友達を呼んでちょっとしたパーティーをするだけだよ。全部で……八人くらいかな?」

「じゃあ、料理を手伝えばいいのか?」

「うん。よろしくね」


 雪音が、友人を呼んでパーティーっていうのは珍しい。

 基本的に、俺を中心に行動してるから、友人関係は不安だったけど……。

 それなりにいい関係を築けているのかな。


「それよりも、今年のプレゼントってそれでよかったのか?」

「うん、これがよかったの。ありがとう、悠くん」


 今年のプレゼントは冬用のニット服やセーター、上着用のジャケットなど、いろいろな服のセット。

 俺としては、もっと別の物でもよかったんだけど。


「それで、このあとはどうする? どこかによって帰るか?」

「そうだね。……少し探したい本があるから、本屋さんに寄っていきたいな」

「了解。そのあとにでも、お昼ご飯を食べて帰ろう」

「うん、そうしようか」


 本屋に寄るために地下道を出ると、外はちらほらと雪が降っていた。

 季節的に珍しいことでもないし、とくに気にすることでもない。

 気にすることがあるとすれば……、体が冷えすぎないようにすることか。

 俺も雪音もマフラーで首元は覆ってるし、手袋も用意してある。

 本屋に寄るだけなら、これ以上防寒対策は気にしなくともいいだろう。


 だが、何事もなく本屋に辿り着くことはなかった。


 キャーキャー!!


「……なんだろう? 悲鳴?」

「わからないが……、雪音、気をつけろ」

「うん……、あ、あれ!」


 俺たちの前方にあった人混みが左右に分かれた。

 そこには、赤く染まったナイフを掲げた男がいて……。


「……!! 危ない!!」

「雪音!!」


 ナイフを振り回す男の前に、雪音が飛び出した。

 雪音は転んだ子供をかばうように、男から背中を向けていて……。


「ちっ、この!!」


 雪音に向かってナイフを振り下ろそうとしていた男の前にギリギリ割り込む。

 無論、ナイフを受け止められるような状況では無く。


「悠くん!」

「っ……! 大丈夫か、雪音」

「私は大丈夫だけど、悠くん!!」


 男のナイフは、俺の右腕に深々と突き刺さっていた。

 すでにナイフは引き抜かれており、周囲に赤い血しぶきが舞っている。


「お前、邪魔をするな!」

「……よくわからないけど、通り魔の邪魔くらい、必要ならいくらでもするさ!!」


 再びナイフが振り下ろされ、ギリギリのところで右手を割り込ませる。

 ナイフの刃を右手で受け止めることは成功したが、勢いのまま押し込まれ……右目にひどい熱さが走る。

 しかし、ナイフを奪うことには成功した。

 これ以上は、けが人が増えることはない。

 そう思っていたが、男は二本目のナイフを取り出していた。


「このっ、まだ刃物を持っていやがったか!!」

「うるさいッ! 死ねッ、死ねッ!!」


 あちらも興奮しており、意味のある言葉は口にしていない。

 二本目のナイフが振り下ろされ、それを妨害するため、無理矢理足を動かして凶刃を受け止める。

 左足を激しい熱さが襲うが、俺の意識ははっきりしている。

 右手に突き刺さっていたナイフを引き抜き、男の腕を切り裂く。


「アァァァ!! 痛い、痛い!!」

「うるさい! 痛いのは俺も一緒だ!」


 切り裂いたナイフを翻し、男の足に突き刺す。

 ……これで、あちらももう、まともに動けないだろう。

 俺に向かって倒れ込んできた男を弾き飛ばし、その反動で俺も後ろに倒れ込む。


「悠くん、悠くん!」


 見れば、雪音の顔にも俺の血が付着していた。

 ただ、その顔も薄くぼやけてきている。


「悠くん、しっかりして、悠くん!!」


 血を流しすぎたのか、俺の意識はゆっくりと遠ざかっていく。

 ……俺たちを襲っていた通り魔も、足に突き刺さったナイフのせいでまともに動けないみたいだし。


 これ以上、雪音に脅威が襲いかかることはない。

 そう判断した俺は、眠気に誘われるまま、意識を手放した。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「悠くん、しっかりして、悠くん!!」


 悠くんのまぶたがゆっくりと閉じていく。

 私はまた・・なにもできないで見送ることしかできないの!?


「道を開けて、警察です!!」

「……おい、悠、しっかりしろ、悠!」


 気がついたら、悠くんのおじさん、光太郎さんが悠くんの応急手当をしていた。

 救急車のサイレンも聞こえてる。

 今度は悠くんが私を置いて行っちゃうの?


「……クソ、止血はできたがギリギリか! 救急車、早く!」

「お嬢さんたちは大丈夫か!?」


 私に駆け寄ってくる警察官を見ていると、ぼんやりと別の光景が浮かんでくる。

 その光景は、私が昔見ていた光景で……。

 ……ああ、秋穂お姉ちゃんと一緒だ。


 そのことに気がついた私は、意識を手放した。



**********



361話終了

次話の更新は12時頃を予定

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