354.マイスタークラス終了

「いやー、さすがだっぺな。『ライブラリ』の職人相手に勝てるとは思ってなかっただが、惜しいところまではいけただよ」

「きこりーやさん、おつかれー。ホント、あと一歩で負けてたよ」

「だなぁ。やっぱり、バフアイテムだよりでは厳しかっただよ」


 バフアイテムって最後のほうで飲んでたポーションだよね。

 あれってどういう効果があったんだろう?


「使ってたポーションってどんな効果があったの?」

「ああ、あれだか。『フォースドクーリングポーション』ってヤツだ。『効果時間中はスキルのリキャストタイムがなくなるが、効果時間が切れると強制スタンする』ってアイテムだっぺな」

「そんなポーションあったんだね」

「おんや? トワ殿にはもらっていないだか?」


 トワがくれたポーション、多すぎて把握しきれていないんだよね。

 もらったポーションを一覧にして見てみるけど、そのポーションはないみたい。


「えーと。……もらったアイテムの中にはないね。トワなら作っててもおかしくないんだけど」

「効果がピーキー過ぎるから、渡さなかったのかも知れないだな。ともかく、楽しい試合だったっぺよ。……鉄鬼殿との試合は、一方的だったでなぁ」

「鉄鬼は相性がもろにでるからね。仕方がないよ」

「んだな。それじゃ、お疲れ様だ」

「はーい。またねー」


 試合も終わったし、このまま舞台上に残ってても仕方がない。

 きこりーやさんも帰っていったし、ボクも戻ろっと。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



『ライブラリ』の皆がいる観戦スペースに戻ると、トワとユキちゃん以外の全員がいたよ。

 おじさんはさっきいなかった気がするけど、いつの間にか来ていたみたい。


「お疲れ様だね、イリス。最後、かなり危なかったねぇ」

「うん。かなり危なかったよ」

「だよねー。なんで最後、いきなり止まったんだろうね?」

「そういう効果のポーションを使ってたんだって。スキルを連発できる代わりに、効果が切れると強制スタンになるポーション」

「それはまた珍しいものじゃのう。イリスはもっておらんかったのか?」

「持ってないよ。トワがくれたポーションには含まれてなかったみたい」

「へぇ。トワが作っていないとは思えないし、なにか理由があったのかしら?」


 柚月が言い出した疑問に、全員が考え込んだ。

 でも、結局、答えは出ないので、明日トワに聞いてみることに。


「それで、このあとはどうするの? 決勝戦が終わったら表彰式のはずだけど」

「うーん、それなんだけど、ボク、もう眠い」

「じゃろうの。すでに現実では10時近いからのう」

「表彰式って、全員参加だっけ?」

「ええと……任意参加みたい。できる限り、参加してほしいようだけど」

「だったら、無理してまで参加する必要はないと思うけどねぇ。明日は学校なんだし、早めに休まないと」

「……それもそうだね。運営に欠席のメールを送ったら寝ることにするよ」

「おやすみ、イリス」

「皆、おやすみー」


 さて、メールも送ったし、ログアウト。

 今日は、このまま寝ちゃおう。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「おはよー、皆ー」

「あ、立華ちゃん、おはよう」

「おはよう、立華」


 翌日、昨日の反動か、まだ眠い目をこすりながら登校した。

 ゲームばっかりに集中して、勉強をおろそかにしたら、怒られちゃうし。


「そういえば、立華ちゃん。昨日の試合、みてたよ。大活躍だったね」

「え? ああ、ゲームの話? 私がイリスだってこと、教えてたっけ?」


 あれ?

 学校の友達には〈Unlimitedゲー World〉をやってることは教えたことがあるけど、プレイヤーキャラの話をしたこと、あったかな?


「ううん。聞いてないけど、顔とかみればわかる人はわかるよ。でも、さすがに運動神経バツグンだよね」

「そうかなー。センパイたちには敵わないんだけど」

「先輩たちって?」

「トワ先輩とか鉄鬼先輩」

「……さすがに、その辺の人たちは無理なんじゃない? だって、武闘大会で優勝するような人たちでしょ?」

「……まあ、そうなんだけどね」


 でも、目標としては、いつかは本気の勝負で勝ってみたい。

 まだまだ遠い目標だけど。


「それよりも、立華ちゃん。今度一緒に遊ばない?」

「うーん。時間があればいいけど、しばらくは時間がないよ?」

「そうなの?」

「まだ、武闘大会が終わってないからね。お仕事の依頼が残っているんだよ」

「そうなんだー。でも、『ライブラリ』の職人だったら仕方がないのかな」

「どうなんだろうね。そろそろ、私たちの技術に追いつく人が出てきてもいいころなんだけど」

「……それは難しいんじゃないかな。あ、先生が来たから席に戻るね。この話はまた今度」

「うん。またね」


 そんなにわかりやすい格好だったかな。

 目の色や髪の色、髪型を変えてるから気付かれないと思ってたのに。

 ……でも、リアルの友達と一緒に遊ぶのも悪くないかな。

 さて、勉強勉強。



 ―――――――――――――――――――――――――――――――



「こんばんはー。トワ、いるー?」


 学校が終わって、夜のログイン。

 表彰式を欠席したから、賞品はメールで届いていた。

 スキルチケットはさっくり処理して、副賞の楯は工房に飾っておく。

 なんでも、少しだけ生産品の品質が上がる効果があるらしい。

 ……他の人との差がつかないように、気持ちだけだって。


 そのあと、残ったポーションを返却しようとトワの工房に行ったら留守だった。

 留守番をしていたオッドとクロユリに聞いたら、トワとユキちゃんはジパンの家に行ったって。

 返却は早いほうがいいだろうし、ボクもジパンに来たんだけど、ふたりとも家にいる気配がない。

 ここにいるって、聞いてきたんだけどな。


「グルゥ」

「あ、シリウス。こんばんはー」

「ガゥ」


 玄関でどうしようか悩んでいたら、シリウスがやってきた。

 シリウスがいるってことは、やっぱりトワは家の中にいるんだろうか。


「ねえ、シリウス。トワっている?」

「ワフ」


 ボクの質問にシリウスは一度吠えると、庭のほうへと歩き始めた。

 少し進んだところでボクの方を振り返ったから、ついてこいってことかな。


「それじゃあ、案内お願いね」

「ワフゥ」


 シリウスに連れられて辿り着いたのは、家の奥にある道場。

 中からは、剣と剣がぶつかり合う音が聞こえてくる。

 でも、カンカンとか、キンキンじゃなく、シャインシャインって感じなんだよね。

 一体どういう稽古をしているんだろう?

 シリウスは、障子を開けて中に入っていったので、ボクもそれに続く。

 中で稽古をしていたのは、トワとユキちゃんだった。


「……あれ、イリスちゃん。遊びに来たの?」

「うん? イリスか。どうかしたのか?」

「こんばんはー、ふたりとも。ポーションの返却に来たよー」

「……ああ、別に全部もらってくれてもよかったんだけどな」

「持っていても、使い道がないからねー」

「そうか。なら、受け取るとしよう」


 トワに残っていたポーションを全部返す。

 使った分のポーション代を払おうとしたんだけど、それはいらないっていわれた。


「……思ったよりも減ってないな。使う機会がなかったのか?」

「うーん、使うタイミングがよくわからないんだよねー」

「それもそうか。そうそう、三位入賞、おめでとう」

「おめでとう、イリスちゃん」

「ありがとー。ところで、なんで急に稽古を始めたの?」


 普段は滅多に稽古なんてしてなかったはずなんだけど。

 たまには運動がしたくなったのかな?


「……ああ。実はオープンクラスに出場することになってな」


 ……ボクが思っていたよりも、大事だったよ。



**********



~あとがきのあとがき~



今回でイリス編は終了。

次話からトワ視点に戻ります。


……本当は、これで本章を終わりにして次章に行く予定でしたが、変更することに。

まあ、そんなに話数は増えませんけどね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る