327.エピローグ 11月のイベント
「さて、今日のハロウィンパーティは楽しんでいただいているだろうか? ……ああ、今日は昨日のような襲撃イベントはないので安心してほしい。また、パーティ会場にいないプレイヤーにも、同時中継でこの様子は配信されているので、パーティに参加しているプレイヤーのみに情報が集中することはない、と伝えておく。それから、すまないが、この映像は事前収録したものを流しているため、質問等には答えることができない」
久しぶりに見た、UW運営管理室室長。
おそらく、全てのハロウィンパーティ会場に同時に現れているんだろうな。
「それでは、今日の本題だ。今回お邪魔させていただいたのは、11月に行われるイベントの告知のためだ。 11月は、毎週土日を使って一つのイベントを行わせていただく」
榊原氏は来月のイベントについての説明のためにやってきたらしい。
「おお、なんだか大きなイベントの予感! どんなイベントなんだろう!」
妹様はイベント内容に興味津々の様子だ。
俺もイベント内容は気になるけどな。
……まあ、参加するしないは別として。
「お待ちかねのイベント内容についてだ。……さて、あの5月の熱い戦いから早半年、それぞれのプレイヤー達が様々な面で成長を遂げたであろう。そう、今回のイベントは第二回武闘大会の開催だ!」
「第二回武闘大会!?」
「マジかよ……」
「遂にきたか!」
「よっしゃ、やってやるぜ」
「私はPvP苦手だし、パスかな……」
第二回武闘大会の開催か。
パーティに参加しているプレイヤー達の反応は様々だが、明確に拒否の言葉は出てきていない。
……参加したくなければ参加しなくていいんだし、その辺は人それぞれだよな。
「今回の武闘大会もいくつかのクラスに分けて行われる。クラス分けや日程などの詳しい内容は、この後、公式ページにて公開されるのでそちらを確認してもらいたい」
この場での発表は、開催についてのみか。
あの室長にしては随分と大人しい気がするけど、他になにか企んではいないだろうか。
「今回も優勝者には豪華景品を用意してある。また、参加者以外にも優勝者予想という形でイベントに参加可能だ。今回は優勝者を当てることができたプレイヤーにも、豪華景品が当たるチャンスがあるぞ」
ふむ、それって出場者以外でもスキルチケットなどがもらえるチャンスということだろうか。
最近だと、スキルチケットの有無による差が激しくなってきているみたいなので、そこを緩和するための措置かな。
「具体的な日程やクラス分けについての情報などは今後、ハロウィンパーティが終わった後に公式ページで公開予定だ。それまで、パーティ参加者諸君は存分にパーティを楽しんでくれたまえ。ハロウィンパーティに参加していないプレイヤー達も、詳細についての情報開示を楽しみに待っていてほしい」
いまはまだハロウィンパーティの途中だものな。
それを来月のイベント告知で潰すような真似はしないか。
「それでは、ハロウィンパーティは十分後から行われる、花火の打ち上げを持ってフィナーレとなる。興味のあるプレイヤー達は、二階空中庭園に移動してもらいたい。また、この放送の終了から、ハロウィン衣装を持っていないプレイヤーもパーティに参加可能となる。時間的に花火の打ち上げしか楽しむことはできないだろうが、興味のあるプレイヤーは近くの転移ポータルからパーティ会場へと移動してもらいたい。それではステキな夜をお楽しみあれ」
セリフが終わると室長の映像は消えてしまった。
スポットライトも消えて、室内の照明も元の明るさを取り戻す。
「お兄ちゃん! 武闘大会だよ、武闘大会!」
「そんな連呼しなくても聞こえてるよ」
「そういわれても、楽しみなんだから仕方がないじゃない! お兄ちゃんは今回も参加するよね?」
「参加する前提で話を振られてもな。……正直、今回は参加しなくてもいいと思っているんだが」
「そんなのダメに決まってるじゃない! お兄ちゃんはβ時代の総合優勝者で、前回大会の部門別優勝者なんだからね!」
「そうは言ってもな。結構めんどくさいとしか言いようがない」
「消極的だなぁ。まあ、いくら消極的でも運営側からも参加依頼があると思うけどね」
「……だろうなぁ。まあ、前回はいい感じに暴れてしまったし、今回は不参加です、とは簡単に言えないよな」
「そうそう。そんな簡単に不参加を決め込めるとは思わない方がいいよ!」
「……半年前の自分に『武闘大会に参加するな』と言いたい」
「それはそれで無理なんじゃないかな? β時代の優勝者が参加しない、っていうのも盛り上がりに欠けるだろうし」
「……否定できないのが辛いな」
「そうそう。人生、あきらめが肝心だって! というわけで、わたしは今回も優勝狙いでいくからね! お兄ちゃんも優勝目指して頑張ってよ!」
「……わかったよ。このパーティが終わった後の詳細を見て、参加するかどうか決めることにするよ」
「往生際が悪いなぁ。この場で『参加する』って言ってもいいじゃない」
「……土日開催なんだろ? 場合によっては、日程があわない可能性だってあるからな」
「……ああ、あー……うん、それもそうだね。……願わくば、お兄ちゃんの用事がない日に開催されますように」
実際問題、土日開催となると、普通にリアルの用事が入っている週がある。
その週に武闘大会が開催されることになってしまえば、参加できなくなるのでどうにもならない。
せめて、今月初めに日程が公表されていれば、予定の調整もできたのだろうが、これから調整することは難しいからな。
その場合は、大人しく参加辞退ということになる。
「……さて、わたしはそろそろ二階の空中庭園とやらに移動するよ。お兄ちゃん達はどうするの?」
「ああ、そうだな。そろそろ俺達も移動するか」
「うん、そうだね。空中庭園に行ってみよう」
「それじゃあ、三人一緒に行ってみよう。さあ、しゅっぱーつ!」
ご機嫌なハルに先導されて、俺とユキは二階、空中庭園へと移動する。
空中庭園は広々とした空間で、多くのプレイヤー達がやってきても狭さを感じさせない作りになっていた。
というか……
「なんだか、パーティ会場の時よりも人の数が減ってるよね?」
「そうだな。おそらく、パーティ会場から移動するときに、再度別エリアに移動したんだろう」
「のんびり花火が見られるようにってことかな?」
「だろうな。まあ、混雑していないならそれに越したことはないだろう」
「それもそうだね。さて、昨日は見られなかった花火はどんな感じなんだろうなー」
「まあ、至って普通の打ち上げ花火だぞ。そこまで期待する程のことでもないさ」
「それでも、楽しみなものは楽しみなんだから仕方がないじゃない。……そろそろ始まる時間かな?」
「だな。……さて、今日の花火はどんなものか」
「あ、トワくん、ハルちゃん。始まったみたいだよ」
ユキの言葉通り、まずは幕開けといわんばかりに、大きな花火が一つ、大輪の華を咲かせる。
それに続いて、連発花火や仕掛け花火なども加わり、闇色の空に鮮やかな色彩を纏わせていた。
その後、花火の打ち上げは三十分ほど続き、閉めとして、今日の花火の中でも最大級の大きさを誇る花火が打ち上げられ、イベント終了となった。
《本日のハロウィンパーティイベントはこれにて終了となります。三十分後までにイベントエリアから退出してください。退出せずに残っていた場合、最後に使用した転移ポータル付近へと強制送還となります》
《なお、第二回武闘大会の詳細について、この放送の三十分後に公式ページにて公開されます。皆様の参加をお待ちしております》
アナウンスも流れたし、これでパーティも終わりのようだ。
これ以上ここに留まってもやることはないし、引き上げるとしますか。
「ハル、俺達はそろそろ戻るけど、お前はどうするんだ?」
「パーティの皆と合流かな。それで、武闘大会の詳細を待ちつつレベル上げにいってくるよ」
「そうか。それじゃ、俺達は行かせてもらうぞ。あまり夜更かししないようにな」
「うん、またね。お兄ちゃん、ユキ姉」
「またね、ハルちゃん」
ハルと別れて、パーティ会場からクランホームへと転移で戻ってくる。
談話室に戻ると、パーティに参加していたメンバーが全員、思い思いに休んでいた。
「あら、お帰り二人とも。花火は楽しんできた?」
「はい、昨日よりも盛大になっていました」
「そう、それはよかったわ」
「うん? 柚月達は見てないのか?」
「いいえ、見てきたわよ。まあ、全員バラバラだったけどね」
「わざわざ集まって行く必要もなかったからのう」
「でも、ゲームの中の花火も悪くないよねー」
「そうそう。リアルじゃできないような花火だって、ゲームの中なら表現できるしね! あの、龍を象った動く花火とかすごかった!」
「……まあ、とにかく、それぞれ楽しんできたわけね。それで、この後はどうするの?」
「この後ってなにかあったっけ?」
「武闘大会の話よ。参加するんでしょ?」
「むしろ、参加しないといけないと思うんだ、トワっちは」
「……できれば参加したくないんだけどな。そういうわけにもいかなさそうだ」
「じゃろうな。前回大会の優勝者が参加せんと盛り上がりに欠けるじゃろう」
「だよねー。基本的に、トワは参加しなくちゃダメだと思うんだよねー」
「だよな。……まあ、諦めて参加する方向で考えるさ」
やっぱり、逃げ場はないらしい。
理由もなくごねても無理だろうな。
「ともかく、参加するかどうかは日程次第だな。場合によっては、リアルの予定とぶつかる可能性もあるから」
「なるほどのう。まあ、リアル事情で参加できないときは仕方がなかろうて」
「それもそうね。それで、詳細が発表されるまで待つの?」
「……そうだな。詳細は明日確認しても問題ないから、ログアウトするとしようかな」
「了解。私達もログアウトするつもりだったから、今日は活動終了ね」
「そうだねー。それじゃあ、皆、おやすみー」
「うむ、おやすみじゃ」
「また明日ねー」
「ああ、また明日」
「皆さん、おやすみなさい」
こうして、俺達のハロウィンイベントは終了した。
明日からは第二回武闘大会の話で持ちきりになるだろうな。
できれば参加したくないけど、そういうわけにもいかないだろうから、諦めて参加する方向で考えておこう。
さて、それじゃあ、ログアウトして寝るとしよう。
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