第9章 カボチャ狩りの季節に

288.10月度アップデートとイベントのお知らせ

「あ、今月のアップデート予定とイベント予定のお知らせがでてるみたいだよ、お兄ちゃん」

「うん? そうなのか?」


 10月に入り暑さもやわらいできたある日、遥華がUnlimited World運営のお知らせからアップデート関連のお知らせを見つけたようだ。

 ただなあ、今、俺は料理中なんだが。


「うん、そう。それでアップデート内容だけど、お兄ちゃんは忙しくなるんじゃないかな?」

「どういう意味だ?」

「アップデート内容に『武器種の追加』っていうのがあったんだけど、銃にショットガンの追加っていうのがあるよ。あと、『【錬金術】スキルで作れる各種武器の追加』だってさ」

「……随分とピンポイントで【錬金術】スキルにフォーカスが当たってるな」

「うーん、ほら、今まで【錬金術】スキルって表に出てくることが少なかったじゃない。基本的に銃やアクセサリーを作る以外だと裏方作業というか下ごしらえ的なのが多かったしさ」

「まあ、確かにその通りだが」

「それで、この機会にテコ入れって感じじゃないのかな。他の生産スキルと同じくらいのスキルにしたいとかさ」

「だといいんだがな。でも、そもそも錬金術メインのプレイヤーは少ないのに、今のタイミングでアップデートかけて大丈夫なのかね?」

「さあ? そこは既存の錬金術士が頑張るところじゃない?」

「……めんどくさそうな話題だ」

「お兄ちゃんはお店も持ってるのに面倒くさがり過ぎるよ」

「そうは言われてもな。俺としてはゆったり楽しみたいわけで」

「お兄ちゃんはもう少し働いてもいいと思うよ? それからお金貯めすぎだから適当に使った方がいいと思うの」

「……適当に使えと言われてもな。使う先がないんだよ。装備も既に整っているし、消耗品は自力で揃う。素材の追加以外でお金を使うことがないからな」

「……ようやくアクセサリーとかを★12に更新できたわたし達からすると羨ましい限りだね」

「生産職クランなんてどこも似たような感じになるんじゃないか? お互いの得意分野で融通しあうから自分達の間だけで経済が閉じてしまうというか」

「……さすがにそこまで行くのは上位生産クランだけだと思うけどね」

「そんなものかね? 俺達はβの時からそんな感じだけど」

「『ライブラリ』はβの時から割と閉じた集団だったからねー。よくそれでこまらないものだな、とは常々思ってるんだけど」

「そもそも生産マニアが集まったようなもんだからなぁ。戦闘とかそれ以外のコンテンツはオマケみたいに考えてる人間がメインだったし……。っと、そろそろおかずできるから、この話はまた後でだな」

「りょうかーい。……そだ、後でお兄ちゃんのお家に遊びに行っていい?」

「うん? ジパンの屋敷か。構わないけど、そっちのパーティは大丈夫なのか?」

「今日は自由行動の予定だからね。問題ないよ」

「わかった。……ともかく、まずは夕食だな」

「はーい。準備手伝うねー」


 俺は用意できたおかずをお皿に盛り付ける。

 今日は手早く豚の生姜焼きである。

 千切りキャベツに添えて、完成っと。


「うん、今日もおいしそう。それでは、いただきます」

「ああ、いただきます」


 アップデート関連の話は気になるところだが、まずは夕食だな。

 アップデートについては夜にログインした後にでも調べればいいか。

 まずは目の前の夕食に専念するとしよう。




 ―――――――――――――――――――――――――――――――




「ヤッホー、お兄ちゃん遊びに来たよー」


 ゲームにログインして少し経った頃、ジパンの屋敷でハルを待っていたがどうやらやってきたようだ。


「ああ、ハルか。適当に入っていいぞ」

「了解。それじゃあ縁側に向かうね」


 どうやら俺の声から俺が縁側にいることがわかったらしい。

 屋敷の門の方からハルがやってきた。


「お兄ちゃん、さっきぶり。ユキ姉は?」

「ユキはまだログインしてないみたいだな」

「そうなんだ。珍しいね」

「まあ、あっちにだって事情はあるさ。それで、なんで遊びに来たんだ?」

「んー? 暇だったから? ゲーム内で会うなんて滅多にないしいいかなと思って」

「……構わないけどな。それで、この後どうするんだ?」

「とりあえず、運営のお知らせを読もう。それと、ペット貸して。イエネコはお兄ちゃんの膝の上だから、豆柴がいい」

「わかったよ。……ほれ、呼び出したぞ」

「わーい、ありがとう。……さて、それじゃあさっきの続きを読もう」

「俺は最初からだけどな」

「そう言えばそうだっけ。まあ、気にしない気にしない」


 お気楽なハルは横に置いておいて、アップデートとイベントについてのお知らせを読んでみる。

 今回のアップデートはそれなりの分量があるみたいだな。


 まずはアップデート関連の情報を確認。

 アップデート項目は色々とあるみたいだが、さっきハルに教えられた通り装備関連のアップデート項目を確認してみる。


 まず目に入るのは、『錬金装備の追加』だ。

 どうやら、アクセサリーのように錬金術で様々な武器を作れるようになるらしい。

 実際にどのような武器が作れるのかは書かれていないが、既存の武器との差別化はどうするんだろうな。

 きっと、普通の武器とは違う何かがあるとは思うんだけど。


 次に関連がありそう……というか、俺としては否応なしに関わる事になるのは『武器種:ショットガンの追加』だ。

 今までは無かった武器種の追加となれば、かなり大事になるだろう。

 ショットガンの大分類は当然だけど【銃】スキルのようだ。

 その派生として【ショットガン】が追加になるらしい。

 公式の紹介を信じるなら、大分要望が多かったらしいな。


 ショットガンは大別して2種類の系統になるらしい。

 短銃身・短射程・高火力のショートバレルショットガンと、長銃身・中射程・中火力のロングバレルショットガンの2種類だ。

 ショートバレルショットガンは極めて短距離しか攻撃距離がない代わりに、攻撃力が高い設定らしい。

 対してロングバレルショットガンはハンドガンと同等程度の攻撃距離だが、攻撃力はそこまで高くないらしい。

 また、ロングバレルショットガンはライフルと同じく両手武器扱いになるらしい。

 ショートバレルショットガンが片手武器なのは……まあ、システム的な制約と割り切るしかないだろう。


 そして弾丸だが、これは物理弾丸を一度の攻撃で複数個消費するらしい。

 攻撃は散弾タイプのものしか存在しないようだ。

 また、ライフルと同じように連射系スキルが単発発射になるようだ。

 さらに、一部のスキルは使用不能と書かれている。

 どのスキルが使えないのかはわからないけど、立ち回りの変化も求められるかもな。


「お兄ちゃん、アップデート項目読み終わった?」

「うん? 自分に関係がありそうな部分だけは読んだぞ」

「って事はイベント関連はまだだよね。今月のイベントはハロウィンイベントだってさ」

「ハロウィンイベントね。まあ、10月だしありきたりと言えばそれまでだよな」

「そうだね。まあ、お約束というのも大事だとは思うよ?」

「別に否定してるわけじゃないさ。それで、内容的にはどんな感じなんだ?」

「うーんと、基本的にはカボチャ狩りだってさ。内容的には、各街でイベントが追加されてたり、フィールドやダンジョンにカボチャのモンスターが現れるんだって。それらを集めるイベントらしいよ」

「なるほど。それで、何か景品でもあるのか?」

「イベント担当の住人NPCにカボチャを渡すとアイテムと交換してくれるようだね。もっとも、スキルチケットみたいなレアアイテムはほとんどなくて、ハロウィンの仮装装備がメインのようだけど」

「仮装装備なぁ。運営が衣装を配るって事は、何か他にイベントでもあるのかね?」

「うーん、どうだろうね。公開されている情報以外にもまだコンテンツはあるらしいけど……。あ、あとはカボチャは納品する以外にもアイテム作成に使えるらしいね」

「アイテム作成ね。それって料理に使えるって事か?」

「料理だけじゃなくて、鍛冶とか裁縫、木工、細工、調合、錬金そう言ったスキルでも使えるらしいよ?」

「……カボチャなんだよな?」

「カボチャらしいね」

「カボチャで鍛冶ってなんなんだ?」

「さあ? あくまでゲームの話だし、いいんじゃないのステキ素材って事で」

「カボチャってなんなんだろうな……」

「ゲームでそう言うところを気にし始めたら負けだよ、お兄ちゃん」


 俺の中のカボチャのイメージが崩れそうだけど……まあ、良しとしよう。

 あれ、そういえば……


「そういえば、カボチャって今食材として実装されてたっけ?」

「さあ? わたしが知るわけないじゃない」

「……それもそうか。それならユキがログインしたら……」

「私がどうかしたの? トワくん」


 どうやらちょうどいいタイミングでユキがログインしてきたようだ。


「こんばんは、ユキ。ちょっと今月のアップデートについて話をしていてな」

「ヤッホー、ユキ姉。今月のイベントでカボチャ狩りがあるんだけど、今ってカボチャが食材としてあるかって話をしてたの」

「カボチャ? カボチャならあるよ。レシピにもパンプキンスープとかあるもの」


 そうだったのか。

 全然知らなかった。


「そうなんだね。でも、お店で売ってる所を見かけないけど……」

「うーん、カボチャの原価が高いのと料理としての性能があまり高くないからじゃないかな? パンプキンスープの補正値とトマトスープの補正値を比べると、トマトスープの補正値の方が高いんだよね。それでいて、カボチャを買おうと思うと王都まで行かなくちゃいけないし、多少とはいえ値段が高めのお野菜だし……」

「つまり、一般販売している食材としては魅力がないんだね」

「そうなるのかな。多分、好きで作ってる人はいると思うけど……」

「ゲームだからねぇ。性能が劣ってるアイテムをわざわざ作る人は少ないよねぇ」


 その辺は世知辛いよな。


「……でも、今月のアップデートでカボチャ狩りって言うことは、何か修正でもあるかもね」

「そうだと料理をする側としては嬉しいかな?」

「……俺としてはカボチャを使った装備っていうのが気になるけどな」

「そっちは多分ネタ装備だよ。……まあ、気になるけど」

「装備も作れるんだ。さすがゲームだね」

「……ほら、この程度の理解が一番問題ないんだよ、お兄ちゃん」

「……気になると仕方がないタイプなんだよ」


 ユキも合流したので3人で運営からのお知らせを確認することになったが、これ以上はめぼしい発見はなかったかな。

 ハルが戦闘関連のコンテンツで「フェンリルの緩和きた!」って叫んでたけど。


 この日はアップデート関連の確認とのんびりした雑談で終えることとなった。

 実装は、まだ先のようだしそれまではのんびり過ごさせてもらうとしようかね。

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