243.【10日目】決戦に向けて
時は進んで金曜日のログイン。
水曜と木曜は必死になってポーション作成をしてたので語るような事は何もなかった。
というか、必死になって作ったけど、それでもまだ足りないらしいのでお手上げである。
ただ、水曜日になってから防衛戦のルールが発表された。
防衛戦当日の土日は、イベントサーバーの滞在時間制限が解除されるらしい。
そのため、当日は午前中から目一杯ログインして最後の詰めを行えるらしいのだ。
そんな理由もあって、本日金曜日についてはアイテム作成はお休みとなった訳である。
アイテム作成を休んで俺が行う事、それはセイメイ殿からもらった巻物の完全解読である。
夏休み中にほとんど読み解いてあったのだが、夏休みが明けてからは一切手をつけられずにいた。
決戦当日は俺も戦闘に参加する予定なので、このスキルがあるかどうかで戦力が大分変わるはずである。
ジパンの屋敷で巻物を解読していると、ユキがやってきて差し入れをしてくれた。
最近は和菓子系統を作るのにこっているらしく、今日は草大福だった。
「ねえ、トワくん。明日の防衛戦ってどんな感じになるのかな?」
「そうだな……ユキはβを知らないから防衛戦の雰囲気はわからないか」
「βの時は防衛戦があったの?」
「βテスト期間の最後の日曜日にあったな。その時は……確かアンデッドの群れとの戦闘だったかな」
「その時ってどうだったの?」
「最初は小手調べというか前哨戦と言った感じで、ゾンビだのスケルトンだのの群れとの戦闘だったな。その時は範囲攻撃持ちが全体的に削って、単体攻撃でとどめを刺すって流れで対応してた」
「ふむふむ。その次は?」
「その先はレイドボスタイプのボスモンスターとの連戦だったな。ヒュージスケルトンにワイトキング、エルダーリッチ。その手の巨大ボスと連戦した後に、最後はヴァンパイアロードが出てきたかな」
「うーん、レイドボス戦かぁ。私の役目ってどうなるんだろう?」
「おそらくは、レイドチームを組んでバフとデバフをばらまくだけで大丈夫だと思うぞ。少なくとも俺とユキ、イリスは戦闘に参加する事になってるらしいから」
「柚月さんとドワンさんは?」
「2人は街中で死に戻りしたプレイヤーの装備修理とか、支援系の役割だな。当日は眷属も使えないって話だし、柚月とドワンは後方支援に徹する事になってるよ」
「そうなんだ。それなら安心かな」
「俺達は戦場に出るから気が抜けないけどな。基本的に封印鬼と同じ感じでやってれば問題ないよ」
「そっか、それなら大丈夫かも。……お茶のおかわり持ってくるね」
「ああ、ありがと」
ユキと時折話しながら、巻物の解読作業を黙々と進めていく。
残り15%程度だったので、2時間もあればいけるかと思っていたけど、そこまで甘くなかった。
解読作業そのものは順調に進んでいったけど、結局3時間ほど巻物の解読作業に時間を費やす事になった。
巻物の解読が全て終了すると同時にシステムメッセージが表示された。
〈スキル【式神招来・十二天将】が取得可能になりました〉
夏休みからコツコツと積み上げてきた努力がようやく実った瞬間である。
さて、スキルを取得……って、取得するのにSP80も必要なのか……
セイメイ殿が使った時の効果を見る限りかなり上位のスキルである事は間違いないけど、ここまでSPを要求されるとはな。
まあ、SPには大分余裕を持たせてあるし、覚える分には問題ないんだけど。
〈【式神招来・十二天将】を覚えました〉
さてと、スキルの内容はっと。
……うん、これはかなりやば目のスキルだな。
消費も激しいけど、効果もかなり高い。
高消費・高火力と言うしかないようなスキル内容である。
「トワくん、巻物読み終わったの?」
「ああ、終わったぞ。なかなか大火力のスキルのようだな」
「そうなんだ。それで、この後、試し撃ちとかするの?」
「んー、そうだな……」
はっきり言ってこれから試し撃ちをするとなるとかなり遅い時間になってしまう。
さて、どうしたものか。
「うん、今日はもう遅いし明日の朝にでも試し撃ちしてみるよ。いきなりぶっつけ本番って言うのも厳しいからな」
「了解、それじゃあ今日の作業はこれで終わり?」
「ああ、そうなるな。ユキはこの後何かしたいのか?」
「んー、特にはないかな。あ、でも、宿題もあるしそろそろ落ちようかな」
「そうか、俺はもうしばらくログインしてるよ。通常サーバーのポーション作成をしばらくしてないから、そっちの方をやってる事にする」
「わかったよ。でも、あまり夜更かししたらダメだからね」
「わかってるって。リクじゃないんだから、そこまで夜更かしするつもりはないさ」
「……そっか、そう言えばリクもまだログインしたままなんだっけ。そろそろログアウトするように言っておかないとダメかな?」
「そこのところは任せるよ。それじゃあ、俺はクランホームに行くから」
「うん、私はこのまま落ちるから。それじゃあ、あまり遅くならないようにね」
「わかった。お休み、ユキ」
「お休みなさい、トワくん」
ユキと別れて、俺はクランホームの方へと移動。
クランホームの談話室では柚月とドワンが休憩していた。
「こんばんは、2人とも。休憩か?」
「ああ、トワ。明日の予定を確認していたところよ」
「そういうことじゃの。わしらは街中で支援とは言え、やる事を確認する必要はあるからの」
「そっか。イリスはどうしてる?」
「イリスはもう落ちたわよ。明日の朝からログインするから今日は早めに休むそうよ」
「なるほど。ちなみに明日の作戦ってどうなってるんだ?」
明日の行動予定について、今日の攻略会議で決めているはずである。
その中には、誰がどういう風に行動するかの予定についても決められているはずだ。
少なくとも、攻略会議に参加するようなクランメンバーや二つ名持ちについては行動方針が決まっているはずである。
「そうね……明日までには教授からメールが行くはずだけど、概要は話しておいた方がいいかもね。トワ達は『白夜』のメンバーと一緒に行動する事になるわ」
「白狼さん達とか。それなら安心だな」
「基本的には『白夜』のレイドチームに参加という形になるわね。ちなみに、明日の防衛戦についての内容は知ってる?」
「公式ページのお知らせレベルの内容は知ってるぞ」
流石にイベントの開始時間については全てのイベントサーバーで同じになるように調整されているらしく、開始時間と大まかな内容は発表されていた。
防衛戦の開始時間は午後8時ちょうど。
午後8時になると各都市に向けてモンスター達の大群が押し寄せてくると言う内容だ。
全ての都市が東西南北の4つの門を持ち、それらを防衛するように行動する事になるらしい。
防衛戦開始と同時に都市が十字型の戦闘フィールドに切り取られるらしく、他の門の防衛に行くには都市内を移動するしかないとか。
「それじゃあ、防衛戦が門単位で行われるのは理解してるわね。トワ達が配置されるのは南門よ」
「ふむ、そうか。それって各方面が均等になるように振り分けされてるのか?」
「そうね。戦闘系クランについては各方面でメインとなるクランを立てて、その指示に従う形になるそうよ。南門は『白夜』の指揮下ね」
「それならやりやすいな。他の門も似たようなものか?」
「どこも大体一緒ね。問題があるとすれば、一般参加のプレイヤーが偏らないかだけど……」
「そこまではどうにもならないだろうな。手薄になっている門があったらそこをどうやってカバーするかが問題だけど……」
「そこについては明日にまた戦闘系クランが打ち合わせをするそうよ。戦闘系クランの中にも遊撃ポジションに割り当てられているクランがいくつかあるもの」
「……それじゃあ、その辺は戦闘系クランに任せてしまっても問題ないって事か」
「そうなるわね。それで、明日私達が行わなきゃいけない事はアイテム補充の最後の詰めね」
「そうなるだろうな。イベントサーバーの滞在時間制限がないんだから、可能な限り補充してほしいって事だろう?」
「その通りね。VRゲームの最大接続時間制限とこのゲームの連続ログイン時間制限の2つに気をつけつつ、各自時間の許す限りアイテムを作ってほしいという事になってるわ」
「……個人的な事をいえば、ここまでガッツリプレイする予定じゃなかったんだけどな。始めた頃は」
「トッププレイヤーの仲間になっている間は無理な相談ね。トッププレイヤーの集団からドロップアウトすれば大丈夫だけどそのつもりもないんでしょう?」
「それはな。流石にリアルの都合でプレイできなくなるとかじゃない限り、出来る限りトップ生産者集団の中にはいたいよな」
「そのつもりならある程度、融通が利かないのも覚悟しなさいな。MMOってそう言うものよ?」
「わかっちゃいるけどな。言ってみただけだよ」
ほんと、ここまでハマるとは思ってなかったんだけどな。
もう少し気楽にプレイしたかったんだけど、生産者トップって言うのも色々大変なもんだ。
「……さて、そろそろ休憩は終わりにして工房に戻るとしましょうか」
「そうじゃの。トワはこれからどうするんじゃ?」
「俺も工房に行って少しアイテム作りかな。明日の負担にならない程度にアイテム作成をすることにするよ」
「そうね、そうした方がいいわね。それじゃあ、明日は頑張ってね」
「わしらは応援じゃからの。後方支援は任せるのじゃ」
「わかった。俺も出来る限り暴れさせてもらうよ」
今日話すべき事はもう無いので、それぞれが自分の作業に戻っていく。
俺も息抜き代わりのポーション作成だ。
……生産作業が息抜きって言う時点でかなり毒されてるけど、こればっかりは春からの習慣になってしまっているからな。
30分ばかりポーション作りを行った後は、ログアウトしてゆっくり休む事にした。
明日はいよいよ防衛戦当日だ。
気合いを入れて行くとしますか。
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