210.輝竜装備 1
「お兄ちゃん、ジパンのホームエリアってどうだった?」
いつも通り遥華と二人の夕食の席、遥華から質問があった。
「あ、普通のホームエリアを見てくるの忘れてた」
「うん? 普通のってことは特殊なホームエリアがあるの?」
「あるぞ。NPCからの紹介状がないと手に入らない豪華な屋敷が買えた」
「何それ羨ましい。でも、高かったんじゃない?」
「雪音と共同購入にしたからな。それでも二人で400万ずつ、合計800万支払ったけど」
「……私達のパーティじゃとってもじゃないけど手が届かないことはわかったよ。それで、普通の家が建っているホームエリアは見てきてないんだね?」
「ああ、午前中は浮遊島に行って観光、午後は星見の都で挨拶回りをしてたらイベントに巻き込まれて、最終的には屋敷を買う事になったからな」
「……その繋がり方がよくわからないよ。ともかく、マイホームも手に入れたんだ」
「何となくの流れだがな。まあ、クランホームとの使い分けになるだろうな。今後は」
「ふーん。それじゃあ、今度ジパンまで行ったら遊びに行っていい?」
「ああ、構わないぞ」
「やった。その時はよろしくね」
「ああ、とりあえず晩ご飯を食べてしまうぞ」
「うん、どんな家なんだろう。楽しみだなー」
「今は広いだけで何もない家だがな。まあ、それまでには家の体裁を整えておけるか」
「だといいけどねー。さて、ご飯ご飯」
夕食後は、いつもの寝る支度を調えてから夜のログインとなった。
――――――――――――――――――――――――――――――
ログイン先はいつものクランホームではなく、ジパンにある屋敷だ。
ログアウトしたのがここである以上、それは変わらない。
……たしか、機能拡張すれば所持してるホームの好きな方でログインできる機能もあったはずだが、今度確認してみるか。
とりあえず布団から起き出して縁側から外の様子を眺める。
道場の方に目を向ければ山林が広がり、海側は見事な絶景だ。
この風景を眺めるだけでもなかなか楽しめそうだ。
「あ、こんばんは、トワくん」
「こんばんは、ユキ」
外の景色を眺めていたらユキもログインしてきたみたいだ。
「やっぱり家具が何もないと殺風景だよね」
「まあなあ。テーブルとか座椅子か座布団、あとは……何がいるかな?」
「その辺は今度ゆっくり考えようよ。それよりも一度クランホームに戻らない? 皆の進捗状況も気になるし」
「それもそうだな。一度戻るとするか。ホームを買ったことも報告しないといけないだろうし」
「あ、そうだよね。これまではログアウトするときはクランホームでログアウトだったけど、これからはこっちでもログアウトするかも知れないからね」
「屋敷の機能についても色々と気になるところだが、まずはクランホームに帰還だな。行くか」
「うん、行こう」
クランホームに『帰る』んじゃなく、『行く』って表現になるとは思わなかったな。
なかなかのいい物件だし、今後はこっちの拡張、というか、各部屋の飾り付けも考えなきゃだな。
屋敷の門のところに設置されているホームポータルからは、ジパンにある各種ポータルとクランホームへの転移ができるようだった。
王都に行くにはクランホームを経由しないといけないようだが、王都に用事があるとすれば大抵は生産絡みの話だ。
屋敷から直接転移出来る必要もないだろう。
ともかく俺達はクランホームへと行くことにした。
クランホームの談話室に転移して目に入ったのは、疲れた顔をした柚月とドワンだった。
「ただいま。柚月、ドワン。……どうしたんだ、そんな疲れた顔をして?」
「ああ、お帰りなさい。ずいぶんと戻りが遅かったわね。星見の都のポータルが開通したのは知ってるけど、どこで油を売っていたの?」
「んー、ちょっと成り行きでジパンにマイホームを手に入れてな。そっちでログアウトしてた」
「成り行きで家を手に入れるってどういう状況よ……?」
「そうは言われてもな。実際に成り行きで手に入ったとしか説明出来ないしな」
「……まあいいわ。ちょっとこっちでもトラブルが発生していてね。トワ達にも降りかかることになるから覚悟しておいた方がいいわよ?」
「うん、トラブル? 一体何があったんだ?」
「昼間にもらったドラゴン素材から作った装備が問題なのよ。とりあえず、これを見てみなさい」
見せられたのはドラゴンの皮を使ったレザージャケットだった。
名前は……『輝竜装 ファンタズマ』?
「柚月にしては大分派手な名前をつけたものだな?」
「私が名付けたわけじゃないわよ。勝手にシステムが名前をつけたのよ」
「……つまり、あのドラゴン素材から装備を作るなら勝手に名前が決まるって事か。完全にイベント装備だな」
「どうもそう言うことらしいわね。レイド報酬の装備をユーザー側に作らせるとかなかなかいい根性しているわ、ここの運営」
「ここの運営がいい根性をしているのは今更だがな」
「確かにその通りね。作れる装備の種類も色々と制約を受けてるわ。あと、デザインも決まったものしか作れないみたいね」
「なるほど。……それで、そんなに疲れた顔をしてどうしたんだ?」
「純粋に素材のランクが高いのよ。さっき見せたジャケットだって★7だったでしょう? 服職人のボーナスが付いてこれだから侮れないわ」
「……でも、来週の日曜日までには★12で揃えるんだろう?」
「当たり前でしょう? せっかくの機会ですもの逃す手はないわ」
「それは重畳。それならそこまで疲れた顔をしなくてもいいだろうに」
「それとこれとは話が別よ。上位素材を扱うからかなり神経を使うし、消耗も激しかったからね。……ああ、イリスは今日はもう休むって言ってたわよ」
「なるほど、了解。それじゃあ、俺の作業は明日以降になるのかな?」
「それは心配いらないぞい」
今まで机に突っ伏していたドワンが顔を上げて答える。
「品質はまだ★7だが、トワの銃を作るためのパーツは作っておいた。今のうちから慣れておくのがいいじゃろう」
「なるほど、確かに。じゃあ、薬草素材を買ってきたらそっちの作業を始めますか」
「そうした方がいいわよ。かなり勝手が違うから。ユキもスープを作ってるんでしょう? 様子を見てきた方がいいと思うわ」
「わかりました。それじゃあ、私も素材を買ってきたら様子を見てみます」
俺達はそれぞれの修業先に向かい、素材を買ってくる。
その後、工房に向かいまずはスープの様子を見てみるが……うん、これはまだまだ煮込む必要があるな。
「昼からずっと煮込んでいるのにまだ完成してないんだね……」
「この様子だと、明日の午前中まで煮込んでどうかってレベルだな」
「うん、とりあえずこれはこのまま煮込んでおくとして……普通のアイテムも作らなきゃ」
「俺もそうするか。オッド、場所を譲ってもらうぞ」
「はいですニャ。どうぞですニャ」
まずは各種ポーション類の作成から始める。
流石にポーション作成は手慣れたもので、かなり量がある素材群から全てをポーションに作り終えるまで1時間程度しかかからなくなっていた。
できたポーションの品質も8割が★12となかなかの出来栄えだ。
とりあえずできたポーション類は倉庫にしまうことにする。
そろそろカラーポーション類も在庫が貯まってきたし、店売りを始めてもいい頃合いかも知れないな。
……それとも、店売りじゃなくイベントポイント交換にしてしまうか?
とりあえず、ポーションの事はわきに置いておいて、次は銃の作成に取りかかる。
まずは一番簡単なハンドガンからでいいだろう。
まずは【魔石強化】で魔石の質を上げて……ってかなり調整が難しいな!
この時点で高難易度なのか。
これは先が思いやられるな……
魔石の強化はなんとかできた。
とは言っても、安全圏の初期値の2倍程度に抑えたのだが。
さて、それじゃあ銃身とグリップを倉庫から取り出して銃製造っと。
……うん、出来たは出来たが、イマイチだな。
性能はこんな感じ。
―――――――――――――――――――――――
輝竜銃 イニアショット ★7
白竜帝レイゴニアの素材から作られたハンドガン
魔力の力も持ち合わせており、その輝きを持って敵を撃つ
相手の防御を一部無効化する力を持つ
装備ボーナスDEX+30
攻撃属性:物理・光・神聖
攻撃ダメージの1%を追加貫通ダメージとして与える
ATK+122 MATK+42 DEX+30
耐久値:250/250
(イベント装備のため使用不可)
―――――――――――――――――――――――
貫通属性付き装備って言うのは強いけど、攻撃力が低すぎるな。
やっぱり数をこなしてスキルレベルを上げつつ、品質の向上を狙うしかないか。
幸い、ハンドガン素材は50セットも用意してくれたようだし、始めるとするか。
その後、ひたすら銃製造を繰り返してスキル上げと銃の製造慣れをしていった。
結果としては、50セット全部を消費して、完成したのは最大で★9だった。
ドワン達が苦労していたんだからそんな簡単じゃないとは予測していたが、まさかここまでとは思わなかった。
ちなみに、スキルレベルだが【上級錬金術】がレベル5まで上がっていた。
【上級調合術】の方が未だにレベル1な事を考えると、かなりのスキル経験値が貯まったことになる。
だが、この製造難易度は半端ないな……
これだと普通に素材を持ち込まれても手に負えないことになっていたんじゃなかろうか。
ともかく、素材もなくなったし今日はここまでだな。
「トワくん、そっちの作成は終わった?」
「うん? ああ、終わったが……結果は全然ダメだな」
「そっちもそうなんだ……私の方でも新しく手を加えてガラスープを作ってみたけど微妙なものしか出来なかったよ」
「まあ、期日までは一週間あるんだし急ぐものでもないんだけどな。流石に上級生産スキルを持っていてもここまできついとは思わなかった」
「うん、私もだよ。レイドボス素材って扱うのが難しいね」
「そうだな。素材自体も★12で渡してきてるわけだし、かなり上位の素材と考えて間違いないだろうな」
「だよね。これからどうしようか」
「そうだな……流石に俺も疲れたな。店の在庫だけ確認して補充したら、今日はもう休むとするか?」
「うん、そうだね。……それで、どっちで休むの?」
「あー、それもあったか。……せっかくだしジパンのマイホームで休むか」
「うん、そうしよう」
「さて、在庫だが……うん、ポーション類がかなり売れてるな」
「私も上位の料理が結構売れてるよ」
「それじゃあ、これを補充したら寝ることにするか」
「うん、そうだね」
その日は結局、それだけで夜時間の作業は終了してしまった。
昼間にかなりのイベントをこなしたとはいえ、少々疲れがたまっていたのかな?
さて、明日からは輝竜装備を最高品質で作れるようになるように頑張ろう。
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