56.新たな銃種

 いつものごとく、寝る支度を調えてからログイン。


 現在時刻は現実時間で午後9時。

 延長されていたメンテナンスだが、2度の延長を経て無事終了した。


 ログインが完了した俺は、まず自分が装備しているアクセサリーの詳細情報を確認した。


 ―――――――――――――――――――――――


 幻狼の腕輪(アクセサリー装備)


 HP+30

 STR+20

 INT+20

 破壊不可能


 スキル『幻狼の護り』が使用可能


 スキル:幻狼の護り

 短時間の間、スタン無効

 45秒の間、一度だけ攻撃を無効化・本来のダメージの一部を吸収

 スキル再使用時間24:00:00


 ―――――――――――――――――――――――


 幻狼の腕輪のスキル『幻狼の護り』の効果が変更されたのだ。


 これは公式放送で指摘されていた内容をリリースノートで詳細を確認していた。


 ダメージ無効の効果が、『短時間』――検証班によれば30秒――から、『45秒の間一度だけ』に変更されたのだ。

 一見すると無敵時間が延長されたように思えるが、実際には『30秒間何度でもダメージ無効化』から『45秒間の間に受けた最初のダメージ一度だけ』に変更されたのだ。


 ついでに言えば、フェンリルの全体即死級攻撃は『咆吼から25秒後に発動』というのが動画から検証された。

 変更前の効果だと、『咆吼の5秒前以内に使用』しなければいけなかったのが、『咆吼の20秒前以内に使用』すればよくなったわけで、フェンリル戦だけを考慮に入れた場合、むしろ使い勝手がよくなっていた。


 さすがメタ装備、と言う事だろう。


 そんなわけで、アップデートに伴う装備品の仕様変更を確認した俺は、第4の街へと向かった。

 第4の街のガンナーギルドにてクエストを受けるためだ。



 ――――――――――――――――――――――――――――――



「お待ちしていましたトワさん」


 ガンナーギルドに着いた俺を出迎えてくれたのは、受付嬢兼ギルマスのアメリアさん


「今日は以前にお願いしたことを果たしに来てくれた、と言う事でよかったかしら」

「はい。錬金術士としてのお仕事のために来ました」

「そう、わかったわ。それじゃあ早速で悪いけど仕事をお願いできるかしら。こっちよ。着いてきて」


 ガンナーギルド奥へと案内されて、たどり着いたのは作業部屋らしき場所。

 作業部屋『らしき』場所というのは、この部屋が大量の銃の部品に囲まれている、と言うか押しつぶされている? ともかくそのような様子だったためだ。


「お願いしたいのは、まあ見れば理解できると思うけど銃の製造よ。今回作成してもらうのは『ライフル』よ」


 また新しい種類の銃が出てきた。

 それにしても『ライフル』か。

 自動小銃アサルトライフルなのか、狙撃銃スナイパーライフルなのか。

 組み立て前の現時点ではわからないな。


 何せ、普通の拳銃ハンドガン魔砲銃マナカノンも部品と完成品の形が一致しないのだから。


 そのことを第2の街のメリッサさんに聞いたことがあるけど「錬金術を使って作成してるせいです」の一言で押し切られてしまった。

 さすがゲーム、そして錬金術。

 多少の不合理は無視してくれる。


「ライフルのレシピセットはまだもっていないはずよね。……はい、これ。少なくともライフル銃製造のレシピは今覚えてね。ないと作業にならないのだから」

「ちなみに普通の拳銃作成で作成しようとした場合はどうなるんですか?」

「素材の組み合わせが一致しないから、何も起こらないわね」


 うん、さすがゲームだ。

 失敗して素材が消える、ですらないのか。


 このまま何もしなくても意味がないので、レシピセットを紐解き、ライフル銃製造のレシピを覚える。


 レシピの難易度的には、『拳銃』以上『魔砲銃』未満と言ったところか。


「ちなみにこのレシピセットって、ガンナーギルドランクいくつから入手できるようになるんですか?」

「あなたはすでにランク10だったわね。ランク8からの販売になるわ」

「なるほど。それからグリップ部のレシピが、普通の拳銃と同じもののように見えますが」

「グリップ部については一緒よ。魔砲銃が、普通の拳銃の銃身とグリップを流用できたのと同じ理屈ね」

「魔砲銃を作ったときは、魔砲銃のレシピだけ渡されましたけど、ライフルではレシピセットなんですね」

「グリップは流用できるけど、銃身は流用できないからね。そのための措置よ。拳銃の作り方を知らない可能性だってあるわけだし」


 つまり、魔砲銃を作る際には拳銃を作れることは大前提として存在してたのか。

 まったく気にしてなかったな。


「それじゃあ悪いんだけど、ライフルの製造をお願いできるかしら。見ての通り部品は山ほどあるから」


〈Wクエスト『ライフルの製造』を開始します。このクエストが達成された時点より、ライフルの流通が行われます〉


 ああ、やっぱりワールドクエストだったのか。


 作らなきゃいけないライフルの数は……50丁ね。

 材料は『ライフルの銃身』、『グリップ』、『魔石』が2個か。


 今日はこのあと『至高の魔弾を求めて』の続きもやる予定だし急いで製造するとしますか。



 ……

 …………

 ………………



〈Wクエスト『ライフルの製造』をクリアしました〉

《とあるプレイヤーが条件を満たしました。これより装備『ライフル』の流通が再開されます。なお、街により販売開始までの日数が異なります》


 はい、お約束のワールドアナウンス入りました。

 眷属開放以来だから約10日ぶりかな。


 ……しかし、俺一人で何回ワールドアナウンス流してるのかな。


「あら、もう終わったの? 早かったわね。そして部品が思った以上に減ってないわね。……もしかして失敗しなかったのかしら?」

「ええ、失敗しませんでしたね。さすがに50丁も作成すれば1回は失敗すると考えていたんですが」

「……こちらとしては2回に1回ぐらいできれば十分だったのだけどね。材料は200丁分ぐらいあったわけだし」


 そんなに用意されてたのか。

 システム的にはおそらく無限だったと思うが、それにしても部品を集めすぎじゃなかろうか。


「作っていってもらえるなら、まだ作ってほしいのだけど、どうかしら?」

「今日は遠慮しておきます。このあと、例の地図の場所を訪ねたいので」

「そう。そういうことなら構わないわ。でも、部品はまだ大量に余ってるから、また作りにきてくれると助かるわ」


 ああ、これは第2の街の時と同じ流れだ。


「そういえば魔砲銃って流通させないんですか? 第2の街のギルドでは作り方だけしか学んでないのですが」

「魔砲銃は、本来的には王都のガンナーギルドの管轄ね。流通させていない理由は聞いていないわ。私達みたいに錬金術士不足とは思えないのだけど……」

「ちなみに、俺はレシピを教えてもらったのですが、それって管轄違いという話にはならないんですか?」

「魔砲銃のレシピについては、ランク10の人に対してどこのギルドで開示しても構わない、という取り決めがあるからね。ランク8になったときにライフルのレシピが渡されなかったのは、ライフルの管轄が第4の街のギルドわたしたちになっているから開示されなかっただけね」


 つまりこういうことか。


「普通は第2の街の段階でギルドランク8になることは珍しいと」

「そういうことね。もっとも、ランク8になったときに第4の街のギルドここを訪れるように言われたと思うのだけど……聞いていないのかしら?」


 うーん、ランク8になったのはかなり前だから正直覚えてないな。


「正直、聞いたかどうか覚えてないですね」

「そう、まあ言っていなかったとしてもメリッサあの子の怠慢と言うだけだし、結果的にライフルのレシピは手に入った訳だから問題ないわね」


 このギルマスもかなりおおらか、と言うか大雑把な性格のようだ。


「……ちなみにメリッサさんとあなたの関係って?」

「聞いてないのかしら? 私達は姉妹よ。私が姉でメリッサが妹ね」


 このギルド、家族経営か。


「それと、銃製造を手伝ってくれたお礼よ。受け取ってちょうだい」


 1通の手紙を渡された。


「それを錬金術ギルドに渡してもらえれば、これまでの銃製造依頼の分も含めて、錬金術ギルドの功績として評価してくれるわ。今度、錬金術ギルドに行ったときにでも渡してちょうだい」


 これを渡せば錬金術ギルドのランク評価につながると。

 今まで渡されてなかったのは運営の都合未実装だったのかな?


「それから今回のライフル銃製造依頼の報酬ね。これをもっていっていいわよ」


 そう言って、1丁のライフル――自動小銃アサルトライフルではなく狙撃銃スナイパーライフル――を渡された。


 ―――――――――――――――――――――――


 アイアンライフル(ヒグマ) ★4


 鉄の銃身とヒグマの魔石からできたライフル銃


 ATK+70

 耐久値:100/100

 装弾数:3


 ―――――――――――――――――――――――


〈ライフルを入手したことにより【銃】スキルの派生技能に【ライフル】が追加されました〉


「ライフルの特徴だけど、普通の拳銃に比べてはるかに長い距離攻撃が出来る事と、1発の威力が高い事が長所ね。短所は連射がきかないこと、装弾数が少ないこと、耐久性が低いことね。上手く使い分けてちょうだい。ああ、あと、【二刀流】スキルがあっても1丁しか装備できないからそこも注意ね」


 装弾数については今日のアップデートの関係で、あまり意味のない項目になってしまった。

 あるとすれば『フルバースト』スキル使用時の攻撃回数ぐらいか。

 あと、装弾数が1発しかない銃があった場合、ダブルショットやラピッドショットも使えないかもしれない。


 使い勝手は……今度、時間のあるときにでも確かめるか。


「ライフルについての説明は以上ね。何か質問はあるかしら?」

「いえ、特には。使い勝手は実践で試してみますので」

「そう? ライフル用の訓練場も用意してあるから、使いたくなったらまた来てね」

「はい、それじゃあ失礼します」



 ガンナーギルドを後にした俺は、ついでに錬金術ギルドに顔を出すことにした。

 受け取った手紙を渡すためだ。

 いつでもいいと言われてしまうと、すぐに渡さないと忘れそうだからね。


「これはいらっしゃいませトワ様。本日の用件はなんでしょう」


 錬金術ギルドの受付にはメシアさんがいた。

 用件はさっさと済ませてしまうに限るな。


「ガンナーギルドから錬金術ギルドあてに手紙を預かっているのだけど」

「はい、かしこまりました。それでは手紙を預からせていただいてもよろしいでしょうか」

「はい、これ。よろしく」


 ガンナーギルドで渡された手紙をメシアさんに渡す。


「これは……少々お待ちいただけますか。すぐに上のものに取り次いで来ますので」


 それだけ言い残すとメシアさんは奥へと小走りで向かった。

 時間がかかるようなら、また今度でよかったのに。


 数分後、メシアさんが戻ってきた。


「ガンナーギルドから申告のあった功績について、トワ様のランクにつきまして協議した結果、トワ様のギルドランクを12まで昇格させていただくこととなりました」

「え? いきなり12?」

「はい。トワ様はガンナーギルドにて、かなりの数の依頼を達成していらっしゃいますよね? それらをすべて考慮した結果ですので間違いありません」


 知らない間に、かなり大量のギルド貢献度を稼いでいたようだ。


「本来ですとランク10に昇格する際、昇格試験を行うのですが……魔砲銃をすでに作成可能なトワ様には必要がない、というより、すでに昇格試験の内容よりも難しい依頼をこなしているため免除となりました」

「ちなみに、ランク10の昇格試験の内容を聞いても大丈夫ですか?」

「昇格試験にはいくつか種類がありますが、そのうち1つが『ライフルを5丁失敗せずに作成』なんですよね……」


 ああ、なるほど。

 ライフル50丁を失敗せずに作成した俺には意味のない試験だな。


 しかし、今日はずいぶんと錬金術の効果が高い気がするが何でだろう?


「ともかくトワ様は本日付でランク12になりました。おめでとうございます。昇格した事によりいくつか説明することがございますが、お時間は大丈夫でしょうか?」

「うーん、今日はやりたいことがあるので、また今度来たときでも大丈夫ですか?」

「はい、大丈夫です。それではまたのお越しをお待ちしております」


 メシアさんとの会話が終わり、錬金術ギルドを出ようとしたとき、1通のメールが着信していることに気がついた。

 受け取った時間は……30分ほど前か。

 まだ、ガンナーギルドにいた時間だな。


 メールの差出人はドワンか……何の用件だろう?


『ワールドアナウンス聞いたぞ。また新しい銃のレシピを手に入れたようじゃの。銃身が必要ならば作ってやるからレシピを持ってこい。現実時間11時まで待つ。イリスもいるぞい』


 ……ワールドアナウンスの犯人ばれてら。

 まあ、銃関連だし、事情を知っていればすぐに思い当たるか。


 せっかく待っていてくれるとの事なので、一度クランホームに戻る。

 そこでドワンにライフルの銃身のレシピを渡し、10丁分の銃身を依頼。

 イリスもいたので事情を説明して、イリスにもグリップ10個を依頼した。


 その後、改めて俺はガンナーギルドでもらった地図が指し示す場所に向かうのだった。


**********


~あとがきのあとがき~


ランク8になったときのライフルの説明ですがトワは受けてません。

第2章のどこかで8ランクに上がった場面がありますが意図的に説明をしませんでした。

聞き忘れたわけじゃないなら普通にフラグ管理のミスですよね()


ついでなのでライフルの特徴の説明です。


ライフル

長射程・高威力・単発式

威力に応じて反動が発生(軽減はSTR・VIT)

命中補正はDEX

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