第12話 夢から醒めて……

「っぅ~~~~~っっ……。ぐっ、い、一体、何だってんだよっ⁉」


 痛みに顔をしかめながらも、手探りにも自らの後頭部を襲った謎の物体を確認するなり、思わず目を見張った。


「――んなっ⁉ だ、大根!?」


 そう――。

 信じがたいことではあるが、うずくまっている俺のすぐ横には、これまた見事なまでにデップリと育った大根が、無残にも真っ二つに割れた状態で転がっていて……。


 な、なんつぅ無茶をしやがるんだ……。

 ソコはせいぜい馬鈴薯ジャガイモってところだろうが……。

 それを大根を投げつけてくるか普通……?


 そんなことを考えていた矢先、


「ったく、ちょこぉ~~っと目を離した途端、早速サボりよるとはのぉ……。全く、近頃の若い者餓鬼どもときたら……」


 背後に人の気配らしきモノを感じたかと思えば、空気を震わしながら妙にしゃがれた声が響いてきて……。


「っ‼ ――あぐぅっ⁉」


 すぐさま起き上がろうとするも、クラッと……。

 頭に受けたダメージによる影響か、完璧に足にキてしまっていて……。

 結局立ち上がることが出来ぬまま、止むを得ず器用にも体をくるりと反転させるなり、情けなくも地面に膝をついた体勢のまま相手を迎え入れる形に……。


「………………」

「………………」


 不本意ながら土下座にも似たような格好のまま、見上げる先には、これまた小柄な老人がコチラをジッと見下ろしていて。

 そのしゃがれた声もそうだが、これがまた見るからに如何いかにもな、偏屈へんくつで頑固そうなくそジ――。

 もとい、お爺さんジーさんで……。

 ま、ソレはこの際置いとくとして……。

 兎にも角にも、そんなじーさんに向けて慌てたように口を開いていく。


「べ――別に、さ、サボってなんかいませんよっ! ほんのちょっとだけ休憩してただけですって……。(ったく、これからだってところだったのによぉ……)」

「あ~~~ん? 何か言うたかぁ~っ?」

「うっ⁉ あ、いえ、その……」


 恨み節にも小声でそっと毒づく俺をギロリと鋭い眼光が睨みつけてくる。

 その迫力たるや、とてもその枯れ木のようなか細い体から発せられているとは思えないというか何というか……。


「ハァ~~~、全く……。何を言っとるんじゃぁ? お前さん、さっきからず~っと独りでブツクサ呟いておっただけではないか」

「え?」


 お爺さんジーさんの口をついて出た思いもよらなかった科白セリフに目に見えて困惑する俺……。


 ハァアアアッ? な、何を馬鹿なことを……。

 ついにボケたか、このジジイ?


 そんなことを考えつつも、それとはなしに隣にいる筈の葵先輩へと目を向けてみるも……。


「……へ? あ、アリ?」


 コレがまたどうしたことか、クソジジイの言葉通り、葵先輩はもとより、人っ子一人の姿もありゃしなかった。


「あ、アレ……? アレレレ? そ、そんな、筈は……?」

「……ふん、まぁええわぃ、今度こそサボったりするんじゃないぞい……」


 混乱する俺を置き去りに、吐き捨てるようにそれだけ伝えると、お爺さんジーさんはゆっくりとした足取りでこの場から立ち去って行ってしまった――。


「………………」


 その場に一人ポツンと取り残された俺は、しばし呆然とした後、ようやっと現状を理解した。


 どうやら未明まで続いた羊のカウント寝不足が祟ったようで、それこそウトウトと……。

 いつの間にか意識が朦朧としていたようで……。

 詰まる所、先ほどまでの葵先輩とのあんなことやこんなこと甘~~~~~い一時も全ては俺の妄想が生んだ産物だったということに他ならないという訳さ……。


「……く、くく、フフフ、ア~~~ハッハッハッハッハッハッハ……ハ。――う、うがぁあああああああああああああっ‼」


 一気に膝から崩れ落ちるなり、拳を強く固く握りしめるやいなや、それこそ発狂でもしたかのように地面を何度も何度も叩きつけていく。


 ドンッ、ドンッ、ドンッ……‼


 ――ち、チキショオオオオオオオオオオオッ‼

 や、やっぱりこういうオチかよぉおおおおおおおおおおおおおっ⁉


 第九話昨日、葵先輩の口から出たあの『お付き合い』っていうのは、あくまでもその範疇での『お付き合い』ということであって、つまりは……。


 ぐ――ぐぉおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼

 

ドンッ、ドンッ、ドンッ……‼


 ――……うぅ、ぐすん……。そ、そうだよ、わ、わかってた、わかってたよ……。

 そ、そもそもそんな事、あ、ある訳ねーじゃんっ⁉

 き、第十話夕べも自分でも言ってたじゃん!

 そんなことは余程良い星の下に生まれるか、リア充転生者くらいのもんだって……!

 よ、よくよく考えたら、お、俺ぇ、ど、どっちでもねーじゃんっ!?

 な、なのに! どうして! なして、こんなバカげた夢見ちゃったのよォおおおおおおおおおおっ……⁉


 ドンッ‼ ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ……――


 悔やんでも悔やみきれないとは正にこの事かってくらい、後悔が痛みを伴って俺の中をぐるぐる回っていた。


 ――……ぐす、と、とはいえ、果たしてコレは俺だけが悪いのかっ⁉

 こ、今回といい前回といい、どいつもこいつも糠喜ぬかよろこびさせやがってえええええええええええええええっ‼


 う、う、うがぁああああああああああああああああああああああっ‼


 ドンッ‼ ドドドドドドドドドドドドドドドドドドドドンッ……――


 最早、半狂乱、とでもいったとこか……。

 それこそ、X J〇PANのドラマーでも乗り移ったかのようなヘッドバンギングとともに、壁ドンならぬ地メドンを繰り返すその姿たるや、何も知らない他人が見たら、狐にでも憑りつかれたのでは? と言われても止む無しだと思うぜ。

 てか、この姿を見たら声をかける以前に、誰も近づいてすら来ない気がするが……。


 そんなことを思っていたところへ、


「――待たせたな、陽太……って、ん? 一体、何をしているんだ?」


 と、そんな状態の俺に対し、無謀果敢にも今回の元凶(?)が声をかけてくる……。

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