第4話 お弁当

 前回、自らの策に溺れ、挙句の果てには藪から蛇ならぬメルエムを出す結果になってしまった惨劇から、早三日――。


 あの場で、られこそしなかったものの、この三日間、正直、俺は気が気じゃなかった。

 全ては琴姉の、『明日から、お昼一緒に食べようね』発言に端を発している訳だが……。

 どうしたことか、あれから二日経ってなお、それが実行へと移されることはなかった。

 その間、琴姉はというと、何やら頻りに食材らしきものを吟味していた模様。

 まぁ、動きがないのは良いことなのだが、逆にそれが恐ろしいというか何というか……。

 とはいえ、そんな平穏がいつまでも続くはずがなく、昨夜、遂に琴姉からの赤紙・召集令状お誘いがかかった。


 気分はまるで特攻隊とでもいったところか。緊張の面持ちでソレを受けるも、琴姉曰く、


「高校生になってから、ヒナちゃん、一度もお姉ちゃんとご飯一緒にしてくれなかったでしょ? だから今回のことはお姉ちゃん、ホントに嬉しかったんだよ♡」


 う~~~む、話を訊く限り、どうやら琴姉は純粋に俺との食事を楽しみたかったみたいだ。

 正直、拍子抜けしたというかなんというか、それこそ毒気を抜かれる思いがした。


 まぁ、何だかんだ言ってもそこは実の姉弟だ。

 こんなことで琴姉がここまで喜んでくれるのなら、そりゃあ俺だってやぶさかではない。


 ――が、がである。


 それでも時と場所は選ぶべきであって、


「な――何でよりにもよって、琴姉の教室で何だよっ⁉」

「え~? 何か変かなぁ? お姉ちゃん、普段から教室ココでお昼食べてるんだよ?」


 憤慨する俺をサラリといなす琴姉。


 ――そう、あろうことか俺が座らされているのは、琴姉の教室クラスにおける琴姉の隣の席。

 昼休み、授業終了のチャイムが鳴り響くや否や、今ではすっかり琴姉の傀儡になりさがってしまった黒縁眼鏡くろぶちめがねの安田くん(ちなみに、義眼にはなっていなかった)に腕を掴まれ、強制連行され行きついた先が琴姉の教室ココであった。


 それだけならまだしも、当然そこには、琴姉のクラスメート達が居るわけで、


「ねぇねぇ、あれが琴葉の弟くん?」

「へぇ~~~、結構可愛い顔してるじゃない♡」

「くっ、結城・弟! 許すまじっ!」


 必然、こうなってくる。

 それこそ俺たちを取り囲むかのように、ぐるっとギャラリーが出来ていた。


 ……うぅ、な、何なんだこの状況は? これじゃあまるっきり、見世物小屋じゃねぇか?

 何で琴姉はこんな状況下で平然としてられんだよ?

 どう考えたっておかしいだろ⁉ 普通、こういうときってさ、逆に人目を憚って、あえて屋上とかそういうところで二人きりで『きゃっきゃ、うふふ♡』とかしながら食べるもんなんじゃないの?

 いや、誓って言うが、断じて『きゃっきゃ、うふふ♡』がしたいわけじゃねぇぞ?

 それを、こんな衆人環視の中……。

 どんな羞恥プレイだって話だろうが⁉


 そんな不満が表情にまざまざと出ていたのか、


「もぉ~~! そんなに嫌がるんなら、今からヒナちゃんの教室にでも――」

「すんませんでしたぁああああああああああっ‼ コチラで結構ですので、それだけはマジ、勘弁して下さいぃいいいいいいいいいいいいいっ‼」


 そこは、徹頭徹尾、平身低頭、頭を下げて堪忍してもらう。


 何? 格好悪いって? そんなこと構ってられるか。

 こんなとこクラスの連中に見られようものなら、土方トシさんはもとより、それこそ男子連中に八つ裂きにされちまう!


 くっ、進むも地獄、退くも地獄、とはよく言ったもんで、完全に退路を断たれた俺は、渋々ながらも覚悟を決めると、改めて椅子に深く腰を掛け直した。


 ――とは言え、何も勝算無しに座ったわけでもない。

 冷静に考えてみれば、何だかんだ言っても所詮は女の作った弁当だ。

 量なんてもんは、たかが知れてる。

 そりゃあ、多少はやいのやいのと冷やかされはするだろうが、それこそサッサと食って、とっととお暇すればいいだけの話。

 加えて、今日は三限に体育があったことも相まって、十分腹も減ってる。

 それこそ弁当の一つや二つ、チョロイチョロイ♪


 と、そう軽く考えていた矢先、琴姉が取り出した弁当を目の当たりにするや否や、俺は言葉を失った。


「――⁉」


 じ、じゅう……ばこ……だと?


 あろうことか俺の目に映りこんできたのは、五段重ねの見るからに高級そうな重箱。

 固まる俺を余所に、にわかに活気づくクラスメートオーディエンスたち。


「うわぁ~~~、琴葉、すっご~い♪」 

「えへへ♡ ヒナちゃんの為にお姉ちゃん、ちょっとだけ頑張ってみちゃいましたぁ♡」

「こんな弟思いのお姉ちゃんがいるなんて、弟くんは幸せ者だねぇ♪」


 ――はっ⁉ い、いかんいかん、一瞬、気を失ってた。

 て、い、いやいや、『ちょっとだけ』なんてもんじゃねぇよ?

 どこの世界に重箱入りの昼飯を食う高校生がいるってんだよ? 皆もまず、そこツッコもうよ⁉

 てか、今、鞄から出したよね? そんなデカいもん、どうやって入れてたんだよ? 何、琴姉の鞄は、ドラちゃんのポケットと通じてるわけ?


 そうこうしてる間にも、飲み物やら何やらと、着々と支度は進んでいたようで、気づいたときには全てがつつがなく終了していた。


 う~~~む、毎度のことながら、琴姉の手際の良さには舌を巻かされる。


「――……それじゃあ、頂こうっか♡」


 満面の笑みと共に重箱の蓋が開けられた瞬間、俺を含むこの場にいた全ての人間が息を飲んだ。

 重箱の中に広がるのは、目にも鮮やかな彩りを添えたおかずの数々……。

 一の重だけでも分かる範囲で、若鶏の香味焼き、牛のしぐれ煮、蓮根の梅肉和え、粟麩の艶煮――……。

 そして、以前、俺のリクエストしたアルトバ〇エルンと、まるで、どこぞの料亭が手掛けた仕出し弁当のようだ。


「……ごく……」


 不覚にも喉が鳴った。

 重箱の一角から漂ってくる醤油の甘辛い匂いが鼻腔全体に広がり、それが殊更、食欲を掻き立てていく。


「――♪」

「――っ⁉」


 そんな俺の姿に我が意を得たりと得意気な表情の琴姉。


 うぅ、く、悔しいが、マジで美味そうだ。

 こんな状況じゃなかったら、とっくにがっついていたことだろう。

 とは言え、俺にも意地ってもんがある。ここまで琴姉の思惑通り事が進んでいくのも正直、面白くない。

 ――が、がである。せ、折角作ってくれたものを無駄にするのもどうかと思うんだ? そんなことをしたら、それこそぐる眉のコックに蹴り殺されかねん。

 だから、仕方なしに食べるのだ。決して、琴姉の料理の魅力に負けた訳ではない! そ、そこを勘違いしないように!


 とまぁ、大義名分が出来たところで、早速、一つ頂いてみようと手を伸ばしかけるも肝心なモノが見当たらない。

 もう一度、弁当周辺を確認するも………………やっぱり、無い……。

 とすると、琴姉が入れ忘れた? はて、琴姉に限ってそんな凡ミスをするとも思えないのだが……。

 とはいえ、流石に素手で食う訳にもいかず、俺は琴姉に訊ねてみることにした。


「あの、琴姉? 俺の箸が見当たらないんだけど……」

「え? あ、大丈夫だよ♪ それで、ヒナちゃんはどれが食べたいのかな?」

「へ? 大丈夫って……。あ、う、うん。とりあえず、その、牛のしぐれ煮を……」

「うん♪ しぐれ煮、だね?」


 あれ? 何故だろう? 何かとってもイヤ~な予感がするんですけど……?


 そんな俺の不安を裏付けるかのように、琴姉は箸を渡すでもなければ自らの箸に一口分のしぐれ煮をそっと摘み上げると、ソレを俺の口元近くまで寄せてくるなり、


「はい♪ あ~~~~ん♡」

「――⁉」

「「「「「きゃあぁああああああああああああ~~~~~~~~~~~~~~っ♡」」」」」


 凍りつく俺。狂喜乱舞するクラスメートオーディエンスたち。


 ――ま、マジですか? こ、この姉……。

 な、何となく、やりそうな気はしてたけど、流石にこの状況では少しは自重してくれるものだと勝手に思い込んでいたが……。


 目の前には、今か今かと待ち侘びる琴姉の姿。


 じ、冗談じゃない――。

 こんな大勢の前でそんなバカップルみたいな真似、と、とてもじゃねぇが出来っこねぇ……‼


 口元に突きだされた箸に対し、断固拒否の構えを見せること数十秒――。


『――食えっ!』


 ――⁉ な、何だ、今の声は?


 不意に聞こえた声らしきものに、そっと周囲に目を向けると、


 ――う、うぉおおおっ⁉


 今しがたのバカ騒ぎから一転、気が付けば、周囲の人間全てが俺の事をじぃっと睨みつけていた。


 同時に、


『『『『『食え食え食え食え食え食え食え食え食え食え食え食え食え食え食え爆発しろ食え食え食え食え食え食え食え爆発しろ食え食え――……』』』』』


 うぅっ⁉ や、奴らのそんな怨念めいた想いが声となって聞えてくるようだ!


 ――く、くそが、て、テメェら、な、舐めんじゃねぇぞ!


 そんな怨霊(?)たちに負けじと、こっちも必死に応戦してみたものの、結果はというと――。


「あ~~~~ん♡」

「……あ、あ~~~ん……。はむっ……ん……っ……んっ……ごくっ……」


 所詮は、多勢に無勢――。圧倒的プレッシャーの前に、俺は呆気なく軍門に下った。


「えへへ、どうかな? ヒナちゃん、美味しい? ねぇ、感想、教えてよぉ♡」

「へ? あ、ああ、うん……まぁ……」


 うぅ、この状況で、正直、味なんかもう分かんねぇよ……。


「……あ、そう……。ご、ごめんね、お、美味しく……なかった、みたいだね……」

「え? い、いや、そんな……」


 俺の曖昧な態度に、目に見えてトーンダウンする琴姉。 

 その凹みっぷりときたら、今にも消えてしまいそうな雰囲気を湛えていて。

 流石の俺も琴姉のそんな姿にいたたまれなくなってきて、慌ててフォローを入れる。


「――だ、誰も、ま、不味いなんて言ってないだろ⁉」

「い、いいよ。無理しなくても……。お、お姉ちゃん、お、お料理、もっと勉強して、う、上手くなる……から……」

「嘘じゃねぇって! だ、だから! そ、その……う、美味かったよ……!」

「――え? ほ、ほんとに? ほんとうのほんとに……? え、えへへ♡ じ、じゃあさ、こ、今度はこっちも食べて――」

「きゃあああああああああああああっ‼ か、可愛いぃいいいい♡ 『う、美味かったよ』だってぇ♪ この子、テレちゃってるぅううううううううう♡」

「ホントだぁ♪ 顔、真っ赤っかぁ♡ 恥ずかしがってる顔、ちょう~~~可愛いぃいいいいい♡」


 だぁあああああああああああああああああああっ‼

 う、うぜェええええええええええええっ‼ 分かってんなら、いちいち、言葉にすんじゃねぇよ⁉ この気の利かぬ、クラスメイトオーディエンス共がぁあああああっ!


 そして、この俺の『美味かった発言』を機に、琴姉が暴走モードへと突入していく。


「――は~い、ヒナちゃん♡」

「あ~~~……? へ? な、何? どういうこと?」


 椀子蕎麦わんこそばかってくらい、絶え間なく続けられた『あ~~~ん地獄』を前に、パブロフの犬さながら、間抜け面で口を開き続けること、約十五分――。


 出し抜けに箸を手渡され、戸惑いを見せる俺の顔を一瞥するなり、すぐさま重箱へと視線を移すと、おもむろに口を開いた。


「そうだねぇ~、お姉ちゃんは、卵焼き――ううん、鶏の治部煮が食べたいかなぁ♪」

「? ? ?」


 ど、どういうことだ? 食いたいのなら、勝手に食えばいいじゃないか? 何で、わざわざ箸を俺に? 

 こ、琴姉は、さっきから何を言ってるんだ?


 琴姉、渡された箸、琴姉、渡された箸……。

 それらを交互に見続ける中、一つの可能性に辿り着いた。


 ……………………ハッ⁉ ――こ、この姉。あろうことか、お、俺にまでこの行為を強要してきやがった⁉


「――♪」


 ――ふ、ふざけんな!

 た、ただでさえ、見世物扱いされてるってのに、これまで、やっちまったら、完全にバカップル認定だっ!


 それこそ、ニコニコ顔の琴姉に対し、徹底抗戦を決意した。


 くっ、こ、これ以上、魔王琴姉の好き勝手にさせてなるものか!

 さ、幸いなことにも、聖剣はコッチにあるんだ。

 これこそ、正に神が与えたもうた千載一遇の好機チャンス

 そう認識するや、俺は、これ見よがしに怒涛の一気食いを敢行していく。


「はむ……もぐ……っ……んぐ……あむっ――……」

「――⁉」


 案の定というか、一人ドカ食いを始める俺の姿に、クラスメートオーディエンス共はもとより、琴姉も呆然としてやがる。

 くくく、悪いな、琴姉。残念だが、主導権はこっちが握らせて貰ったぜ。そもそも聖剣を俺に渡しちまったことが間違いの始まりよ。

今さら、何があろうと、もう事態は覆らんぜ?

 そう、『奇跡』でも起こさない限りはね♪


 と、調子づいていた矢先、奇跡ソレは起こった。


「――えぇ~~~~っ、それはないんじゃないのぉ? 弟くん?」

「だよねぇ。折角、琴葉が一生懸命、作ってきてくれたってのに、少しくらいは、ねぇ?」

「くっ、結城・弟、許すまじっ!」


 この一連の俺の所業に、あろうことか、クラスメートオーディエンス共が、口々に不平不満を訴えだしてきやがった。


 はぁっ⁉ 何言ってんだ? ど、どうして、俺が非難を浴びなけりゃならんのだ?


 不穏な空気が漂う中、流石にこの状況を見かねてか、琴姉が動いた。


「い、いいのよ、皆。わ、私が、ちょっと、調子に乗りすぎちゃったんだから……」

「そ、そんなことないよ! 弟くんの態度、あれはちょっとないって! 皆も、そう思うよね?」

「う、うん! いくら弟でも、あれは流石に酷すぎだよ!」

「ううん、違うの! わ、私が、お姉ちゃんの癖に、ヒナちゃんに甘えすぎてたんだと思うの……。お、お願いだから、ヒナちゃんを責めるのは止めてっ!」

「こ、琴葉……。――ち、ちょっと、弟くん? こんな弟思いのお姉ちゃんの一体、どこが気に入らないって言うのよ⁉」


 お、おいおい、何だ、こりゃあ? どんどん事態が収拾のつかない方向へ向かってってねぇか? 

 てか、琴姉が大丈夫って言ってんのに、何でお前らが蒸し返してくんだよ?


 今にも暴徒化しそうなこいつらを横目に、どうしたものかと、琴姉へと助け船を求めるも、


「――♪」

「――⁉」


 え? わ、笑ってる? な、何で笑ってんだ?


 俺の目に映りこんできたのは、その大きな黒曜石の瞳を歪ませ、悪魔のように嗤う琴姉の姿だった。


「――‼」


 その瞬間、雷に打たれたかのように、全ての謎が解けた気がした。


 ぐっ! こ、ここ、コノヤロォオオオオッ! わ、わざとだ。わざとこの状態に持ってきやがったんだ。

 俺が、『あ~~~ん♡』をする以外、治まりのつかない状況を自ら作り上げやがったんだ!


 ち、ちきしょおおおおおおおっ! な、何か、いつもと違ってしおらしいこと言ってるからおかしいと思ったんだよ……!

 ん? 待てよ? てことは、箸を渡した時点で、こうなることを読み切ってた⁉ というか、もしかして、この教室をチョイスした時点でここまでの展開を読んでたってことか⁉


 ――こ、怖ぇえええええええええええええっ‼

 た、たかだか、『あ~~~ん♡』をさせたいがために、ここまで人心を操るかぁ? てか、操れること自体が信じられねぇよ⁉


 同時に、先の会長選において、琴姉が葵先輩を破った理由が垣間見えたような気がした。


 ――その後、御来場の皆々様、ご観覧の中、指輪の交換ならぬオカズの交換を済ませ、本日の式はこれにて終了と思いきや、


「えへへ♡ お姉ちゃん、ヒナちゃんと『間接キス』しちゃったぁ♡」

「――⁉」

「「「「きゃぁああああああああああああああああああああああああああああっ♡」」」」


 ブーケ代わりに飛び出した花嫁琴姉の一発に本日、幾度目かの大歓声が沸き起こる。

 

 そして、現在――。


「はい、ヒナちゃん。あ~~~ん♡」

「……あ~~~ん」


 すっかり従順になった俺に満足気な琴姉。

 俺も、特に抵抗するでもなければ、大人しく口を開いていく。

 う~~む、こうなってくると、自分が雛鳥になったような錯覚さえ覚えてくるな。

 俺は、度重なる羞恥責め、人々の心の闇に触れ、すっかり人間不信になってしまっていた。

 そんな俺の唯一の癒しは、先ほどから口へ投入されているくだんの善三郎さんお手製のそら豆くらいのもんか。

 嗚呼、そら豆の優しさと塩のもつ甘さだけが俺の心を癒してくれるかのようだ。

 もう、俺、そら豆だけあれば何もいらないかも……。


 そんな折、琴姉が、ポツリと漏らした。


「……そら豆ってさぁ、何か可愛いよねぇ♡」

「……はぁ? そら豆が、可愛い?」

「うん♪ 可愛い♡」 

「…………」

「…………」


 これは、琴姉だけに限った話じゃないが、女子が言うところの所謂可愛いと評するものの判断基準が俺には今一つ理解できない。


 以前にも、スーパーで見かけたアボガドを見て可愛いって言ってたっけ?


 ましてや、今回はそら豆だぞ? 可愛いか? それこそ、ただの緑色した豆じゃねぇか?


「ほらぁ♡ 押し出すとぷるんと皮から出てくる所もだけど、皮に包まれてるあたりも、ヒナちゃん・・・・・みたいで、やっぱり可愛い♡」

「――⁉ ぶぅほぉおおおおおおおおおおっ⁉ ――ごほっ……っ……げほっ……んっ……!」

「きゃああ⁉ ち、ちょっと、ひ、ヒナちゃん、だ、大丈夫?」


 ……っ、き、気管に、は、入った……っ……げほっ……くっ――……。


「ほ、ほら、これ飲んで、しっかりしてぇ!」

「……んっ……ごくっ……んっ……んっ……」


 俺は、琴姉が差し出してきた、お茶を一気に飲み干していく。


 ――五分後。


 はぁああああああああああああっ――…………。


 あ――危ないところだった……。あ、危うく死にかけたわ……。

 ……ったく、こ、琴姉……、お、俺を、殺す気かぁ?

 ん? てか、な、何だ? 今の発言は? き、聞き間違いか? か、皮が、どうたら、い、言ってなかったか……? た、確か、


『皮に包まれてるあたりも、ヒナちゃんみたい……ヒナちゃんみたい……ヒナちゃんみたい――……」


 今しがたの琴姉の言葉が俺の脳内をリフレインしていく。


 え? へ? 江? な、何? な、何なの? ど、どういうことだ? そ、そそそれって、もしかして、暗に、お、俺がホウ――。


 ――い、い、いやぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああっ‼

 てか、な、ななな何で知ってんのぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ⁉

 うぅ、くっ、な、何も、お、おおお俺だけじゃないんだからなっ! あんな、エロゲの主人公みたいな奴ら、そうそういねぇよ!

 ……っ……ぐすっ……っ……。べ、別に、く、悔しくなんて、な、ないんだからぁあああああああああああああああっ‼


 てか、そら豆、穢すんじゃねぇよォおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ‼ 二度と食えなくなったわぁああああああああああああああああああっ‼


 こうして、羞恥と多大なるトラウマを植え付け、第一回お食事会は閉幕した。

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