第79話 天空の大地へのお誘い



 脳裏に浮かんできた余計な思い出が思考を占領しようとしてくるのを、冷静な部分で封じてから、話を続ける。


 表情に出てないよね?


「えっと、新しいとこって確か天空の大地……って名前だっけ?」

「攻略に重要な場所ではなさそうですけど、観光地として有名になってるみたいです」

「評判良いみたいだね」


 例の水龍事件以来、アリッサから無料で送られてくるメールマガジン「今、仮想世界ではここがアツい!」には、カップルが行く場所として掲載されていた。


 縁があるわけでも、行く予定があるわけでもないので、無視し続けていたんだけど、たまたま暇な時があったから読んでしまったのだ。


 それで知ってる。


 彼女は一体あれを見せて、引きこもりの僕にどうしろと言うのだろう。


「あ、あの、えっと……」


 そこで、シロナが俯きながら、かつ視線だけを時々こちらに投げかけながら、ちょっと頬をそめるという高度なテクニックを駆使して、こちらに話しかけてきた。


 やめてよそういうの。耐性ないんだから、変な勘違いとかしちゃうじゃん。


 まあ、シロナの事だから無自覚なんだろうけど。


「良かったら、この後一緒にいきません……か?」


 えっ、勘違いじゃない?


 レベリングに関して何か聞きにくい事でもあったかなと思ってたら。


 脳裏に浮かんだまさかの可能性が現実になった事に、結構激しく動揺。


 ステイステイ。


 ちょっと落ち着こう僕。

 相手はシロナなんだから、そういうアレじゃないはず。


 似たような事前にあったしね。

 経験則だよ経験則。


 分かり切ってる事だ。

 うん、落ち着いてきた。


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