第6章

第51話 うん、悪くない。



「悪いけどシロナ……、いや悪くないか。ともかくあのおばかさん達につきあってる時間なんてないから」


 僕はため息をつきながら、シロナの腕を掴んだ。


 せっかく見つけたあいつらを野放しにするのは危険だけど、でも今は時間の猶予が無い。

 こんな事をしている場合ではないという彼女の言葉には同意だから、スルーしていくしかなかった。


 僕は掴んだシロナをこっちに引っ張って、えーとうん、ちょっと固定した。


 つまりあれだよ。

 こう、ぎゅってやるやつ。

 仕方ないだろ。


「え?」


 シロナの驚いた顔はちょっとだけ赤くなった。

 こっちにする事には無頓着なのにされる方は気が付くの?

 とりあえず至近距離にあるシロナの顔を、見てられなくなって視線を外した。


「に、ニルバさん?」


 うわずった声ださないでよ。

 その、わずかにちょっと意識してますみたいな。

 君の対人距離感どうなってんの?


「舌、噛むから黙ってて」


 あくまでも意識なんてこれっぽっちもしてませんよ、っていう態度を装いながらシロナに忠告。


 さいごに、おばさん達にあっかんべーとしてから、地面を蹴った。


 すると、僕が身につけている装備品……星空の革靴の効果が発動して、ふわりと宙に舞い上がった。


「わ、飛んでます」

「うん、僕の装備品にそういう効果があるから」


 魔力の消費が激しいから、普段は使わないんだけど、今は仕方ないからさ。


 眼下のモンスター達とおばさん達の姿がどんどん小さくなっていく。

 悔しそうなおばかさん達の表情が印象に残ったけど、忘れる事にした。

 覚えてたって、得する事なさそうだしね。


 町の喧騒が、少しだけ小さくなって、星空の世界が僕達を包み込む。


「すごい。すごいです、ニルバさん!私達空を飛んでます!」


 シロナは、未知の体験に固くなる派じゃなかったみたいだ。

 いつもより若干声を大きくして、周囲を見回している。


「ちょっと、変に動かないでくれる? ちゃんとしがみついてくれてないと、君そのまま落っこちちゃうんだけど!?」

「あ、すみません」


 腕の中にいるシロナに慌てて注意。

 感動してる彼女には悪いけど、高所落下のダメージで死亡なんてシャレにならないしさ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る