第52話 知らなくてはならない

 ***


 大砲の音が聞こえた。自らの内側からの鼓動は聞こえないけれど、その音が腹に響き、脈打つ。


 主に断罪され、死を待っているはずの今この瞬間にも、まだ生きる道を頭の何処かで探っている自分が滑稽だった。


「怖いですか」


 自分の声が震えているのがわかった。だが、答える彼の声もまた、ひどくこわばっていた。剣を握り、こちらに向けたまま、彼は苦笑した。


「ああ。恐ろしいものだね」


「それが、あなたが……いえ、私たちが、多くの者に強いてきたことです。そして、あなたはこれからも」


「君が、それを僕に教えると言うのか」


「あなたは、知らなくてはならない」


 涙がにじむ。生きたい。ゆっくりと振り上げられる剣を見て、頬を雫が伝った。にじみ出た瞬間は熱かった雫は、下へと伝う間に冷たくなる。


「……さようなら、エイラ」


 目は開けていよう、そう思ったのに、恐怖がそれを許さなかった。固く閉じた目の代わりに、今も遠くの喧騒を聞く耳が、溢れる血の音を聞くはずだった。

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