拝啓、地の底から天の友へ
白野廉
地の底より
パチパチ。火が弾ける音が、静かな大広間に響く。衣擦れの音一つ、呼吸音ですら、周囲に響いているように思える。パチパチと。拍手のように、絶え間なく。他人事のように、ぼんやりと考えた。あぁ、そうだ。他人事だとも。本来此処に立つべきなのは、俺じゃあ無くて。既に遺骨となったアイツだろうに。強く気高いアイツの代わりが務まるとも思えないが、やるしかないのだ。
アイツに託された赤いマフラーを巻き直し、そして。壇上に、立つ。
「俺たち人類が地上を追い出されて、既に何十年も過ぎ去った」
その昔。曾祖父母が子供だった頃。人類は陽の光を浴びて生きていたらしい。突如として他惑星から侵略してきた特殊生命体──通称、エイリアンによって、人類は住む場所を追われ、地下世界へと逃げ込んだ。
「誰もが、疑問に思ったことだろう。何故、暗い地下で過ごさねばならないのか」
過去の資料の多くは戦火に焼かれ、歴史は炎に葬られた。戦術書どころか紙媒体のデータは勿論、インターネット上に記されたという多くの情報も、探る方法すら失った。
「何故、過去を失わなければならなかったのか」
地下世界に逃げ込み、エイリアンの攻撃から生き永らえた人類。だが、元々は地上で生きるために進化してきた人類が、急に地下での生活を始めたら、どうなるか。結果として、若くして病気で命を落とす者が多く出た。
「……何故。友を、家族を。失わなければならないのか」
俺の親友、と呼んでいいのか分からないが。そんなアイツも、若くして病で命を落としたのだ。俺の運命を変えた、友。カリスマに溢れる、知識欲の塊のような、戦争狂。そんな、生まれてくる時代を間違えたような、おかしな人間。
「何故、と。沢山の疑問を、抱えたことだろう」
今回集まった地上奪還軍のそのほとんどは、親友をきっかけに知り合った者たちだ。その規模は、地下通路の繋がらない他の国々にまで及んでいた。長年かけて再現した通信機器を使い、今の我々の集会を彼らにも伝えている。対エイリアンにおいて一番立ち回れそうな、あの国とも。地下世界へと逃げる前、取られた国土を取り戻し、最後まで徹底抗戦したという、熱き日の丸を掲げるあの国とも繋がりが持てたのは、本当に、アイツのおかげだった。
「本来ならば、きっと。此処に立っていたのは。皆が良く知るアイツだっただろう」
プラチナブロンドの髪と、深い紅色の瞳。アイツの一挙一動が、話す言葉の一つ一つが。人を惹きつけてやまない、そんな才能の持ち主。
「エイリアンと戦争がしたい、などと。満面の笑みで語ったのはきっと、アイツぐらいだっただろう」
軍学校、と一応名付けられた学び舎で、席が隣同士になったことから始まった交流。同じ紅い瞳が珍しいから、と色んな所に連れまわされ、組手の相手をさせられ、成績を競い合い。そして、共に教授から聞いた『戦争』という単語。その時からアイツは、数少ない文献や資料を調べ回り、多くの伝手をつくっては、戦争に一歩近付いたゾ! と笑って報告をして来たものだ。人類で殺しあう余裕など無いというのに、一体何と戦争するつもりなのか。軽い気持ちで聞いた俺に、嬉々として、彼は。何を言うんだ、我が友よ。勿論、エイリアンに決まっているだろう! と言い放ったあの日を、今でも、鮮明に。覚えている。
俺の親友は、蒼天を見る為でも、元居た大地を取り戻す為でも無く、『戦争をする為』に地上奪還軍を作り上げようとしていたのだ。
「これは、俺の自己満足でもある。皆に声を掛けた時にも伝えたが。命を散らす間際にも戦争が出来ないことを惜しんだ、俺の親友に。この戦争を、捧げる」
アイツの遺志を継ぐだとか、そんな事は考えていない。俺が、戦争を起こしたかっただけ。ただ、それだけの話だ。当然、エイリアン軍に負けるつもりは毛頭ない。どれだけの間、戦争狂である親友と共に過ごしてきたと思っているのか。
アイツとは、隣同士で支え合って助け合うような間柄では無かった、と今でも思っている。だからこそ、言葉を借りるぞ。親愛なる友よ。
「『さぁ諸君、反撃の時だ!』」
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