エピローグ アノ日の後悔にサヨナラを

 薄暗い夕方。


 雲行きの怪しい空の下、貯水池のある大きな広場にポツンと立つMは耳から離した携帯の画面に目を向ける。


 以前から充電をしろとうるさく点滅していた携帯はやがて点滅すらもなくなり画面には漆黒の闇が広がった。


 そんな携帯を貯水池に向かって投げ捨てる。


 放物線の軌道を描きながら宙を舞った携帯はポチャンとあまりにも拍子抜けな音と共に姿を消した。


 これでアイツと交信する手段はもうない。

 今後の人生で交わることもないだろう。


 携帯の沈んだ池を見ながら速人のことを思い返す。


 確かに速人の言うとおり、Mは未来を知る人間だ。


 おそらく、速人とは十年は離れているだろう。


 だから速人たちのいる時代に起きていた連続誘拐殺人事件の顛末も、五人目の被害者がいつどこで殺されたのかも、この場所が本来、美和の死体が遺棄されるはずであったことも知っている。


 だからこそMは速人たちの知らない被害者の情報を持っていたし、それを与えることができたのである。


 そして速人が唯一、最後まで気づかなかったこと。


 それはMが未来の速人自身であるということだ。


 故にMも事件が起きた当時、同じように事件を探っていた。


 彼と違うのは探っていた理由が、単なる興味本意でしかなかったということだけだ。


 だが、遊び半分に事件を探っている間に美和は事件の六人目の被害者となった。


 それを聞いた時、Mは呆然とするしかなかった。


 高校で互いに道を違えたとはいえ、中学時代は仲の良かった彼女の死に心が追いつかなかった。


 立ち直れないのではないかと思えるほど深い悲しみと虚無感がさいなみ、そこで自分が彼女を好きだったことに気づいた。

 しかし、すべてが遅すぎた。


 その後、記者としての職を得て日々の仕事の合間に地道に事件を調べ証拠を集めた。


 犯行は美和の六件目でピタリと止まり、手がかりと呼べるものもなにひとつない状態だったが真実を求め続けた。


 そして過程で手に入れたのがあの携帯電話だった。


 最初はMも半信半疑だったが、会話を重ねていくにつれて電話口の速人が自分自身であることを実感した。


 そして速人が犯人である吉田を捕まえて美和を救ったことで未来の流れは変わった。


 もちろんそれでこの世界の美和が蘇ったわけではない。


 しかし満足だった。


 自分じゃない自分が美和を救えた。

 Mにはその事実だけで十分だ。


 そんな彼の気持ちと相反するように空から雨が降り出した。


 叩きつける雨粒を浴びながらMは空を見上げる。


「美和。俺は……君を救えたかな?」


 ポツリと呟いた彼の言葉を聞く者はいない。


 ただ一人、美和のことを思うMの心を洗い流すように雨は降り続けた。



◆◆◆◆◆



 最終話まで読んでいただきありがとうございます!


 幼なじみのために命をかける速人カッコいい!

 Mも救われてほしかった!


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 そして、よろしければもう一作!

 戦う迷彩小説家――森川蓮二の小説を読んでいただけるととても嬉しいです!



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 サロゲート~特別潜入捜査官と言の葉の魔王〜(https://kakuyomu.jp/works/1177354054881622909

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