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「これから、テストの合計点数と順位が書かれた紙を配りますから、名前を呼ばれたら取りに来てください。」
運命の日がやってきた。帰りのHRで、担任がクラスメイトの名前を呼んで、テスト結果が書かれた紙を渡していく。
「やった!オレの順位、前より10上がってる。」
「それって、上がったって言えるほどかよ。いや、オレは逆に20下がったわ。」
「よかった。半分よりも上だ。」
テスト結果を見たクラスメイトたちが、渡された結果を元に盛り上がっている。いよいよオレの番がやってきた。
「中里君。他の先生にも言われたと思いますけど、あまりよくないみたいですね。もうすぐ三年生になりますから、気を引き締めて勉強をしてください。」
担任からもらった紙を見てみると、先生に言われるまでもなく、今までで一番悪い成績だった。数学に限らず、どの教科でも、前回のテストより大幅に順位が下がっていた。
「福島さん。あなたにしては珍しい。中里君と言い、どうしたんですか。」
くそ女も、相当に前回から順位を落としているようだ。担任の言葉に、くそ女は軽く答える。
「他の先生にも言われましたが、今回、調子が悪かったんですう。次は頑張るから、問題ありません。」
「まあ、本人が言うなら、そうなのかもしれないですね。次に期待しましょう。」
そして、別府えにしの番がやってきた。担任が名前を呼び、別府えにしにテスト結果が書かれた紙を渡した。
「ずいぶんと今回点数が良かったみたいだけど、これはどういうことかな。」
他の先生たちの反応とは違い、担任は彼女のテスト結果に不満そうだった。彼女の実力を疑っているのだろうか。
「どういうこともありません。これが本来の私の実力です。別に不正をしているわけでもないし、先生方に媚を売っているわけでもないですよ。」
テストの順位が書かれた紙を担任から奪うようにもらい、別府えにしは内容を確認する。そして、担任に満面の笑みを浮かべた。
「先生、私、今回すごい勉強を頑張ったんです。ほめてくれてもいいでしょう。」
先ほどの言葉とは打って変わり、中学生らしい、子供らしいおねだりをする別府えにしに、担任は困惑しつつも、感情のこもらない賞賛の言葉を述べた。
「オメデトウ。これからの別府さんの勉強にも期待していますよ。」
「ありがとうございます。」
テスト結果が返され、別府えにしとの賭けがどうなったか、オレとくそ女、別府えにしの三人は、放課後少しだけ、部活に遅れる旨を伝え、話し合うことにした。
「それで、顔が緩んでいたけど、順位はどうだったのよ。」
その日の放課後、オレたち三人は、クラスとして使われていない、教科準備室に集まっていた。集まると同時に、くそ女がすぐに別府えにしに言葉を投げつける。
「まあまあ、早く部活に行きたいのはわかりますけど、そんなにすぐに本題に入ることはないでしょう。」
結論を急ぐくそ女とは対照的に、別府えにしは余裕を持った態度を取り、それはオレに彼女への不信感をあらわにした。
「えにし、もったいぶってないで、さっさと言ってくれないか。オレもさっさと部活に行きたいんだ。」
「あら、こうたろう君までそんなことを言うのですか。ふうん、わかりました。ですが、最初に、私から、大切なことを言わなくてはいけません。まだ、先生方にも話していない、とても大切なことです。」
オレたちの気持ちを理解したのか、彼女はすぐに本題に入ることにしたようだが、その前に何か言いたいことがあるらしい。すうっと息を吸い、一息に言葉を吐きだした。
「私、二学期いっぱいで転校することになりました。」
『えっ。』
彼女の言葉はそれほど大きくなかったのに、オレには体育館に響き渡るほどの大声に聞こえた。彼女は、以前から、自分の家は引っ越しが多いと口にしていたが、本当に引っ越すとは思ってもみなかった。彼女が転校してきて、まだ一年もたっていないのだ。
言葉の意味を理解する前に、驚きで思わず声が出てしまった。それは、くそ女も同じだったようで、オレとくそ女の声がかぶってしまった。
「ふふふ、驚き方もそっくりで、仲がいいことこの上ないですね。それで、引っ越しするのは決定事項なのですが、その前に、私はこの学校に置き土産でも残していこうかなと思いまして。まあ、小学生のあの時から、転校する際には必ず行っている、もはや私の中の年中行事と言いますか。」
オレたちの驚く姿を笑いながらも、別府えにしは話を続ける。
「年中行事と言っても、結構この作業は頭を使うんですよ。ですが、達成した時のあの何とも言えない感覚は病みつきになります。それで、私は今回も念入りに下調べをして、挑んだわけです。」
「い、いきなり、何を言い出すのかしら。私たちは早く、部活に。」
「だから、そう急がずに、まあ、落ち着いて話す時間がないのは確かですね。では、手短に話しましょう。ええと、なんでしたっけ。」
「まずは、今回のテストの結果だろう。えにし、結果はどうだったんだよ。」
グダグダと、オレたちをあおるかのように、首をかしげている彼女の様子にいら立ち、今度はオレの方からテスト結果を尋ねた。それを聞いた彼女は、たったいま、その話題について思い出したかのように手を鳴らして、たいそう驚いた表情で、話しだした。
「テスト、テスト。そう、テスト結果が今回の置き土産に関係しているのでした。やはり、学生の本分と言えば勉強。勉強と言えば、当然テストがあります。テストというのは、結果が目に見えてわかるので、私は好きなんですよ。」
「長話はいいから、早く結果を。」
「もちろん、一位でしたよ。」
オレの催促の言葉にかぶせるように、別府えにしがテスト結果をようやく公表した。重ねられた言葉に、オレは驚くことはなかった。彼女の実力なら、一位も可能だろうと思っていた。
「い、一位って、あ、ありえないわ。だって、あんた、一学期のテスト。」
信じられないと言った表情で、くそ女が別府えにしに詰め寄って問い詰める。
「こんな状況で嘘を言う必要はないでしょう。全教科満点を取ろうと勉強はしましたが、二年生になってくると、内容が難しくなってきますね。とはいえ、今回のテストでは、私のミスが原因で点数を落としていたのが大半でしたけど。」
「そんなに頭がいいのなら、どうして、赤点なんか。」
「だから最初に言ったでしょ。私は転校するたびに、置き土産を置いていくと。そのためには、テストの点数を操作する必要がありました。いい機会だから、今回の計画を話しましょうか。本来の計画とは少々違いますが、これはこれで面白い結末になりそうです。」
それから語られたことは、オレの想像を超えるものだった。
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