月曜日になった。帰りのHRでテスト結果が配られた。細長い紙きれに5教科のそれぞれのテストの得点、その下に各教科の個別の順位、一番右の欄に5教科の合計点数と総合順位が記載されていた。さらには、クラス内の順位も学年順位の下に記載されている。


 これもまた、名簿順に先生が生徒の名前を呼んで、教壇の前で渡すことになっていた。私の番が来たので、名前を呼ばれて教壇前まで歩いて行って受け取る。



「よく頑張ったなあ。これからもがんばれ。」


 先生はたいそう嬉しそうだった。よほど良い順位だったのだろう。そっと渡された紙きれを見ると、何と驚くべき順位が記載されていた。


 席について、思わず二度見をして確認していると、後ろから覗きこまれていたようだ。どうやら、結構な時間、眺めていたようだ。


「すごおい。武田さん、学年一位だって。」


 クラス中に響く大声で、別府えにしが私の順位をクラスに伝えた。クラス中が一気にざわざわとうるさくなる。



「まじかよ。」


「うちのクラスに一位か。」


「小学校の時から、あやなは頭よかったもんね。」



「そんなことないよ。ただ、今回は初めてのテストだったから頑張っただけだし。」


 驚きの声と、賞賛の声が相次ぎ、それにこたえるのに精いっぱいになっていると、別府えにしはその一言だけで、そのまま自分の席に戻り、そのまま今度はイケメンバカに話しかけていた。



「静かに。まだ帰りのHRは終わっていませんよ。別府さんもむやみに人の順位を他人に言いふらすんじゃありません。」


「はあい。ごめんなさあい。」


 なぜか、別府えにしの言葉は語尾が上がっていて、後ろにハートが付きそうな気色悪い声を出している。イメチェンだろうか。それとも、担任に媚でも売ろうとしているのだろうか。




 帰りのHRが終わり、部活に向かおうとすると、別府さんが先ほどの件を謝ってきた。


「さっきはごめんね。つい、一位を見て驚いて声が出ちゃった。お詫びに私の順位と点数も教えるね。やっぱり、私って自分が思っているほど頭がよくないみたい。」


 頭がよくないという割に、他人に順位を見せるのは平気のようだ。よくわからないのだが、見せてくれたので、遠慮なく見せてもらうことにする。


「えっ。」


 まさかの順位だった。これは予想もしていなかったので、言葉に詰まってしまった。


「武田さんもびっくりしているね、私も自分の点数に驚いちゃった。まさか、私がすべての教科で平均点を出すなんて思ってもいなかったから。」



 普通に考えて、この結果はそう簡単に出せるものではないだろう。だって、すべての教科で平均点なんて、取れるはずがないのだ。それが、現実に起こっている。目の前の彼女は平然とした顔で、私って、平凡な子なのかしら、などとぬかしている。



「そうそう、としや君はどうだったと思う。」


「どうせ、学年最下位でも取ったんでしょう。」


 そんなのは簡単に予想できることだ。だって私は彼とそれこそ、幼稚園の頃からの付き合いである。彼のバカさ加減は私が一番よく知っている。


「ざんねんでしたあ。」


「はあ。」


「何と、3桁ではなく、2桁の順位だったのです。」


 私たちの通う中学校は一学年120人ほどだ。ということは、少なくとも、あとイケメンバカよりさらに馬鹿な奴らが20人はいるということになる。



「私の結果はダメだったけど、としや君が喜んでくれたからよかった。今度のテストも教えてあげようかな。」



「何が目的なの。」


「いやだなあ、ただの善意だよ。そうじゃなかったら、漫画みたいに私はとしやくんと武田さんとの間をさく、嫌な転校生役でしかなくなってしまうでしょう。」



 笑いながら、私はこれから少し用事があるからといって、校庭に行く前に、どこかに行ってしまった。



 残された私は彼女の行動や言葉の意味を考えながら、部活に向かったのだった。


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