第4話 ダメ出し (創作、現実)
「だ、大丈夫ですか? 今、何とかします……
ユウのその魔法で、フトシは幾分、苦しみが治まったようだった。
「うっ……ぐっ……あの化け物は……」
「大丈夫、俺が倒しましたっ!」
そう言って安心させると、彼は、少し怯えてはいたが、恐慌状態からは逃れたようだった。
「……フトシさん、すみ……」
矢を当ててしまったことを謝ろうとしたシュンに対して、ミキが人差し指を口に当て、
「シィー!」
とジェスチャーした。
「でっかい豹に腕と足を噛まれたところまでは覚えているんだが、あのあと一体、どうなったんだ?」
「……あの、私が炎で豹を追い払って、ヒロがトドメを刺してくれたんです。そのあと、ユウちゃんが魔法で治療してくれて……」
「……そうか……みんな、すまない、助けてくれてありがとう……」
フトシが、珍しく素直に礼を言ったので、俺たちは
「当然じゃないですか、同じ職場の先輩なんですから」
と言葉をかけた。
その後、フトシは自分の部屋へ運ばれ、アイザックによってさらに治癒魔法をかけられ、そのまま眠ってしまった。
そして残った俺たち四人は会議室で、アイザックに戦いぶりをダメだしされることとなった。
まず、フトシの足を射貫いてしまったシュンに関しては論外。フトシが大きく動いてしまったということもあるが、状況的に予測できたはずだと叱られた。
さらに、火球をフトシに直接当ててオオザコヤマネコを追い払ったミキに対しても、
「弱い野生の魔獣は炎を恐れるから、当てなくても、彼の手前で燃え上がらせるだけで驚いて飛び退いたじゃろう」
と苦言を呈した。
それを聞いたミキは、さすがに反省していた。
さらに俺もアイザックから、
「あのような大技を狙わなくても、基本的な攻撃力が高いのだから、落ち着いて近づけば、噛みついた状態でもヤマネコだけに攻撃を当てられたはずじゃ」
と注意を受けた。
そしてユウも、
「気を失っていたのだから、先に『鎮痛』の魔法をかけてから『気付け』をかければ、余計な苦しみを与えずに済んだ。順序が逆じゃ」
といわれ、かなり落ち込んでいた。
そんな小言ばかり言っていたアイザックにしても、
「いや、私も、まさか彼がオオザコヤマネコごときにあれほどダメージを受けるとは思っておらなかった……」
と反省の弁を述べた。
するとそれを皮切りに、
「……ぶっちゃけ、フトシさん、弱すぎるよね……」
「攻撃力5って、ヤバイでしょう? 称号『商人』って何? 一人だけ、なんで冒険者職じゃないの?」
そんなふうに文句が出て、
「だいたい、僕、あの人のこと嫌いだったんです」(シュン)
「自分は何にもしないくせに、いつも怒ってたし」(ミキ)
「私は……えっと、何も言えないです……」(ユウ)
「……まあ、自業自得かな」(俺)
と、愚痴まで出てきた。仕事の恨みって、怖いな……。
「まあまあ……いや、商人は、それはそれで重要な職業ですじゃ。先程も珍しい魔石が得られた。彼がいると、魔石やアイテムのドロップ率が飛躍的に上がる。何なら、私が買い取ってもよろしいですぞ」
アイザックはそう擁護するが、この人、何か自分が珍しいものを欲しがっているだけのような気がしてきた。
ともかくこの日は、フトシ以外のメンバーでさらに訓練を実施して、順調に成長することができたのだった。
**********
(現実世界)
ここまで書いた土屋は、それを新作ラノベ『会社まるごと異世界召喚』として投稿サイトにアップし、小説の中とは言え、上司への憂さ晴らしをできたことに満足し、深く眠ることができたのだった。
翌日、早速感想が来ていた。
『投稿者:ダンディ 50歳~59歳 男性
やっぱり、会社の上司と部下の関係って大切ですね。信頼関係が築けていないと、いざ状況が変わると、部下から相手にされなくなるっていう怖さを感じました。教訓にしたいです。これからどんなふうに展開されるのか、楽しみにしています』
(おお、結構年配の人が読んでくれたみたいだ! この内容だと、部下がいる人なのかな? この後も読んでくれそうだし、よかった!)
さらにもう一通。
『投稿者:カワウソ 20歳~25歳 女性
私の部署にも、何にもしないくせにちょっとした事ですぐ怒る上司がいるので、読んでいてスカッとしました! 今後もぜひ続けてください!』
(おお! 同年代の女性から感想が来ている! しかも、内容に共感してくれている! なんか嬉しい!)
憂さ晴らしで書いた小説が結構受けていることに、土屋は感動したのだった。
……といっても、所詮(しょせん)は創作の中の世界。現実に戻れば、またあの嫌な上司と顔を合わせなければならない。
多少のストレス解消にはなったものの、陰鬱な気分が完全に晴れることはなかったのだが……。
さらに翌日。
務めている会社内の電子掲示板に、新しい社長の言葉が掲示されていた。
「上司たるもの、部下の手本となるよう、率先して物事に対応するべし。自分は何もせず、部下に命令だけしておいて、ちょっとした事で叱責するような者は、上司失格と心得よ」
という内容で、土屋はこれのおかげで少しだけ怒られる回数が減り、説教時間もかなり短くなった。
(……神様って、いるんだな……)
土屋は、天に感謝したのだった。
----------
※今はまだ、土屋も、感想を書いてくれた人も、お互いのことを全く知らない状態です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます