S家の爺さんとケーブル切断事件

蒼井のばら

第1話 爺さん

*気の弱い男性は読まないで下さい


ズボラな性格が災いし、いろんなものが 分類無秩序なクリアファイルに入っている。あるものはパンパンに太り、あるものは半ペラの紙一枚だ。捨てては溜まり、処分してはまた増える。同じ人間なのだから仕方ないのだろうが、違う人間になりたいと、今真剣に思っているところだ。

そう、ただ今処分の真っ最中です。

「思い出」のラベルの付いたクリアファイルから はらりと滑り落ちたチケット全面に、大笑いする爺さんの顔。


これは谷中の笑吉劇場のだ..

気に入って二回も行ってしまった…

そんな事を考えて またまたぼおっとしていると、S家の爺さんの顔が浮かんでくる。懐かしい向かいのS家の爺さんの顔。


S家の爺さん と、少し尊敬に欠けた呼び方をしているように思われるかも知れないが、我が家全員、S家の爺さんを心から尊敬し、追慕の念を抱いていることを記しておきたい。ちょっとした逆恨みを持つ人間が約一名いるにはいるが…。


S家の爺さん。まだ働き盛りの一人息子を亡くし、同居するその嫁と孫娘を支えるため、彼女たちがその後働かずとも生きていけるように、リタイアしてから奮闘した白髪の立派な爺さんだった。門の前に椅子を置き、よく寛いでいた。夏はアロハシャツ姿で、秋は隣家の庭木を眺めながら、御近所を空き巣から守っていた。ゴミの捨て方にもしっかり目配りと小言。立派な人生を全うした。

そして今、近所の御意見番ことS家の爺さん亡き今、我が家の前の小路は無法地帯と化している。←やや誇張

10年前、私たち家族がタイから帰国して練馬に住まうようになった頃、夫は大阪に単身赴任し、義母の住む実家に厄介になっていた。

それは、その夫が、この家にたまに戻って来ていた時の話だ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る