第5話「神様」 ~やがて荒野に花は咲くだろう~

とりあえず、総合受付で状況を説明する。

「紹介状がないと5,000円余分に診察料がかかるがよいか?」とのことだった。


「そうですか。では、診察はけっこうです」とはいかない。

 5,000円の出費は痛いが、そんなことは言っていられないので、

 承諾して案内された場所へ向かう。


「神経科」の受付に到着すると、周囲は高齢者ばかりだ。

 首はもちろん、膝や肘などの神経痛に悩まされている患者だろう。


「ものわすれ外来」という大きなポスターも貼ってある。


 受付の女性に「あの……首が……首が右に勝手に回って困っています」と告げる。

 「首が勝手にですか……?」

 聞いている受付の女性は冴えない表情だ。

 言っている自分も、何かしっくりしない。


 しかし、症状を聞かれたのでそのまま話したに過ぎない。

 

 もう一度、私はゆっくり丁寧に説明する。

 すると「本日、首の先生がいらっしゃいます」と要領得たのか答えてくれた。


「ただし、忙しい先生なので、本日、診てもらえるかはわかりません」と釘を刺された。


 待合室には、付き添いを含めて、

 十人くらい人がいる。


 全員、高齢者なので、自然と席を譲る。

 止まっていれば、ただ右を向いている人だ。

 座りたいけれど、不調を抱えているようには傍目には見えない。

 座るわけにもいかない。


 三十分ほど待った頃、名前を呼ばれる。

 何とか見てもらえそうだ。


 今は不安よりも、一体この症状が何なのかということがわかる期待の方が大きい。

 妻を伴い、診察室に入ると、首の専門医という中年の男性医師が座っていた。


 私が診察室の椅子に座るか座らないうちに、医者は病名を言った。

 一瞬にして、解答をもらい、視界が開けた。

 目の前の医師が神様のように思えてくる。


※第5話副題

 Mr.children「ALIVE」の歌詞の一部です。

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