異世界最強チート魔剣士は気弱な劣等生
第1話.主人公はいずこ?
午前中の授業を終え、時緒はアルメリア、フィルと共に学校の食堂に来ていた。
食堂は校舎の裏手にある寮のさらに裏手に建っている。
石の質感剥き出しの煉瓦作りである校舎や寮と比べ、白塗りの壁に丸みを帯びた外観、装飾の施された金属製の窓枠と中々に瀟洒ではあったが、そんな印象も遠くから眺めた場合に限られ、近付くにつれ時の経過による廃れが目立った。
だが、二棟の建物に挟まれる寮と違い、窓際は日当たりが良く、元々この学校施設は高所に位置する為、眺めも良く、憩いの場としては決して悪くない。
魔法学校生活における食事は比較的自由らしく、食堂で決められた時間帯に提供されるものの他、好きな時間に町へ出て各々好きに食事をとることが許されている。
テーブルに並べられているのは、パンのようなもの、肉を焼いた料理、野菜を炒めた料理。食堂での食事内容は時緒の世界での常識の範囲から著しく逸脱するものではなかった。しいて挙げるならば、パンに似た食べ物が時緒普段食べるものに比べて固かったのと、料理が全体的に薄味であったことくらいだ。
「はぁ……、イマイチですわね。ここのお食事……」
アルメリアは食堂の料理がお気に召さないようだ。
「そ、そう? 十分美味しいよ? アルメリアちゃん」
フィルはいつしかアルメリアのことを「さん」付けから「ちゃん」付けに変えていた。アルメリアから事ある毎に気を使うなと念を押されることによる成果はまだ十分とは言えないが、せめて呼び方だけでも時緒と同じようにと、フィルなりに考えてのことであった。
アルメリアは少し不機嫌面になりながらもフィルの言葉に無理に反論しようとはせず、もくもくと食事を口に運ぶ。
丁度昼時である今は食堂内を生徒たちがひしめきあっている。そのような中でもアルメリアの食事風景は様になっており、所作の所どころに育ちの良さが垣間見える。そこだけ切り取ればまるで貴族の屋敷での豪奢で優雅な食事風景にも見え、フィルはついつい見惚れてしまった。
アルメリアのような比較的裕福な家の出の者は、食堂ではなく都度専属の使用人が迎えに上がり相応しい食事場へと送り迎えすることが多く、アルメリアにおいても例外ではなかったが、時緒やフィルに合わせてか、彼女は食堂で食事をとることを選択した。
それがわかるからこそフィルは余計に恐縮してしまっていたが、時緒の方はまるで気付く様子はない。
それどころか食事中にも関わらず目線をあちらこちらへ忙しなく動かしている。まるで獲物を探る動物のように真剣な眼差しだ。
「タイム? お行儀が悪いですわよ」
「さーて、主人公はどこかなー」
例によって時緒は意味不明なことを口にする。アルメリアの一喝も全く耳に届いていない様子だ。
「はぁ……無駄のようですわね」
短い付き合いの中で慣れてしまったアルメリアは早々に諦め、グラスの水をあおった。
「あ! あれ!」
突如時緒が大声を上げ、アルメリアは水を吹き出しそうになる。
「一体何ですの!?」
アルメリアが訝し気な視線を送ると、時緒はどこかを指差していた。その大きく見開かれた双眸は妙に輝いている。
アルメリアとフィルが時緒の指さす方を確認すると、そこには一人の少年。テーブルに腰掛けて一人でパンをかじっているところだった。
折り目正しく制服を着こなす少年は、アルメリアと同じく金色に輝く髪をしていた。
その少年の傍らには一本の剣のようなものが立て掛けられている。
剣の意匠は異質で、ごてごてとした機械のような部品が幾重にも重なり合ってできたものだった。くすんだ色合いの様々な金属部品が押し固まってできたようなその大剣は、時緒たちの背丈程の長さがあり、シルエットが辛うじて剣の形をしているというだけで、明らかに普通の武器でないことがわかる。
それを認めるなり、アルメリアは心当たりがあるのか、あからさまに嫌な顔をする。
「魔剣……、ですわね」
明らかに語気を強めるアルメリアだが、既に興奮気味の時緒にはその変化が伝わらない。
「魔剣!?」
「ええ、珍しくともなんともないですわ。この学校への入学資格を得る方法は大きく分けて三つ。一つは普通に入学試験を受けて合格点に達すること、二つ目はわたくしのように魔術師として認められた家系であること、そして三つ目が何らかの特別な力を有していること。フィルのような特異体質であったり、あの魔剣のように特別な魔道具を持っているとかですわね。そして入学資格を得る者の大半が試験ではなくそういった特別な理由ですの。今期も62人中試験を突破して入学できた生徒は十人にも満たないっていう噂ですし。だからあんなもの珍しくとも――」
「あ、あの、アルメリアちゃん」
フィルはたどたどしくアルメリアの説明を遮る。
「なんです?」
「タイムちゃん、もう行っちゃったよ?」
既に時緒は魔剣の持ち主の元へと駆け出していた。
「ホントにもうっ!」
アルメリアは苛立ちをかじるパンに向けた。その時ばかりはせっかくのお嬢様としての所作が多少乱れているようだった。
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