その1 小人の伝説
「リメア連邦では、十年ぶりに景気が回復。昨年のララク攻撃によるものか、か。戦争で経済が良くなるとは、人間の社会とはやはり理解しづらいな。」シーグラムは、ルートが読んでいた新聞を覗き込み、言った。ルートは手頃な岩に腰掛けていた。彼らは晴天の下、暇を持て余していた。
「なんだよ、ドラゴンって人間の新聞を読むのか?」
「教養のためだよ。人間の社会に入っていきづらくなってしまった今となっては、お前が時々読んでいる新聞や雑誌が私の教材だ」
「そういえば、お前は人間の本も読んだりするっけ。ま、俺は大国の経済よりも、こっちの方が気になるけどね」ルートはとある地方記事を指した。
「小人の家、推定三千年前のものか。なになに、先月エクカト地方にて発見された、小人の住居と思われる遺跡の推定年代が、天禄期のものであると判明した。住居内部には、机、椅子、食器、棚などの家具と思われる遺物が残されており、それらの損傷具合と住居周辺の地質から年代が割り出された。外扉は風化がひどく原型をとどめていないが、内部は荒れておらず、家具調度品はきちんと収められており、まだ誰かが住んでいるかのような状態だった。三千年前のものにも関わらず、ここまで綺麗な状態で残っていたのは奇跡と言える。と、発掘責任者のロウエル教授(キャンベラ王立大学)は語る。なお、この遺跡の住人がどこへ行ったのかは分かっておらず、また、今回発見された一棟以外は見つかっていない」シーグラムは、新聞を読み上げた。
「約一ヶ月前にこの遺跡は発見されたんだ。ここらへんで有名な小人族の伝説が裏付けされたから地元は大騒ぎ。今、考古学者たちが躍起になって探してるのさ」
「小人の伝承というのは各地でおとぎ話などになってはいるが、それが現実味を帯びてきたということだな。しかし、お前、遺跡になんか興味あったのか?私はてっきり、お前のような人間は金になることにしか興味が無いと思っていたが」
「遺跡探索も結構金になったりするんだぜ。価値があるものを見つけられればだけどな。でも、この小人の住居は奇跡の保存状態だったんだ。なら、他の家を見つけられれば——」ルートは悪巧みをするかのように微笑んだ。
「なるほど、先に自分が見つけてしまおうというわけか。しかし、プロ連中にお前一人が勝てるとは思えないが——」
「だから、俺はお前に頼ろうと思ってたわけ。なあ、二百年以上生きてるんだろ?何か知らないか?」
「確かに、私はこの島に来て五十年になるが、土地の人間とはほとんど関わったことがないし、二四七年生きた者が三千年前のことなど詳しく知るわけがないだろう」
「なんか、そのあたりの歴史とか知らないのかよ」
「さあなぁ。おとぎ話くらいしか——」
「なんだよ。肝心な時に役に立たないな」
「——、私にだって知らないことくらいたくさんあるさ。しかし、架空のものと思われていた小人が実在していたのかと思うと、興味が湧いて来たな。私なら、人間が立ち入らない場所に行くのもたやすいしな」
「お!やる気出してくれたか」
「ああ」
「それじゃ、いっちょ探してみますか。小人の家」ルートとシーグラムは、当ての無い宝探しへと出かけた。
二人が今いるのは、南半球に位置する小さな島サウス・アイランド。海を隔てた北西にはストラル王国という島国があり、サウス・アイランドはその統治下にある。この小さな島は、争いごととは無縁なのどかな地域であり、雄大な自然が広がっている。そのため、人々の多くは農業と畜産を行いながらのんびり暮らしている。南国であるため温暖な気候ではあるが、夏は暑すぎるということはなく、冬も強烈な寒波が来ることはなく、一年を通して過ごしやすい気候だ。そのためか、酪農や畜産が盛んであり、牧場を経営している家が多い。
そして、小人の住居が発見された土地というのが、北東のエクカト地方だ。この地方は内陸に位置しており、巨大な山々が軒を連ねている。それらは、サザンアペル山脈と呼ばれる山脈に属する山々だ。サザンアペル山脈は、島の北端から中ほどまで、各地域を横断している長い山脈だ。この山脈の中心あたりの山が最も高く、エクカトはちょうどそのあたりに位置している。ここらの山々の麓には鬱蒼とした森林が広がっており、山頂は雪が年中つもっている。
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