第6話 魔女の嘲笑
目が覚めると低い台座の上で寝かされていた。
俺は暗い場所にいた……全裸で四肢を拘束されているようだ。
カシャ、カシャン……。
体を揺すると鎖の擦れる音。
手首と足首にかけられていた鎖は、力を入れてみたが簡単には外れそうになかった。
俺の腕力で破れないとなると……ただの拘束具ではないだろう。
おそらくは魔法によって強化を施されている魔道具。
股間にかけられた一枚の布切れが、この悪趣味な演出をした者のせめてもの良心だろうか?
不自由な姿勢のまま、首を伸ばしてあたりを見渡す。
閉め切った石畳の室内には何十本もの蝋燭がついており、薄暗い、微妙な明るさがオドロドロしい雰囲気を醸し出していた。
まるでこれから悪魔を呼びだすための儀式でも始めるようだ。
問題なのは生贄の羊がどう見ても俺ということなのだが。
コトン……。
微かな音。
いつのまにか部屋の中に、闇に溶けこむように佇む矮小な影があった。
ボロ切れのようなローブをまとう、そいつは……。
「てめぇ魔女‼」
「くふふ、そんなに睨むなよヒイロ? 恐ろしゅうてワシ、漏らしそうじゃ」
魔女は幼児のような甲高い声で笑う。
そうして余裕しゃくしゃくとおどけてみせる。
彼女は魔王討伐の旅の際に、魔王やその配下の魔族を倒すために貢献した高位の魔法使い。
つまりかつての仲間だが、その姿は常にローブに隠され正体はしれなかった。
そんな魔女に用事があるからと館に呼ばれ、だされたお茶(たぶん睡眠薬入り)を飲んだら、したくもないSMプレイを強要されてるわけだ。
「おい、カオルとイズミはどうした? 無事なんだろうな?」
「くふふふ、安心せい、あの娘っ子二人は館のベッドですやすやと眠っておる。ワシの目的はお主だけじゃ、逆らわぬ限り手だしはせぬよ」
ふう、とりあえず一安心。
一緒に来ていた白黒エロフコンビは無事のようだ。
魔女の言葉に嘘はないと思う。
悪魔と一緒で魔女は人をだますが嘘は言わない。
少なくとも旅の間、自分が出来ないことを彼女は言わなかった。
「それでだ……どうして、こんなことをしやがる?」
「どうして……さてさて、どうしてかのう?」
魔女は、俺にちょこちょこと近寄って身にまとっていたローブを床に落とした。
埃が舞いあがり鼻につく微かなカビの匂い。
そして現れたのは、一糸まとわぬ魔女の青白い裸体であった。
「ちょ、お前⁉」
「すべてはワシの望みのためじゃ」
「の、望み……だって?」
魔女の指が俺の股間にかけられた布切れをつかんだ。
「くふ、くひひ、そのためにヒイロ……お主の体はワシが利用させてもらうぞ」
「な……なんだとっ!?」
「くふ、くふふふふ、恐れることはない……痛くはしない、むしろこれから行うことはとても、と~ても気持ちいいことじゃ。くふ……くへへへへ」
彼女の血の色艶をもつ赤い唇が三日月のように裂ける。
予感する。
これから行われようとしているのは快楽という名の魔女の拷問。
それは甘い腐臭の香りがする果樹に似ていて……俺は恐怖で絶叫した。
「や、やめてよおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
こすこすこす…………。
「つまり、ワシの目的のためには、お主の魔力が必要となるのじゃ。なにしろお主は曲がりなりにも神に選ばれし者。血の一滴一滴にすら濃密な魔力が秘められている。命を宿す精となるとその数倍と言ってもよいじゃろう」
こすこすこす…………。
「心の臓をくり貫いて食らうのが一番確実だが、そのためにお主の命を奪ってしまっては本末転倒。ワシの将来せっけ……オホッンゴホン‼ ……う、うむ、目的も達成できなくなるからのう?」
こすこすこす…………。
「まあ、そういう訳でいい加減、おっききしないかヒイロよ?」
「ふっざけんなっ!!」
小さいお手てでがんばる魔女に対して叫んだ。
俺の腹部に乗っかって、騎乗姿勢を決めている魔女を見上げた。
カラスのような濡れ艶をもつ黒髪と白皙の整った顔立ち。
病的だが透き通る柔らかそうな肌。
ふるいつきたくなるほどの美人である……あと十年も成長すればの話だが。
現時点では短い手足に大きい頭、そしてイカ腹のどう見ても六歳前後の幼女であった。
そう、これがボロボロローブの魔女の正体である。
「ふ、ふーむ、おかしいのぅ? 聖女の話によると裸をちょっことみせて、こすこす擦ればすぐに、おっききするということじゃったのだが……?」
「なんだよそれ! 馬鹿かっ、馬鹿じゃねーの! 幼女で興奮できるかよ!! いくらなんでも、おっききはねーわ!! ばーかばーか‼ ……といいますか、聖女さんがそんなことを仰っていたのですか?」
「うむ、あやつ、ああみえて中々の好き者じゃ」
「え、ええ!? ま、まじか? うはぁ……せ、聖女じゃなくて性女だったん!?」
「うむ、旅の間は男を取っ替え引っ替えしておったぞ」
あの清楚な見た目のおっぱいが大きくて、お淑やでおっぱいが大きくて、お姫様カットの深窓の令嬢という感じのおっぱいの大きいお嬢さんが!?
ちくしょう‼
知りたくもなかった事実に俺のピュアなハートがブレイクしそうだ‼
俺は別に処女厨でもユニコーンでもないが、それはそれとして結婚前提のお付き合いのつもりで告白した可愛い娘さんが実はビッチだったと聞かされると、大玉砕した身としては衝撃的だけどなんだかこうNTR的な興奮がムクムクと……。
「ぬ? 少し、おっききしてきたかのう?」
「ぶ、ぶらあああああああああああぁぁ!?」
まずい!?
歯を食いしばって慌てて精神を集中する。
寿限無寿限無寿限無……うおおおお静まりたまえ我が内のマーラ神よぅ‼
「む、縮んだ……」
はぁはぁ……危ない、立て直したぜ。
しかし、このままではいずれ、おっききすることが目に見えている。
俺に幼女で興奮するような性癖はない……。
俺の好みは、甘えさせてくれそうなお淑やかでおっとり系な隣のお姉さん。
おすそ分けとい名目でわざわざ手料理を作ってくれて、陽だまりの中で洗濯物を干す姿がえらく絵になってたり、朝から箒で庭先の掃除をしているところを挨拶すると「おはようヒイロ君。今日も車に気を付けて元気にいってらしゃいね」そう、にっこり微笑んで見送ってくれる、おっぱいの大きい家庭的な女性だ。
……あれ、なんか身近にいたような?
と、まあ、あれだよ……一昔前のエロゲーテンプレ的なお姉さんはともかく、いくら神に選ばれし勇者ぽい俺でも、生き物としての生理現象までは消せないのだ。
愛する女の手以外ではシャインスパークしない?
んなことはないよ?
男なんて、EDか精神的重圧がなければ誰の手でもおっききできるもんです。
だからと言って、モミジのような小さいお手てでおっききするわけにはいかない。
俺にも人として、一人の男としての誇りと尊厳がある。
ぶっちゃけるとロリコンの汚名は着たくない!
そんなわけで漫研で行われた夏休み恒例の地獄合宿イベントの一つ【徹夜でホモビ鑑賞会チキチキ飛ばしっこレース純情派】を思いだし必死に耐えていた。
「ほれ! たて! どうした! たたせるのじゃヒイロ‼」
「ふぐぅ‼ ふぐぅ‼ ふぐぅ‼ ふぐぅぅぅぅぅうぅ‼」
こすこすこすと、意外と男のツボを心得た繊細な上下運動。
しかし、俺の暴れん坊は不動のままピクリともしない。
ふふ、魔女さんよ……あんた、年の割には中々のテクニシャンだが、経験豊富な大人な俺(嘘っぱち)にはまったくもって無駄なんだぜ?
「く、耐えるか⁉ さすが……さすがはヒイロじゃ‼」
しかし、そんな余裕な態度とは裏腹に、俺の精神的疲労は激しい。
素敵な笑顔がまぶしい、全裸の兄貴たちがネットリと熱く絡み合う狂宴映像を思い出すことは、この世界で英雄とまでよばれた俺の魂すらも削る
「……まあ、お主が今のワシの体で興奮できぬのはなんとなく分かっておったのじゃ」
「へ、へへ、こちとら前世じゃ、年の離れた妹が三人もいたからな……おっききしてたらそっちのほうがやばいぜ?」
「ほほぅ、妹三人とは……なるほど年の割には忍耐力と包容力があるわけじゃ」
魔女は嬉しそうに微笑んでペロリと唇を舐めた。
見た目に似合わぬその妖艶さ、首筋から背筋……そしてお尻のほうにぞくぞくとした寒気が走る。
おっききはしてないよ……たぶん?
「それにお主は乳と尻が大きいおなごが好みだしの? だからこそ余計にお主の精が……魔力が必要なんじゃよ」
俺の性癖が何故か把握されている?
魔女は台座から降りると横でごそごそとしだした。
「……というかなんで必要なんだ。無理やりこんなことまでしてさ?」
同じ釜の飯を食った仲だ。
なんだかんだ色々助けてもらったし、精〇の協力は色々な意味で厳しいが、血でよければ死なない程度に差しだすけど?
「ワシは個体数の少ない長寿の種族でな、こんな見た目でも三百の刻を生きておる」
「へぇ……」
種族はともかく、年齢についてあまり驚きはなかった。
いや、魔女の正体が幼女だったってことには驚きはあったけどね?
まあ、魔族との戦いでの活躍や旅の指針ともなった深い知識を垣間みていたし、会話からして普通ではないのは理解できたから。
あと、魔女嘘つかない。
「ワシら種族の成長は急激で、芋虫が蛹になって羽化するように幼少期から一気に青年期になり、後は死ぬまでその姿で過ごすのじゃ」
「一気に……それは凄いな」
第二次成長期は省略するってことかな?
「しかし、そのためには莫大な魔力が必要となるのじゃ……その魔力を溜めるために長い幼年期を過ごすのだが……」
「あー……つまり魔力さえあれば、幼年期とやらを飛ばして大人になれると?」
MMORPGの高速育成みたいだな。
育成代行俺、ザー〇ン、――円からとか?
……いや、全然笑えないよ。
「くふふ、流石ヒイロじゃ、察しがいいのう」
わーい、幼女に褒められた。
「では目的のため、大人になるために、こちらも秘策を使わせてもらうのじゃ」
意味深な発言に意味もなくドキドキする。
もちろん、おっききはしない。
魔女は紐がついた薄ピンク色の布きれを、俺の顔に被せるようにおおってきた。
「お、おい、なんだよこれ⁉」
口がもごもごして話しにくい。
気のせいかなぁ、ちょっと変態的な感じだ。
でもなんだろう、微かな匂い……非常に心が落ちつく良い匂いがした。
うん、好きな香りだと思う。
しかし、この匂いはどこかで嗅いだことがあるような?
「くけけけ、そいつはなヒイロ……」
魔女は嗤う。
まるで蜘蛛の巣に絡めとられた蝶々を見下ろすように残酷に嗤った。
「お主と一緒にきたダークエルフの娘っ子が履いていたパンツじゃ」
…………くぎゅ?
「たった! たった! ヒイロがたったのじゃ‼」
魔女はアルプスの小娘のように大声ではしゃぎ、短い手足を大の字に広げて、縛られた俺の回りで喜びの裸踊りを舞っている。
俺はカオルの紐パン一つで……おっききした。
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