第5話 それぞれの戦い

 確かめる方法が一つ、ある。

 インカムをつけて、寝てみよう。もし悪夢なら、そうすれば入り込める。でも、元凶は倒したはず。なら何で、悪夢が?

 インカムをつけて眠った。偶然であって欲しいが、そうじゃない可能性の方が高い。


 やっぱり、あの暗い空間に来た。

 悪夢だ。どうしてか、復活している。

「な、何で? どうして?」

 その疑問に答えてくれる人はいない。ただ闇の中を歩いていく。

 前に何かいる。

 男の子が、お化けに襲われている。

「怖いよ、ママぁ!」

 助けなくちゃ。妖刀ヤタガラスを思い浮かべ、出現させる。

 お化けはこちらに気付いていないし、男の子は小さい。これならいける。

「えええい!」

 水平に切る。お化けは簡単に倒せた。

「ボク、大丈夫?」

「ママぁ!」

 男の子は、瑠璃のもとから逃げてしまった。仕方なく、瑠璃はスイッチを押した。


「たく、みんな、大丈夫かよ?」

 慎治は暗い空間の中で言った。

 オレ以外、感づいてない? そんなはずねえ。少なくとも紗夜は気付いてるはずだ。

 野球部の奴ら、みんな悪夢を見てやがったぞ。

 間違いねえ。まだ悪夢を完全に倒したわけじゃねえ!

「とにかく、今日の悪夢を討伐しなきゃなあ!」

 ちょうど目の間に女の子が走ってきた。人体模型に追われている。

「こんなかわいい子を追い回して! この変態め!」

 女の子と人体模型の間に割って入る。

「お前が手の内、いや文字通りよ、腹の内を明かしてもなぁ、オレは手加減しないぜ!」

 弱点が丸見えだよ。そのドクンドクンしてる心臓だろぉ!

 マスターブレードを心臓に突き立てる。刺さった。だが人体模型は最後の力を振り絞って右手で殴りかかってくる。

「そんなのオレには、通用しないぜ?」

 アホぅ。盾が見えねえのか? このアリイハの盾が!

 人体模型の攻撃をガードしたら、剣を抜いた。人体模型はそのまま、後ろに倒れた。

「さて、今宵の悪夢はもう倒した。お嬢ちゃん、怪我はないかい?」

 慎治がそう言って女の子に手を差し伸べるが、彼女はポカーンとしている。

 何か恥ずかしくなってきたな。しょうがねえ、スイッチ押すか。


 僕以外、気付いてないわけないよね?

 でも、僕しか闇の中にいない。どうして? 忠義は理由を考えた。

 いや待って、そもそも何で、悪夢が復活してるの? 吹奏楽部のみんな、悪夢見たって言ってたよ?

 考えてもわからないなら仕方ないよね。とりあえず歩こう。

「ひいいぃ、来るなあ!」

 おじさんが襲われてる。あれはヒグマだ。北海道で山に登るときは、あれにだけは気をつけろって爺ちゃんがよく言ってたな。でも、カラシニコフの敵じゃないね。

「おじさん! 下がって!」

「だ、誰だあんた?」

「いいから早く! 死にたいの?」

 そう言うとおじさんは後ろに下がった。

 はい。もう完璧。ヒグマは僕に威嚇してくるけど、僕は自動小銃持ってるんだよ?もっともヒグマにこれは理解できないだろうけどね。

「ファイア!」

 ダダダダダダダダッ!弾倉が空になるまで撃ちまくった。脚をね。

 脚を負傷して動けなくなったら、十分後ろに下がってM67破片手榴弾のピンを抜いてヒグマの元に投げた。

 ヒグマはそれに興味津々。口にくわえてる。でもそれ、気を付けた方がいいよ?

 次の瞬間、爆発音がした。ヒグマの上半身は原型を留めていない。

 僕の勝ち。なんて鮮やか!

「い、い、一体あんた、何者なんだ? 今のは何だ?」

 説明するの面倒だし、もうスイッチ押しちゃお。


 ありえない…。悪夢はまだ、終わってなかった…。

「どうしてなの…? 確かに瑠璃がとどめを刺したはず…」

 とりあえずコンパス頼りに進む。今日は右だ。

 しばらく歩くと見えてきた。あの悪夢には、見覚えがある。

 瑠璃と璃緒だ。また瑠璃が璃緒のこといじめてる。

「そこまでよ」

 そう言って紗夜は槍を構えた。

「悪夢はこっちよ! 騙されないで!私が今、悪夢と戦ってるの!」

 瑠璃が言う。でもそれ、意味ない…。

「紗夜、私じゃない! 信じて!」

 わかってるよ、璃緒。

 今日の悪夢は瑠璃。

「また璃緒の夢に出てきて…! いい加減にしなさい!」

 紗夜は槍を構えて突っ込む。

 瑠璃が言う。

「私じゃないんだって! 悪夢はこいつよ! 璃緒の方なのよ!」

 通じないよ…。だから、意味ないんだってそれは。

「これが瑠璃の悪夢なら…。どうして芋虫が出てこない…?」

 紗夜は続ける。

「それに瑠璃は…。璃緒のこと、嫌ってなどいない…!」

 だから悪夢はあんた…。

「あっ!」

 今頃気付いたの…? 呆れる。

 瑠璃は刀を鞘から抜いた。でも、もう遅い…。

 こっちの方がリーチ長いし、素早い。

 次の瞬間、紗夜の槍は瑠璃の胸を貫いた。

「うぐえ!」

 そう言うと、瑠璃は力なく崩れ落ちた。

「あ、ありがとう。紗夜!」

「いいえ…。悪夢討伐団として、当たり前のこと…。璃緒には説明不要だよね…?もう、スイッチ押す…」

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