第四章 夢見神社

第1話 討伐の日々

 何故か楽しみだった夏服の期間も今日で終わり。休み明けの火曜日からはまた、冬服に戻る。

 クローゼットの中のブレザーをハンガーごと取り出し、それを覆うビニールをはがしていると、

「お姉ちゃん、ちょっと来て。ここの問題、わかんないんだけれど…」

 璃緒に呼ばれたので、まだはがしている途中であったが、彼女の机へ向かう。

「ああ、これね。まずはこのXは…」

 これは私もさっき、苦労して解いた問題だ。だから説明も苦労する。

 でも、璃緒はすんなりとわかってくれた。前は自分は頭が悪いとか言ってたけど、やってみれば璃緒だってできる子だ。一学期期末テストも中間よりもできたらしく、父に褒められていた。

 あの一件以降、璃緒は変わった。相変わらず服は着崩してはいるけど、態度が以前とはまるで違う。瑠璃に似てきたと言えばわかるかもしれない。

 宿題も日課の勉強も終え、二人は寝ることにした。

 璃緒は、悪夢討伐団には入らなかった。いや、自分が入れさせなかったのだ。入れば慎治と仲良くできるかもしれないけど、それが隙を生んだら大変だ。だから、璃緒には悪いけど、インカムは渡さなかった。

 大崎先生は最初は喜んでいた。装置が新たに二つ、出来上がったからだ。危険な目に合うかもしれないけど、これで人員が補充できる、誰か候補はいないか、なんてことも言っていた。

 確かに最初は瑠璃も、真面目に戦ってくれそうな人を探した。でもこれと言っていい人はおらず、あとは紗夜たちに任せっきりだった。

 最近の大崎先生はガックリしている。勧誘すると最初はみな、ヒーローになれるとか、恩返しをしたいだとか言って、悪夢と戦うのだが、みんな怪我したり、初めのころの瑠璃みたく挫折したり、中には他人の悪夢が見るに堪えないと言って、逃げ出した人もいた。悪夢討伐団のメンバーは、結局いつもの四人だ。

 布団に入って、インカムをつける。思えば試験期間中も、夏休みも、旅行中も、ずっと戦ってきた。子供からお年寄り、知人から知らない人、男女問わず。毎日悪夢と戦い続けた。四人とも目立った怪我もなく、順調だった。

 また今日も悪夢と戦う。それが、私に与えられた使命だ。

「お姉ちゃん、お休み。討伐、頑張ってね」

 上から璃緒の声が聞こえる。

「うん、頑張るよ。お休みなさい」

 さて、今日の悪夢はどんなものだろうか? 寝てみないとわからない。


 もう見飽きた。この光景は。

「あなたのお父さんからもらった薬、良く効く…。お蔭ですぐに眠れた…」

「だろぉ! 初めっからそうすりゃあよかったんだよ!」

 どうやら紗夜は薬を処方してもらったらしい。今日は早く現れた。

「さあ、揃ったんだし。早く行こうよ」

 コンパスの示す方向へ向かう。それにしてもこの技術はどうなっているのだろうか? こんなものが作れる大学があることが不思議である。

 紗夜の持つコンパスを見ながら、瑠璃はそれと全く同じものを思い浮かべた。出現したそれを手に握る。

「これでできたら便利よね…」

 ボソッと呟いた。

「それ、意味ねえぜ?」

 慎治が言った。彼の言う通りで瑠璃のコンパスの針の示す方向は紗夜のとは全く異なり、さらにコンパス自体を回せば針もくるくると回った。

「本当だ」

「だろ? 俺だって最初はいけるんじゃね? って思ったがよぉ」

「じゃあ紗夜は、これを毎回どうやって出してるの?」

 紗夜はコンパスをいつもポケットから取り出す。思い浮かべて出しているのではない。

「これは、寝る時に握る…」

「そうなんだ。もしさ、寝てる間に放しちゃったら?」

「多分、消える…」

「思ったより不便なんだな。まあ、この装置も不便だよな。横向きで眠れないしな!」

 慎治の言葉にちょっと賛同できる。インカムをつけていると邪魔だから横向きで眠れない。仰向けかうつ伏せで寝るしかないので慣れるまで苦労した。

「もっと違うタイプのがいいよね。今度先生に聞いてみよう」

「それはやめた方がいいわよ」

 忠義の発案を瑠璃が止めた。

「どうして?」

「先生はこの装置、改善する気はないんだって。前に聞いたから」

「それなのに、数だけ増やすのかよ?」

「人員は確かに欲しい…」

「けどみんな、やめちまって、結局いつもとかわんねえメンバーじゃねえかよ!」

「そうね。人員が増えなかったって、先生落胆してたから、もう数も増やさないだろうし改善もしないでしょう…」

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