第6話 偽物との戦い

「と、とにかく、あれをやっつけましょう…」

 紗夜が言うまで、誰も何も動いていなかった。

「心が痛むけど、今日の相手は偽物の瑠璃…」

 紗夜が槍を構えようとした。その時、偽物の瑠璃がこちらの存在に気付いた。

 何かしてくる! 手に持った鞭で!

 しかし、やってくることは非常に単純だった。

 偽物の瑠璃は鞭を捨て、本物の瑠璃に体当たりしてきた。

「いったい!」

 二人とも声を上げて尻餅着いた。なんでこんなことしてくる? 訳が分からない。

「おい、どっちが本物だ?」

 慎治がそう言う。

「右、じゃない?」

「私には…。左に見えた…」

 三人は困惑している。偽物をよく見ると、さっきまではなかったのにご丁寧にインカムをつけ、刀だって握っている。

 これが狙いだったのか!

 偽物は、本物とぶつかって、三人に、どちらが本当の瑠璃かわからなくさせることが目的だったのだ。

「こいつが偽物よ!」

 瑠璃はそう言われて、指を指される。三人の視線が、本物の瑠璃に行く。

「いいえ、こいつよ!」

 瑠璃は言い返した。すると三人は、偽物の方へ目をやった。

「みんな騙されないで! 偽物は今、私たちを騙すために私にぶつかって来たの!こんな悪夢に騙されちゃ駄目!」

 偽物が言う。でも、みんなには本物が言っているようにも聞こえる。みんなの視線が返って来た。

「おい、紗夜ぉ! どっちが本物だ?」

「私でも、わからない…。どっちとも、私の知ってる瑠璃…」

 紗夜さえ騙す偽物。これは強敵だ。

「さあ、早く、やっつけましょう!」

 偽物がそう言うと、三人とも武器を構える。

 ちょっと待って、これじゃあ、私がみんなにやられちゃう…。

「でも待てよ? お前が本物なのか? 本当に瑠璃なのか?」

 慎治が二人に待ったをかけた。

「確かめてみねえと、攻撃できないぜ?」

「それもそうだけど、本人以外わからないよ? どこをどう見ても、そっくりなんだし」

 二人はどうするんだよと言わんばかりに、紗夜を見る。

「これは…。危険だけども、私たちは手を引こう。何かしてから後悔するのも…。瑠璃同士で戦うのが一番いいのかも…」

 紗夜も混乱していて、きっと自分で何を言っているかわかっていない。言う通りそれは凄く危険だ。

 だが同時に、本物の瑠璃の危険を救ったのも事実だ。

 三人はその場から、一旦離れた。


 鞘から刀を抜く。そして構える。動作もポーズも、偽物は見事に真似ている。

 瑠璃が右に少し動けば、偽物も動く。逆に偽物が少し近寄れば、瑠璃も近づく。

「はっ!」

 偽物の方から切りかかって来た。素早く刀を振り、それを弾く。

 今度は瑠璃から切りかかる。でも偽物もそれを、刀を横にして防いだ。

「くっ!」

 偽物は瑠璃より強くもないが弱くもない。少し、ほんのちょっと違うとするなら、偽物の方が攻撃的だ。

 キン、キン、キンと双方の刀が唸る。

 一瞬、偽物が怯んだ。今だ!

「ええい!」

 だが、すんなりとかわされてしまった。

 今度は瑠璃に隙ができた。偽物が水平に切りかかる。

「…ん!」

 とっさにしゃがんだ。危ないところだった。偽物の刀の刃が、髪をかすめた。起き上がると同時に攻撃するが、それも防がれてしまう。


 戦っている瑠璃の横で、忠義が銃口を向けた。すると慎治が止めに入る。

「おい、なにやってんだ忠義ぃ! 危ねえだろうが!」

「でも、援護しないと、本物の瑠璃がやられちゃう!」

「だからと言って、こうなってしまったら、もう介入できない…。私が判断ミスした…」

 三人にできることはもうないのか…。

「いや、あるぜ!」

 不意に慎治が言った。

「瑠璃ぃ! 押せ、スイッチを! 早く!」

「えっ慎治、どういうこと?」

「そうか…。装置のスイッチを押せば、本物の瑠璃は帰る…。残るのは偽物だけ…。そうすれば後は私たちが偽物の瑠璃を倒せばいい、それだけ…。慎治にしては考えたね…」

「だろぅ! さあ、瑠璃、早く!」

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