ホラー
狂い出した人々が
うろついている夜だった
月は殆ど隠れていて
町は真っ暗だった
友人は言った
連中に見つからないようこの町を出ようと
わたしはその誘いを丁重に断った
何か深い考えがあるわけではなかった
ただそうしたかっただけなのだ
友人は「勝手にしろ」と言い残し
唯一、まともな状態で残っている車でこの町を離れることにした
多分、もう二度とここへはやって来ないだろう
友人を見送ると
わたしは家の中へと入り
二階の自分の部屋の学習机だったものから
エアガンを取り出した
それを持って階段を下りた
電力の供給されなくなって久しい静かな台所で
闇に紛れるようにテーブルに腰を下ろした
父と母はとっくに死んでいた
自分の目で確かめたわけではないが
誰がどう考えたってそうだろう
もしそうでないのなら
どうして今ここにいないのだろう?
わたしは遥か遠い昔
この場所で行われていた夕食のことを思い出していた
まるで夢だな
わたしは一体、何をしているのだろう?
何がしたいのだろう?
おそらくこの町でたった一台、完璧な形で残されていたあの車に乗って
友人と一緒に逃げ出すことだって可能だったはずなのに
どうしてわたしは今こんなところで
こんなことを考えているのだろう?
思考は途中で中断された
連中がついに来たのだ
隣りの家の窓硝子が派手に割られる音が響いた
そして複数の小さなひそひそ声
わたしは掌で弄んでいたエアガンを花瓶の横にそっと置き
腰に差していた拳銃の残弾数を確認した
立ち上がる
玄関の扉が野蛮に破られた
あらゆる理性を何処かに置き忘れてきた連中が土足で家に侵入して来た
わたしはビスケットが食べたかった
あとうどんも
その両方を同時に食べたい気分だった
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