腐った果物


テーブルの上に

腐った果物があった

食べる?

きみは言った

「食べないよ」

ぼくは言った

「食べるわけがないよ」

そう付け加えた

そう食べないの

きみは言った

「きみは食べるのかい?」

尋ねた

暫しの沈黙

もちろん食べないわ

だって腐っているもの

そう彼女は付け加えた

ぼくは少し考えた

この人は自分が食べたくないものを薦めたというわけか

「きみはぼくが嫌いなのかい?」

どうして?

きみが尋ねた

「だってきみはぼくに腐った果物を薦めたじゃないか」

薦めてないわ食べる? って訊いただけよ

「ならいいや」

あなたのことは嫌いだけどね

そう付け加えた

「………」

長い長い沈黙が二人の間に横たわった

「ねえ」

ぼくは言った

なに?

きみが尋ねた

「さっきからさ、ぼくたちの話しばかりしてて腐った果物のことを放っておいてると思うんだ」

確かにそうね

きみは言った

「なんだか可哀想じゃないか」

わたしが腐った果物なら自分が腐っていて尚且つ誰にも相手にされないなんて絶対、耐えられないわね

ぼくは頷いた

「じゃあこの腐った果物をどうするかまず決めようよ」

そうね

ぼくたちは考えた

わたしは捨てるのがいいと思うわ

彼女は言った

「ぼくも捨てるのがいいと思うよ」

そして腐った果物を捨てた


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