第555話 変わらない、おやつタイム
――可愛いを議論するのって、楽しいよね!
家具類が揃うまでは現状での生活となるため、雨妹は室内を隅々まで掃除していると、終わった頃には気が付けば昼食時が過ぎていた。時間的に、父はとうに王美人とのお茶会を切り上げて帰っていることだろう。
以前であれば、ここでお付きの人なり
「雨妹、こちらにいらっしゃい。軽食に付き合ってくれないかしら?」
そんな雨妹の願望を見透かしたように、王美人がいつものように現れて、雨妹に向かって手招きしてきた。
――もしかして、期待して物欲しそうな顔が出ちゃってた!?
雨妹はなんとなく恥ずかしさと照れとで、赤くなった顔を両手でパタパタと仰ぎつつ、王美人について行く。それにしても、以前の屋敷ならばこうしたことも普通であったが、今のように大勢を召し抱えた環境だと、主自ら声かけする下っ端掃除係というのも、変な状況である。
なにはともあれ、雨妹は父とお茶をしたのとは別の小さめの部屋で、王美人と二人で座った。目の前にはホカホカの饅頭が「召し上がれ」と置かれている。
「ありがとうございます!」
待遇が格段に上がっても変わらぬ気遣いをしてくれる王美人に、雨妹はお礼を言って饅頭を頬張る。
――労働の後の饅頭、最高に美味しい!
ふにゃりと頬を緩める雨妹に、王美人がクスクスと笑う。
「莉公主は雨妹に会いたがっておられましたから、こうして会わせることができて良かった」
王美人がほんわかと微笑むのに、雨妹も饅頭を飲み込んでから笑みを返す。
「私も莉公主がどのようになったか気になっていたので、お話しができて良かったです。公主のお付きの方々も、公主をどのように愛らしくするかを懸命に考えていらして、熱量がすごいですね」
雨妹が掃除中のことを語ると、王美人が「まあ、そうなの?」と目を丸くする。
「けれど莉公主はとても愛らしくていらっしゃるから、すごく構いたくなるのよね」
「ふふ、そうですよね。私もあんな可愛い妹がいたなら、思いっきり構い倒しちゃいそうです」
王美人の意見に、雨妹も大きく頷く。
生母からは「望んだ見目の娘ではなかった」という理由だけで捨て置かれて育った莉が、やっと公主として、いや、人の子としてあるべき環境を手に入れられたことが、雨妹もとても嬉しく思う。肌の手入れがちゃんとなされて適切な食事がとれているからだろう、莉は最初に出会った時と比べて、ずいぶんとふっくらとして顔立ちもパッチリとして来ていた。目鼻立ちは、どちらかというと父に似ている気がする。
――弟もいいけれど、妹だっていいよねぇ!
先だっての友仁との同行旅以来、雨妹の中で庇護欲が爆発しているのだ。年下なら静だって可愛がり甲斐があったけれど、あちらは宇が囲い込んで愛でているので、愛で路線はあちらに決定権がある。しかし友仁や莉は、誰に憚ることなく可愛がられるという自由さがあった。もちろん身分差はあるものの、愛でる心に境界など存在しないのだ。
――父似なら、将来凛々しい美人さんになるかもね!
こうして莉の未来に思いを馳せるのも楽しいものである。
このように、雨妹が一人心の中でニマニマしていると。
「王美人」
扉の傍で待機していた宮女がすすっと近寄ってきて、王美人に何事か囁いた。
「あらあら、今日はお客様が多いわね」
「はい?」
そう言って王美人が微笑むのに、雨妹がきょとんとしていると、部屋に入ってきた人影がある。
「王美人のお手を煩わせてしまったようで、申し訳ございません」
「
そう、何故か立彬がやってきたのだ。
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