第442話 問題の「お宝」
対照的な反応を見せた二人に、
「邸宅の奥の半地下の部屋に、貴人らしき男が寝かされていたのさ」
「ほう」
呂の語りに、
半地下とは、いかにも隠し部屋っぽい場所だ。
そしてなるほど、「お宝」とは物ではなく人だったのか。
「その貴人はどっかの戦にでもいたのか、身体中に剣で付けられた傷痕があり、片腕がない」
「軍の指揮官か?」
「そして、赤い目の男だ」
「なに!?」
続いて告げられた情報に、彼は驚きで目を見開く。
「お主、なんというものを見つけたのだ……!」
慌てたように立勇が小声で呂を叱責しているのに、雨妹は首を捻る。
「その赤い目とは、なにか問題があるのですか?」
雨妹が二人の様子を窺いながら尋ねると、立勇は厳しい顔で答えた。
「隣国、宜国の王族に現れる特徴が、赤い目だ」
「え!?」
これには雨妹もギョッとする。
――お隣の国の王族!?
それは確かに、驚くべき「お宝」だ。
「それって、すごく拙いですか?」
雨妹が問うのに、立勇は深く頷く。
「拙いどころか、事情によっては宜から『王族を拉致された』と訴えられることもあり得るぞ」
「あぁ~」
立勇の指摘に、雨妹もその状況を想像して頭を抱える。
――なんてものを見つけたの、呂さぁん!
できるならば、知らないままにこの地を去りたかった。
雨妹が恨めしい視線を向けるのに、けれど呂は満面の笑顔である。
「まあまあ、そう興奮しなさんなって」
この話を持ってきた呂が宥めてくるのに、立勇が「お前が言うな」と睨みつける。
「それでだなぁ。
実は、俺ぁあまり宜の王族にそう詳しくないんで。
立勇様、顔を見ればわかりませんかね?」
なるほど、呂はこの狙いがあってこの話をしてきたのか。
「……殿下の護衛の際に、宜国の王族と重臣の顔を見たことはある」
「そいつは助かる!」
立勇が渋々答えるのに、呂は嬉しそうに手を叩いた。
というわけで、その日の夜のこと。
雨妹と立勇は、呂に先導されて赤い目の男を見に行くことになった。
「そこの足元、気を付けるんで」
「はぁい」
「狭いが、人が通るには十分か」
呂に注意される雨妹の後ろで、立勇が通路を観察している。
そして雨妹の手には、念のためにと救急箱があった。
寝かされているという怪我人の状態によっては、必要になるかと思ったのだ。
こうして三人でもそもそと隠し通路を歩いた先に、やがて厳重な扉が見えてきた。
「ここなんで」
その扉を指さした呂が、体当たりをするようにして押し開ける。
その扉の奥にあるのは、牀が一つあるだけの簡素な部屋だった。
一応明り取り用らしき隙間が天井にあるが、ちょうど陰になっているのか、月明かりも差し込んでこない。
そして牀の上には、リフィや料理長と同じように浅黒い肌の男が寝かされている。
にしても、病気になりそうな部屋だ。
「こんなところに怪我人を押し込めるなんて……」
雨妹は眉をひそめながら、牀へと近付く。
「もっと明るくしてくれますか」
「はいよ」
雨妹が頼むと、呂が手に持つ灯りを牀の近くへと寄せてくれた。
「……!」
そして灯りに照らされた人物の顔を見て、立勇が息を呑む。
「まさか……」
立勇のかすれ声が、なんとも不穏に響く。
――いやいや、まずは私ができることをしよう。
状況に流されてはいけない。
ここはあくまで秘密の部屋のようであるし、あまり長居は良くないだろう。
作業は素早く終わらせるに限る。
気持ちを入れ替えた雨妹は、寝かされた男を調べ始めた。
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