第301話 いよいよ面会
「まだ、ダジャの話の裏がとれたわけではない。
幸いあの男を見知っている者の話を聞けたし、語られた内容はおおむね真実ではないかという見解はあったものの、間諜であるという疑いは未だ残っている」
「そうなんですね」
解の話に、雨妹もこれまた納得する。
――まあ、そういうことを本当かどうか調べるのって、すごく時間がかかるよね。
話の信憑性と、疑いが無くなるというのは別の問題だ。
国としては、安易に一個人の話だけを鵜呑みにすることはできないだろう。
表向きはダジャを客人として遇しても、裏では疑惑をとことん追求するのも、必要なことに違いない。
「なので、張殿は私が振った内容だけを、端的に話すように」
「わかりました!」
解にそのように言われ、雨妹は大きく頷く。
このようにして、雨妹と解の打ち合わせができたところで。
ドンドン!
戸の方から誰かの気配がすると、戸が叩かれてから開いた。
「お、来ているな嬢ちゃん」
部屋へ入るなり、雨妹に声をかけたのは
そのさらに後ろに、ダジャの姿が続いていた。
他にもダジャの見張りのためであろうか、二人の兵士が両側についている。
――李将軍、いい頃合いで来たなぁ。
きっと雨妹たちの話が終わるであろう時間を計って来たのだろう、と雨妹は思う。
「お前……!」
一方、雨妹の姿を見たダジャは驚いたように目を見張る。
どうやら己の「話が聞きたい」という要望で、雨妹が来るとは思わなかったらしい。
それと、ダジャのまた後ろから入ってきたのは、佳風の服装の男であった。
「どうも!」
その佳風の男が気安い笑顔でニコリと笑い、雨妹に手を振ってくる。
雨妹もとりあえず笑みを返したものの、この男のことを覚えていないのだが、もしかすると佳で雨妹を見知っている相手なのだろうか?
――あの人は、もしかして通訳かな?
ダジャとて簡単な会話のやり取りはできるものの、やはり込み入った内容になると難しい。
それで通訳を用意したのだと思われるが、佳の船乗りであれば異国とのやり取りもあることから、ダジャの国の言葉を話す者がいるのも頷ける。
わざわざ佳から来てもらったのだろう。
そのように雨妹が考えている間に、雨妹は解と共に卓へ着くことになり、ダジャが雨妹の正面の壁際に立ちその隣に李将軍が立つ。
雨妹の隣に立つ明は腰に下げている剣に手をかけているし、さらに卓とダジャとの間についてきた兵士二人が配置された。
――う~ん、厳重警戒だなぁ。
ダジャは仮にも王子なので、そのせいであるのだろうし、見るからに素手でも強そうな男なので、それを警戒しているのかもしれない。
ともあれ、雨妹たちはこのように物々しい雰囲気で、話をすることとなった。
「こちらの方が、あなたがご要望のお相手です」
まず、解がダジャに向かってそう告げると、その佳風の男がダジャに伝えている。
やはり彼は通訳だったようだ。
「何故あなたがこちらの娘から話を聞きたいのか、あなたの口から説明していただきたい」
そのように話す解は、恐らくその説明というものを事前に聞いているのだろうが、この場でも本人の口で語らせることを省かないようだ。
相手によって話を変えていないか、そういうところも調べているのかもしれない。
『私は……』
通訳を介してダジャの口から告げられた事情、すなわち把国で妙な煙草が流行ったという内容は、春節前の後宮と概ね似たようなものだった。
惜しむらくは、把国でもう手が付けられない程にケシ汁被害が蔓延するまで、国の上層部の誰もその煙草の害を問題視しなかったということだろう。
それが危険なものだと気付いた時は既に遅く、国全体を汚染していたそうだ。
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