第252話 続・何家の事情
しかし、すぐには大公選びができない事情が発覚した。
なんと、新たな大公を立てようにも、
『東国に売りすぎたのと、そんな境遇から逃げ出したのとで、適当な血筋の者が苑州からいなくなっていたのだそうだ。
なんとも愚かなことだが、それでとうとう子どもを大公に据えるという下種なことをしようと、周囲が言い出したらしい』
代えはいくらでもいるとばかり思っていたら、幾人かの目をつけていた者がことごとく連絡不能であったという。
なんらかの手段を使って脱走したのだ、と知れるまで時間はかからなかったという。
苑州から出るには関所を通らねばならないが、闇商人にでも大金を積んでなんとかしてもらったのだろう。
苑州ではそれだけ、大公という身分が魅力的ではないということに他ならない。
『そしてその傀儡大公に名が挙がったのが、双子の片割れの
子どもを大公に据えるなど、傀儡にするのと同意である。
それまでの大公とて名ばかりだと軽んじられていたとはいえ、それよりも事態は悪化してしまう。
一方で、傀儡であったとはいえそれなりに仕事をしようとしていた前大公が死んだことで、大公家を利用していたものは増長する。
もっと好き勝手をして大金を稼ごうとしたのだ。
『それが、人を堕落させる薬を売ることだ』
その薬は苑州の上層部で流行り、あっという間に蔓延したそうで、ダジャから見ても、それは酷い有様であったそうだ。
『あの薬は、実は我が故郷にも隣国より入り込み、広く民を汚染させたものだ。
あれは悪いもので、人の繋がりや心の在り様を破壊してしまう。
あれのせいで、城も城下もあっという間に殺伐とした街になってしまった』
このダジャの話に、
それは間違いなく、春節前に百花宮を騒がせたあのケシ汁のことだろう。
どうやら東国は、あのケシ汁を使って他国を弱体化させてから攻め込むというやり方で、勢力拡大を目論んでいるらしい。
ここ崔では、アレが取り扱いに気をつけなければならない危ないものだと、いち早く気付いた者がいたおかげで、あれ以上の被害をかろうじて防ぐことができた。
つまり、あのちょっと食いしん坊な掃除係がいなかったら、ここ梗の都もダジャの故郷と同じようになっていたかもしれないのだ。
「危ないところでしたな……」
「うむ、なにか褒美を考えるべきであろうか」
解と李将軍がひそひそと言い合うのをよそに、ダジャが言葉を続ける。
『ここの城下の様子を見ると、苑州と違って、ここはまだ薬が広まっていないのだな。
私はてっきり、同じようになっているかと予想していたというのに。
羨ましいことだ、我が故郷はもう、荒れ果てた城しか今は思い出せぬ』
『そんなに変わってしまったのかい、美しい国だったのに』
そう告げて肩を落とすダジャに、
才は春節前の騒動について軽くは知っているのであろうが、騒動の元であるケシ汁については、あまり詳しくはわかっていないらしい。
その黄才に、解が告げる。
「その薬については、わが国は寸でのところで食い止めることができましたが、一度その身を侵されてしまうと、もう侵される前の身体には戻れないのだと、そう聞かされました。
それが国の大半が侵されているとなれば、国が立ち直るのは並大抵の努力では無理というものでしょう」
「なんて恐ろしい、ああ、ウチの港は大丈夫なんだろうか?」
黄家の治める徐州は唯一海を通じて他国と交流できる土地であるので、黄才が心配するのも無理はない。
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