第67話 静かな湖畔の教会

 ラグドール神殿からは私を入れて10人が応援部隊として、ラガマフィン神殿に派遣された。ラガマフィン神殿から結界のある場所へはカルラに乗って向かう筈なのだけど。

 先に魔法陣を使い、到着していたラグドール神殿の神官達とラガマフィン神殿の神官が話をしていた。


「状況は?」


「かなりの魔物の数で、周辺の住民の避難を優先しています。」


「結界はもう塞いだのか?」


「それが、結界に近付けなくて・・・。」


「は?なんで?」


 涙目になるラガマフィン神官にキレ気味なラグドール神官。


「魔王ルシファーが結界の前にいて、手も足も出せません!!」


「なんで!!???」


 思わず叫ぶラグドール神官達。

 全然ラスボスじゃないじゃん。魔王。


「魔王ごと結界に封じられないだろうか。」


「あの結界はそこまで強力じゃない筈だ。」


「兎に角、結界を塞がないことにはどんどん魔物が出てきて、どうにもならないぞ?」


「私が囮になり魔王を結界から離しますので、その隙にどなたか結界の修復をお願いします。」


「ロザリオさん。」


 何か言いたそうなアイレン先輩の言葉を待つ。


「あはは。引き止める言葉がなかったよ。

 この場合ロザリオさんしか適任者がいないからね?」


 照れ笑いするアイレン先輩に拍子抜けする神官達なのでした。


「この作戦にはセラフィエル様とセイヴァル様のお力が必要です。ラグドール城に伝令をお願いします。」


「了解。」


「それで、結界はどこですか?」


「聖ウェルシュ教会です。」


 教会で結界を管理していることは珍しくない。確か湖畔にある、結婚式で人気の教会で、何度か訪れたことがある。



「相変わらず素敵な景色。」


 空が白んできて、朝霧の立ち込める中で湖面がキラキラ波打っている。その奥にぼんやりと聖ウェルシュ教会がぽつんと見える。教会の周りに民家や建物はないけど、高い木や茂みがあるので身を潜めるのに苦労はない。


「ロザリオさん、大丈夫?

 疲れてるみたいだけど。」


「そうですね。結界を塞いだら、まず寝たいです。」


「コレ、気休めにもならないかもだけど・・・。」


 アイレン先輩から疲労回復の薬丸を貰った。薬丸を口に入れてから、姿勢を低くして教会の方に少しずつ近付いて行く。今のところこの辺りには魔物の姿が見えないようだけど、鉱山にいたあの目玉に羽が付いた緑色のヤツに見つかるのは嫌だな。私のこと食べようとするし。


「間に合った・・・?」


 珍しく息が上がっている兄が背後から現れた。神官の制服姿ではあるけど、相当慌ててこちらに向かってきたようだ。


魔王アイツ意外に暇してんだな。

 別件はどうなってんだ?」


 兄がこっそり私に耳打ちした。お酒臭い。


「私にも理解できません。

 現れるならアリア皇女様の御成婚の儀の折だと思ってました。」


「御成婚の儀が取り止めになった方が皇女は嬉しいかもな。」


「そんな縁起でもないことを言わないで下さい。」


「愛のない結婚なんて俺は反対だ。」


 教会の周りで神官達と兵士が魔物を相手に戦っている。教会から少し離れた木の上から見張り役の神官が下りてきた。ラグドールの神官達が見張り役の神官の許に集まった。


「魔王は今、教会の中にいます。

 とにかく、魔物の数が半端じゃないです。」


「俺とアイレンが結界を塞ぐ。」


「了解。結界は地下だよ。

 問題は・・・。」


 アイレン先輩が私を見る。兄もつられて私を見た。


「どうやって魔王を誘きだすか、だよね?」


「普通に呼べば来そうな気もするんですけど。」


「魔王が!?

 そんな犬じゃないんだから。」


 あ、アイレン先輩、シュナンが魔王だってこと知らないんだった。


「待て。リオが魔王アイツを誘きだすのか?」


「はい。そうですが?」


「よし、アイレン。結界にはお前だけで行け。」


「え!?無理だよ!」


「じゃあ、誰か連れていけばいい。何人でもいいぞ。」


 相変わらずワガママな兄だ。アイレン先輩がタジタジになっている。


「確実に結界を張るのはヴィダル神官にしかできませんので、お願いします。

 私の方はセラフィエル様とセイヴァル様がついていますので大丈夫ですから。」


 私は兄の手を取りニッコリ微笑んだ。兄が私の手を握り返す。


「結界を戻したらすぐに行くから。

 無理はするなよ?」


「了解です。」


 『魅了』ではなく、封印するしか魔王に勝つ方法はないかもしれない。セラフィエル様とセイヴァル様に援護の魔法でお手伝いして・・・少し位なら攻撃しちゃってもいいかな?魔物を狙ったフリして。

 まぁ今回はとりあえず結界を塞ぐことが最優先だから、後はシュナンの出方次第といったところか。


「セラフィエル様とセイヴァル様が到着次第に突入します。皆様、援護を宜しくお願いします。」


「了解。」


 他の神官達が頷いた。


「あれ?」


 アイレン先輩が何かに気づき指を差す。


「あそこで戦ってるのセイヴァル様じゃない?」


え?


「えええーーー!?」


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