第89話「できないとは言ってない」

1週間後、早朝。


頑張ってアレンよりも早く起きた私。眠い。


久々にスマホのアラーム機能使ったわ。電話とかの通信料が発生するのは圏外だから無理だけど、無料アラーム機能は生きていた。充電したから電池もばっちり。自家発電所万歳。


早寝遅起き習慣が根付いてる私がアレンより早く起きたのは何故か。


それは食事を作るためである。


巨大生物の巣窟を潰すのに色々と準備が必要で、その準備に追われていたアレン。若干帰りも遅くなってたし。


それでもきちんと私達の食事を作ってくれたり何かと世話してくれてたんだよ。


通常業務に加えて巣窟掃討に当たる準備諸々などいつも以上に忙しくしてるのに、その上で家事も任せちゃって、さすがにちょっと申し訳なさが込み上げたと言いますか……


だから巨大生物の巣窟に出発する今日、たまにはアレンを労ってやるかーとご飯を作ることを決意。


朝いつもの時間に食事してからすぐに出発するそうなので早めに起きて料理の仕込みをしてるという訳なのである。


「何作ろう?日本食……はアレン愛用レシピに粗方記載されてるし、洋食……もレシピに載ってたな。じゃあ中華か。それならレシピにないし……」


ひっそりと日本語を教えたことでレシピを読み解き、日々の食事を潤してくれてたアレン。異世界料理なのに栄養バランスとか瞬時に理解できた君は立派なお母さん代表だ。誇ってくれ。


うーむ。久しぶりに作るからあんまり凝ったの選んでも失敗しそうで嫌だ。でもどうせならアレンが食べたことないやつ作ってあげたい。


食材と調味料と要相談、と調味料棚を見やればなにやらメモ書きが。


『ミノリの世界にしかない調味料。できるだけ節約すること!』


こちらの世界の文字でそう綴られていた。


調理室の奥に予備は沢山ある。けど流石に一生分はない。


アレンもそれが分かってたんだね。だから地球の料理が出てくる頻度そんな多くなかったのか。


気にしなくていいのに。調味料がなくなったらまた作ればいいんだし。醤油とか味噌とかの作り方は本に載ってるし、ここにはないってことは書斎の本棚漁ればあるはず。


まさか一から作ることになるとは思ってなかったからちゃんと読んでなかったけど、大丈夫作れる。


幸い原材料はこっちの世界でも手に入るっぽいし、味は市販品と比べたら落ちるだろうけどまぁ許容範囲だ。


そんな訳でこのメモはゴミ箱行き。アレンにもあとでいくら使っても大丈夫だと説明しておこう。


「よし、決めた」


作るものを決めて早速調理開始。



―――――――

―――――――――――



「………………なんだ、これは」


私の次に起きたアレンが呆然と呟く。


「何って、料理だけど」


出来立ての料理を食卓にずらっと並べ、至極当たり前のことを述べる。


ルイスと学者コンビはまだ起きてこないなーなんて思ってると、アレンが凄い形相で捲し立てた。


「お前料理作れたのかよ!?てっきり作れないもんだとばかりっ」


「できないとは言ってないでしょ。アレンのより味は落ちるけど」


「じゃあなんで今まで俺に任せきりだったんだよ!?」


そんなの決まってるじゃん。


「めんどくさかったから」


あだだだだ。なにも拳骨でぐりぐりしなくても……


アレンの暴力に耐えて頭を擦る。


「じゃあ今度から当番制にするぞ。いいな?」


「えー」


「い・い・な?」


「ハイ」


無言の圧力に負けた。


そのあとアデラ、ルイス、最後にベティの順で起きてきた。そして食卓に並ぶ地球の料理に目を剥いた。


「ふわぁ……あら?見たことないけど、なんだか美味しそうね。ミノリが作ったの?」


見たことない料理イコール異世界料理イコール作ったのは私という図式で言い当てたベティに頷く。


「アレン、今日からしばらく巨大生物の巣窟潰しに行くでしょ?たまには負担減らしてあげようかなーと思って」


「んぐっ」


さらっと説明したらアレンが変な声を出した。どした?


「お前……そういうことは早く言え……」


若干頬を赤くしてぼそぼそ何か言ってるけどまぁいいや。早く食べないと冷めちゃう。


全員着席して食べ始める。


餃子や焼売、春巻きなどアレンが作ったことないものをと考えたら自然と中華料理中心になった食卓と三人を見比べる。


ちゃんと毒味はしたし大丈夫だと思うけど、自分が作った料理を他人に食べさせるのって仕事を抜きにしたら初めてだからどうにも緊張する。


「う……旨い……!しかも柔らかい!なんだこの食感は!?」


「独特の見た目だけど、パリッとしてて美味しいわね」


「ん。美味」


三人とも口々に美味しいと言ってくれて内心安堵した。


よかった。口に合ったみたい。


私も食べ始め、しかし自分で作ったやつだからか特別美味しいとは思えなくてアレンの料理のときみたく馬鹿食いはしなかった。


そしてそう間を置かずにアレンは森の奥に出発。


出ていく直前に、


「その、なんだ。ありがと。飯旨かった」


と言い残してくれた。


ツンデレアレンはお礼を言うだけ言ってさっさと行ってしまったが、また食べたいと目が語っていたので今度また作ってあげようか。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る