第47話「メシフロネル女子」
食べ終わった後懸命に外出したくないと訴えたのに食器の後片付けをする暇も与えずあっという間に服を着替えさせられてぐいぐい腕を引っ張られて強制的に外に放り出された。必死の抵抗虚しく及ばず太陽の下に引きずり出された。
この子馬鹿力なの?全力で抵抗したのに全然びくともしなかったんだけど。
私の腕を離さずウキウキしながら歩く彼女が恨めしい。
「あれ。二人ともどこか行くの?」
我が家をぐるっと半周して北の入り口から出たとき、本がぎっしりと詰め込まれた箱を両手で抱えたクラークとばったり遭遇し、私とチェルシーを交互に見て首を傾げた。
「ハルバ村に行くにゃ!さっき行ったときカミラがいなかったから悪戯するなら今がチャンスなのにゃ!ねーみのりん」
「私もかよ」
小さな悪事の片棒を担がされるのか私は。
「ほどほどにしときなよ。カミばぁに知られたら説教どころか出禁くらうよ」
緩く微笑んでやんわり注意する好青年クラーク。だがその目は馬鹿な子を見る目だ。「バレないように頑張るにゃ」と意気込むチェルシーに次いで私に視線を寄越し意外そうに目を瞬かせる。
「ミノリちゃん、昼間に外出れたんだね。飯風呂寝るを体現してるような君が」
出会って数日でこの言われようもどうかと思うが、否定材料も否定する意思もない私自身もどうだろうね。
一般的には既婚男性が仕事疲れで妻や子供を構ってあげることなく「飯」「風呂」「寝る」しか言わなくなることを指す言葉だが、クラークの言う通り私の生活は基本寝て過ごし、起きるのはほぼ飯と風呂のときのみ。
クラークの言ったことは的を得ているのだ。
「みのりんが大冒険したいって言うから付き合ってあげるのにゃー」
「言ってない言ってない言ってない」
超高速で首を横に振り否定する。あなたが勝手に話を進めたんでしょうが。私はそんなこと一言も言ってないぞ。
「はは、無理矢理連れ出されたんだね。かわいそーに」
その溢れんばかりの満面の笑顔、全然可哀想って思ってないだろ。
「クラークは仕入れに行ってきたのにゃ?本なんて誰も読まないのにー」
「読まないのはチェルシーとデュークだけだよ。面白いのになぁ」
「ちょっと貸して」
ふと気になってクラークに断りを入れてから本を一冊手に取り、パラパラと流し読みする。
ふむ、言葉が通じるから文字も日本語かと思ったがそうではなかったようだ。この世界の人達の名前から察するに英語かとも思ったがそれとも明らかに違う。
強いて言うならギャルとかがメールで使用する可愛らしい絵文字が古風になったような文字がずらっと並んでいた。全く読めない。
「何なに?ミノリちゃんも本読むの?てか読めるの?」
その質問は「この世界の文字読めるの?」って意味だよね。他意はないんだよね。
「んー……異なる世界なのにこうして話せるから文字も日本語なのかなーって思ったんだけど……」
本をパタンと閉じて元の場所に戻す。
「まぁいいや。こうして言葉が通じるだけでも御の字だよ。必要なら覚えるけど」
目をぱちくりするクラーク。なんでそんな驚き混じりの意外そうな目をするのか。
「そんな話はいーのにゃ!早く行かないと日が暮れるにゃー!」
私達のやり取りを興味無さげに見ていたチェルシーが我慢できずに私の手を取って走り出した。
「……彼女なりに、この世界と向き合ってるのかな」
嬉しそうに目を細めてクラークが呟いたのを私は知らない。
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