第30話「夢を見ようぜベイビー」

さてどうするか。


ベッドに放ったものの、すぐに眠れるとは限らない。私なら秒で寝れる自信があるが誰もがさぁ寝なさいと言われてすぐに夢の中へ羽ばたける訳ではないのだ。


急所に一発ぶちこめば意識を飛ばせるかもしれないがそれでは就寝ではなく気絶だ。


確か、リラックスした状態で寝るとよく眠れるんだよね。私は常にリラックスしてるのであまり意識したことないが。


人間誰しもストレスがある。そのストレスをできるだけ軽減しリラックスすることで満足のいく睡眠に辿り着くのだ。


リラックスする方法はそれなりにある。さて、どの方法がアレンにぴったりだろう。


アレンに背を向けて自室を出る。後ろからテンパった声が聞こえるが無視。


「えーと……確か母さんの部屋にあったはず……」


両親が他界してから初めて、つまりは約5年ぶりに母の部屋を訪れた。


家政婦さんが掃除してくれてたおかげで埃っぽくはなってない。家具の位置も何もかも変わってない。


けど、年月が経ちすぎて母の匂いが全くしないせいで一瞬この部屋が別の誰かの部屋に思えて、ちょっぴりセンチメンタルな気分になった。


それは本当に刹那の時間で、すぐに我に返りあるものを探す。


ベッド近くの腰の高さまである棚の上に置かれたやや小さめの機械を見つけた。その下、つまり棚の中には所狭しと並べられたCD。ジャンルは様々で、J-POPもあればヘビメタやロックやジャズ、クラシックなどがあり、終いには演歌まである。その中からゆったりめの曲調のCDを数種類引き抜いた。


音楽を聞くことによって心が落ち着き、リラックスモードに突入して眠りに入りやすくなる。寝る前に好きな音楽を聞く人もいるようだけどそれはジャンルによっては逆効果だ。


例えばヘビメタを聞いたらどうなる。激しい曲調が特徴的なジャンルだと興奮して目が冴えてしまい眠りに入るのが遅くなるではないか。ちなみに母の経験談ね。


あ、一応言っておくとこれは人それぞれだから、激しい曲調じゃないと眠れない~って人も中にはいるよ。リラックスする方法は人それぞれだからね。


「さて、これも運ばなきゃなぁ」


目線の先にあるのはやや小さめのCDコンポ。


私の部屋にはCDを聞ける機械なんぞない。必要ないからね。音楽に興味の欠片もないし。


CDを持っていったところで音楽を視聴できる道具がなければ意味がない。という訳でCDと一緒にこのコンポも持ち出さねばならない。


「よっこらせっと」と女子らしからぬ台詞を残しCDコンポを持ち上げ、さささっと自室に戻る。ちなみにその間も枕之助は健在だ。誰が手放すものか。


私が両手で抱えてるCDコンポを見て未知の物体に遭遇した宇宙人みたいな変な顔を決めているアレンをスルーしてコンセントを入れる。そして一緒に持ってきたCD数枚の中から適当に選んで再生した。


そしたらアレンがベッドから転がり落ちた。


「なななな、なんっだそりゃ!?おお音が漏れて………っ!?」


「クラシックっていう音楽だよ。ショパンのノクターン第2番。これはCDコンポっていって、これを聴く道具」


これ、と言ってCDをトントンと叩いた。


「何も考えず、頭ん中真っ白にして横になってれば自然と寝れるから」


「んな適当な」


「適当じゃないよ。いーから言う通りにしなって。ほら横になってリラーックス、リラーックス」


心地よく睡魔が襲ってくるようなゆったりとした曲が自室に響く。まだ言いたいことがありそうな顔をしていたが、渋々私の指示に従い横になった。


そして目を閉じて静かに流れる音楽に耳を澄ませている中、少しずつ眉間のシワが少なくなっていき、やがて微かに寝息が聞こえてきた。


うむ。眠れたようでよかった。


「ふぁぁ……さて、私も寝ますか」


さっきからずっと眠かったし、加えてこの眠気を誘う音楽。もう眠くて仕方ない。


パタリとアレンの隣に倒れ、ぐちゃぐちゃになっている毛布を自分とアレンにふわりとかけ、枕之助を抱き締めて目を閉じた。


「おやすみなさい」


ようやっとパラダイスへGOできる。

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