第21話「餌付け作戦かな?」

アレンの拳骨により赤く腫れ上がった場所を擦りながら、もう怒りがおさまったらしいアレンに問う。


「これ、食べていい?」


料理が並べられたところの椅子には誰も座っていなくて、向かいの椅子にクラーク、その隣にアレンが座ったのを見てまさかと思ったらそのまさかだった。


「誰のために作ってやったと思ってんだ」


さっさと食え、とその目が言っている。


おおお……神よ。食の神よ。ありがたや。


キラキラした眼差しを送ればうざったそうに、でもどこか気恥ずかしそうに「冷めちまうぞ」とぶっきらぼうな言葉を落とす。


ほんの少し表情を和らげてお礼を言う。といっても、他人からすれば全然表情筋動いてないと思うけど。


椅子に座り、いただきますをしてから黙々と食べ始めた私の膝の上にあるものを見てクラークが問い掛けてきた。


「ところでさぁミノリちゃん。それ何?」


それ、と指差したのは私の膝の上にある枕之助。


そんなの決まってるじゃないか。


「もう浮気はしないと決めたから」


「何わけのわからんこと言ってんだ」


きりっと真面目に言ったら一刀両断された。クラークもちょっぴり馬鹿を見る目で私を見ているが知ったこっちゃない。


大事に枕之助を抱えながら咀嚼する。本日のランチも美味よのぅ。


昔から食への執着は全くなかった私。昔は専属シェフが豪華な食事を毎食作ってくれたけど、お腹が満たされればなんでもいいやと思っていた私はおかわりとかしなかったし、少しでもお腹が満たされたら残してさっさと寝てたことも多々あった。食欲より睡眠欲の方が断然勝っていたのは昔から変わらない。


けど、アレンの手料理は美味しすぎて箸が止まらない。昨日はち切れそうなくらい食べたのだって思い返してみれば人生で初めてだ。


美味しい故にスピーディーに食事を終え、ごちそうさまでしたと手を合わせたところでアレンとクラークを見やった。


「で?わざわざ餌付けするためだけに来た訳じゃないんでしょ?」


「ははっ!餌付けって!」


「もーちょい言い方あんだろ」


端的に言えば餌付けでしょ。私としてはどんな形であれ食事にありつけたので万々歳だが。





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