第9話 ジェイク

2人は屋敷に戻りすぐに着替えるとお茶の席についた。メアリが着替えの際はもちろんドルイドに手伝わせたが、ドルイドはメアリの手伝いを断固拒否した。姉妹だから何も気にすることはないのだが、ドルイドはかたくなだった。メアリが先に着替えを済ませて居間で待ってるとジェイクがお茶を持ってきてくれた。


「ジェイク、喜んでちょうだいな。1人メイドを雇うことになったわよ。

フィリック夫人の娘さんよ。

どう?素敵でしょう!」


ジェイクはいつもの優し気な笑顔を見せた。


「ドルイド様がよく承知しましたね。」


メアリはジェイクをだしにしたとは言えないので、意味ありげに笑ってごまかした。


「だって住む人が増えたんだもの。当然でしょう。これで少しはあなたも楽になるんではなくて?」


ジェイクはお茶を入れながら静かに答えた。


「ドルイド様は私に大変よくして下さっています。今でも十分でございますよ。」

「そんなことはわかっているわ。でもここはとても閉鎖的なんだもの。新しい空気を入れないとだめよ。」


ジェイクは笑みを浮かべたままカップをメアリに差し出し、そのことについてはそれ以上何も言わなかった。しばらくしてドルイドが下りてくるとジェイクはドルイドにお茶を入れて部屋を出て行った。その後ろ姿をドルイドは目で追い、ジェイクが出て行くとメアリに向き直る。


「あの話をしたのね。」


メアリは頷いて、ええ話したわ、と短く答えた。


「姉さん、私は時々仕事で屋敷を離れることがあるわ。ジェイクの様子を見ていて欲しいの。彼は確かに高齢だけどプライドもあるのよ。敬意を払って接して欲しいの。

言っていることがわかるかしら?」


メアリは大きく頷いた。ドルイドの真剣な目にメアリは居住まいを正す。


「ジェイクは私にとっても大事な人だもの。もちろんそうするわ。あなたが心配するようなことにはならないわ。」


ドルイドは頭を振って溜息を突いた。


「ジェイクは弱みを見せないのよ。

私にもね。無理していてもわからないの。

だからよく見ておかないと。」


ドルイドにとってどれだけジェイクが大切な存在なのか、メアリにはよくわかっていた。ジェイクに何かあればドルイドは魂を引き裂かれるほどに苦しむはずだ。だがそんな思いをドルイドは誰と共有してきたのだろう。レイモンドだろうか。だが彼は今ここにいないのだ。メアリは自分の使命を自覚した。メアリがそっとドルイドの手に自分の手を重ねるとドルイドの手がぴくりと反応する。


「私にできることがあれば何でもするわ。だがら安心して。」


ドルイドが不安げに面を上げる。メアリはここに来てから幾度となくこのドルイドの苦悶の顔を見ていた。ドルイドはそのことがとても気になっていた。


「ドリー、私ずっと思っていたの。あなたは何でも完璧を求め過ぎるのよ。あなたの頭痛の種である私が言うのもなんだけどあなたはあなたに関わる全てのことをほって置けないたちなのよ。でもあなただってただの人間なんだから。神様もあなたに特別な力を与えたからってそこまで求めたりしないわ。」


ドルイドはその言葉に大きくを目を見張り、そして少し寂し気に微笑んだ。


「そう思えればいいんだけれど…。」


メアリはその言葉にドキリと心臓がなった。


「ドリー、あなた…」


その続きの言葉は出てこなかった。というのもここで思わぬ来客があったからだ。

ジェイクに連れられ現れたのはレイモンド・ハットフォードだった。

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