第22話
第22話 侵食する傷跡
「さすがですねえ…天海さん」
「あー、まあ、大した敵じゃあなかったよ。さてと…」
愛羅はフープスピアに一瞥をやると
「あんたはまだやる?」
「ひっ?!…ふふふ、な、なんだ。か、勝ったとでも思っているのか?」
「…?どういうことだ?」
「貴様は…傷を負っていないようだな…まあいい。くらえぇ!」
そういうとフープスピアは何かを胸から取り出すとそこについたボタンを押した。
その瞬間
「ガハッ」
「ブフッ」
「な…なにこれ…」
「なんで…だ」
彩香、奈美、伊有、一郎太の4人が急に吐血した。
「!?なにが起こった!」
「どうしたんですか!?」
愛羅と雅信が驚きの声を上げる。
嬉しそうにフープスピアは続ける
「傷口からしっかり入ったようだなあ…これは毒だ…小さいカプセル状になっていてなあ…私の起爆とともに感染者の体を蝕む!」
「なんだとぉ?クッソ傷を負ってるやつってことは血から入ってくのかよ…」
「解毒しなきゃ…げ、解毒剤は…」
霧子が慌てふためく。
「そんなもの用意してるはずないだろう!ハッハァ!これは交渉のために使う毒じゃない、殺すための毒だ!どうやら交渉人ってのは相当甘ちゃんらしいなあ!?」
「くっ…この外道!」
霧子がフープスピアの胸ぐらをつかむ。
「なんとでも言え…。いや、それよりもあと数十分の間友との別れを惜しんだらどうだ?ハハハハハァ!」
「そんな…それしか猶予が…」
手から力が抜け、フープスピアが地面に突っぷす。
「な、なにが、なにが起こったの?」
「真春さん!…は大丈夫そうですね。怪我してた4人に敵の毒が入ってしまったみたいで…どうすればいいやら…!」
「そ、そんな…ど、どうにか…なんか…その薬とか!お医者さんとかはいないの!?」
「…神社に戻れば神様が作った薬はありますが…あっても魔族が作った毒です…それが効くかどうか…」
「私の自信作だあ!既存の薬が効くかな?」
ゴッ!
これ以上解毒についての情報が得られないと察したのかフープスピアは愛羅の一撃で気を失った。
その瞬間、霧子が目を見開いた。
「い、今!協力を表明してくださった神様の中に、治癒の神様がいたはず…」
「じゃ、じゃあ!その神様を呼べば」
そしてもう1つに何か気づいたように霧子は目を伏せた。
「だ、ダメです。ごめんなさい、別の方法を考えましょう」
「えっ」
「そんな!?」
「な、なにがダメなんですか!」
「…神様は…基本的に人間やその他の次界の者との関わりには不干渉です。あくまで神憑変化という契約を通してのみ、その力の発揮が許されています。それ以外はあくまで神が生産した物を利用することぐらいで…」
「…治癒の力を使い切るには新しいアルバイターが必要ってことね…」
「ええ…それはここには」
そこで霧子は言葉を切った。
愛羅も雅信も、ある1人の人物に視線を向けていた。
「わ、私!?な、なんで!」
視線の先にいたのは今回の完全な被害者、門矢真春だった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
どうして!どうしてどうしてどうしてどうして!?
私はただ、ただ!お参りに来ただけで!それなのにへんな男の人に攫われて!
せっかく…せっかく…あいつが助けに来てくれて…助かった上に…その…えっと。
と、ともかく!私がなんで!そんな危ないことをやらなきゃいけないことになってるの!
どうして、どうしてなのよ!
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「そ、その真春さん」
「い、嫌よ!だ、だって、そんなのになったら!また危ない目にあうんでしょう?!わ、、私は嫌よ…ご、ごめんなさい」
「お、お願いです!あなたしかいないんです!巻き込まれた上に、いきなりそんな話を出されても困るのも当然です!でも、でも!」
「や、やだよお…こんな怖い思いもうしたくないのに…」
そこで真春は一つ間違いを犯した。
視線を、説得を試みる霧子から外してしまった。
そこにいたのは、胸を苦しそうに抑え、かなりの量の血を吐く4人の姿であった。
特に奈美の口からは尋常ではない量の赤黒い血が流れ、そののたうちまわる頭の下に血だまりを作っていた。
正気を取り戻した彩香も、全身傷だらけの伊有も一郎太も顔を歪めている。
「そ、そんなの…そんなの…」
「真春さん」
雅信が
いつもふにゃふにゃとしており、授業中もボケッとしている雅信が
「私の仲間を助けてください。お願いします」
真春の前で深く頭を下げた。
それだけで、それだけでもう頷いてしまいそうだった。
また視線を外して見てしまった。
もっとも重傷と見える奈美がポツリと
「苦しい…」
と呟いた。
その瞬間、あの日、真春が白い天井の病床で同じ言葉を呟いた光景がフラッシュバックする。
「…わかった」
「…え?」
雅信が聞き返す。
「…わかったって言ったのよ!私が助けてあげる!その神様を呼んできなさい!」
門矢真春は震える声でそう叫んだ。
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