第19話

第19話 幻惑と幻覚


「一応名乗っておいてあげましょう。私の名前はフープスピア。魔人オッドベノン様の弟子であり、助手です…あなたは?」


雅信に名乗るよう促す。


「坂上雅信。そこの女の子の友達で…アルバイターズ?の1人だ」


「な、なに?何の話をしてるの?坂上君…?」


「ごめんなさいね、怖い思いをさせて。終わらせたらちゃんと話しますから…そして…」


雅信とフープスピア、2人の視線がぶつかる。


「すぐに終わらせますから」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁぁぁ!」


ゴンッ!


奈美の拳が化物の腹にめり込みその姿が霧散する。


「はぁ…はぁ…これで…全部か…」


「よくやった…急ぐぞ?いけるか」


「もちろん!いくよ疾風!」


そう行って奈美は駆け出し、階段を駆け上り、一枚の扉の前に辿り着いた。


「ここか…!」


バン!


勢いよく扉を開けた奈美の目には


「嘘…でしょ…」


満身創痍でオッドベノンに対峙する伊有とそれを傍観する彩香、鎖のようなもので手と足を縛られ、昏倒させられている霧子。


そして


「ようこそ!私の城へ…嬉しいなあ、こんなに可愛い子が向こうから来てくれるなんて…」


魔人オッドベノン。


「おまえが…!彩香ちゃん!どうして!どうして…」


遮るように


「奈美さん!どうやら彩香さんは操られているようです!」


「操られて…そんな!2人を」


奈美がオッドベノンに飛びかかる。


「返せええええええ!」


「彩香ちゃ〜ん」


その瞬間、奈美の眼前に彩香が現れる


(そんな!?止められな!)


ドッ


奈美は彩香に激突してしまった。虚ろな目をした彩香がふっとび、何事もなかったかのようにオッドベノンのそばに居直る。


「人を盾に使うなんて…この外道がぁぁぁぁ!」


「おいおい、ひどい言われようだなあ…お嬢ちゃん。名前はなんて言うんだい?」


「私の名前は霜村奈美だ!今からおまえをぶっ飛ば」


「そうか奈美、そこの刀持った女の子を倒せ」


(こいつ…なにを)


思った時にはすでに遅し。奈美の足は伊有の方へ向かっていた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「はぁ…はぁ…何なんだよこいつ…」


「こりゃー多分おまえハズレくじだなあ。多分ここの道の化け物が一番強いっぽいぞ」


「そんなあ…」


一郎太の前には腕を5本持った筋骨隆々とした化け物が立っていた。


「泣き言を言っている暇はない。どうやら他の3人はどこかしらへ辿り着いているようだ。そいつらが上手くやることを祈ろう。おまえはおまえの仕事をこなすしかない」


「あぁ…付き合ってもらうぞ弾修羅!」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「厄介だなあ…」


「坂上くん!」


「どうしましたあ?さっきの勢いは何処へやらですねえ?」


フープスピアの前で傷を負った雅信が肩で息をしている。


(当たるはずがねえ…当たったのにそんな感じがしなかった…ってことはこれは幻覚だ…)


ドッ


雅信がフープスピアに飛びかかる、と同時に雅信の目に無数の武器がこちらに放たれる。


(!)


反射的に避けてしまう雅信。


「素晴らしい、反射神経ですよ…あなたみたいなのは初めてですよ」


その隙をついてフープスピアが背後から雅信に蹴りを放つ。


「ぐぁっ」


壁に激突する雅信。


「坂上くん!」


「いやいや…かっこ悪いですねえ僕…ちっくしょう…どうすれば…」


(ほんとですよ全く)


「!?」


(わかるでしょう?アリスですよ。アリス、あなた精神に意識を飛ばしてるんですよ)


「…どうすればいいですかねえ…アリスさん」


(見えて避けてしまうなら見なければいいだけですよ?宿主様?)


「え…?」


「さーて…もう一回行きますよお!」


フープスピアが手を広げると様々な武器が雅信に向かって放たれる。


(見なければ…いい?)


そして雅信は


「!!なにしてるの坂上くん!?」


目を閉じた。


(よく考えればこの武器1つ1つは幻覚…音は一切ない…)


(ならば…)


トッ


地面を蹴る音がかすかに左から聞こえる。


(そこだ)


「ぐはぁっ!?」


雅信が放った回し蹴りは、みごとにフープスピアのみぞおちにめり込んでいた。


その場に崩れ落ちるフープスピア。


「さてと…念の為と真春さんを恐がらせたというわけでもう少し殴らせてもらいますよ…」


「ま!まて!」


そう言ってフープスピアは手を顔にかざした。


「!?」


その顔はフープスピアのものではなかった。


「ククク…どう見えているんですかねえ?これは奥の手なんですが…あなたの記憶からあなたに近しい者の顔と姿を借りました…さて殴れま」


ドスッ


「ま、おま、な」


ドスッ


「どぼして」


ドゴッ


ここでフープスピアの意識は途切れる。その後も雅信はフープスピアを痛めつけ続けた。



真春にはフープスピアはフープスピアの姿に見えている。しかしその光景の異様さに恐怖を覚え声をかけた


「さ、坂上くん?坂上くん?」


「…はっ…おやおやこれは真春さん、お恥ずかしいところを…」


フープスピアの返り血で拳を濡らした雅信は非常に良い笑顔をしていた。

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