107 邪神の天秤 搾りカス勇者はプルプル震える
【邪神の天秤】
俺が取り出したのは、光をほとんど反射しないひたすらに黒い天秤だ。
天秤は公平さの象徴でもあるはずだが、【邪神の天秤】に備わった二つの皿の大きさは不揃いだ。その禍々しさと相まって、まるでこの世の理不尽を体現したかのような禍々しいフォルムをしている。実に良いセンスだ。
スタンピードで邪神の欠片を討伐した際に手に入れたドロップに迷宮主が手を加え、俺への報酬としたものだ。その効果は…。
「ちからが、ぬけ…」
「あ、あぁあ…」
勇者パーティから黒色の煙が立ち昇り、【邪神の天秤】へと吸い込まれていく。
立ち昇る煙の正体は瘴気。迷宮の力により経験値として奴らに蓄積されていたものだ。
邪神の天秤の能力は、対象に蓄積された力を瘴気に再変換し吸い取ることができるというもの。
使用者より格上には使えないなどの制限はいくつかあるが、それを差し引いても強力な魔道具だ。
この対象は人間に限らず、魔物のドロップ品にも適用される。
仮に魔物のドロップに使用したなら、そのドロップを生成するのに必要な瘴気を【邪神の天秤】の中へ蓄えることができる。
「終わったか」
勇者パーティから立ち昇る煙が消えたことを確認し【蒐集ノ神】を発動させる。
ホスロー・アゼンティウム
年 齢:27
種 族:人
身 分:人族の勇者
レベル:1
勇者パーティの装備をはぎ取り、レベル、スキルは瘴気に変換し【邪神の天秤】へ蓄積した。
俺は勇者パーティからレベルまで奪ったのだ。
全裸でピクピクしている細目、ほか勇者パーティ。
釣り上げられた魚のようだな。
お、熟女はなかなかのスタイルをしているな。
人族の本能が刺激されるかは微妙なところだが。
「コレット、こっちに来い」
「はいトシゾウ様」
コレットが痙攣する勇者パーティを横目にこちらにやってくる。
「コレット、今からお前のレベルを上げる。だがこれは本来のお前の力ではない。力に呑まれるな。あくまでも自衛のためのものだと思え。…あとは、復讐もお前の望みだったな。そのために力を振るうことは許可しよう」
「はい、感謝いたしますわ。最後はぜひ、私にやらせてくださいまし」
コレットが青い瞳を細める。
瞳の中で炎が燃えている。熱く、どこかほの暗い。それは復讐の炎だ。
勇者から奪ったレベルをコレットに与える話はあらかじめしている。
俺は【邪神の天秤】に蓄積された瘴気を経験値として変換し、コレットに注ぎ込んだ。
「んっ…か、身体が、熱い…。それになんだか、変な気持ち…です、わ」
急激にレベルが上昇していく違和感に身悶えするコレット。
潤んだ青い瞳、赤らんだ頬に、一筋の汗が流れる。耳元に吐息が…。エロい。
いかん、今は実験中だ。人族の本能を必死に押さえつける。
本人の培った経験を超えてレベルを上げることを養殖と言う。
本人の器量を超えて与えられた力では、迷宮で本当の危機に瀕した時にそれを乗り越えられない。
本来は褒められたことではないのだが、コレットは今後迷宮に挑む冒険者になるわけではない。
人間の世界においては、飛びぬけたレベルがあればそれだけで他者を圧倒できる。
もちろん同レベルの相手には負けてしまうし、力に溺れてしまう者もいるが、その点はコレットなら信頼に足りる。
「う、ふっ、はぁ、はぁ…」
勇者パーティ全員の経験値を注ぎ込まれ、呼吸を乱れさせるコレット。
美しい金髪が肌に張り付き、呼吸をするたびに形の良い胸が上下に…いかん、今は実験中だ。実験中なのだ。人族の本能を必死に押さえつける。
「ご主人様からオスの匂いがします…」
シオンの目が若干冷たい気がする。いや、気のせいだ。気のせいに違いない。
深呼吸を繰り返し、平常心を取り戻す。
「…シオン、コレット、コウエン。出入り口を封鎖する敵兵を全て無力化し、ここへ連れてこい」
「はい!」
「わかりましたわ」
「御意」
ゼベル・シビルフィズの抱える兵士たちは、その異様な光景に目を奪われ撤退する機会を逸していた。
かくして、ゼベルお抱えの兵士と勇者は完全に無力化されることになる。
「お、お前ら覚えていろよ!殺してやる!絶対に殺してやるからなぁ!」
「勇者にこんなことをして許されるとでも思ってるのか!?お前ら人族全てを敵に回すつもりかぁ!」
芋虫のように迷宮の床を這いつつ、俺たちを罵る勇者パーティ。余裕あるなこいつら。
「コレット、こいつらまだ勇者のつもりでいるらしいぞ」
「痺れても良く回る口ですわね。私たちから全てを奪おうとしたのです。逆に全てを奪われても文句を言う権利はありません。それにあなた方はもう勇者ではないのです」
「ど、どういう意味だ!」
「言葉通りの意味ですわ。あなた方の罪は明白、もはや言い逃れはできませんわ」
「ふん、そんな話が通るはずがない!お前たちがどれだけ騒ぎ立てたところで無意味さ。僕たちのバックには多くの権力者がいるんだ。むしろ僕たちを殺せばお前たちの立場が悪くなるだけだ」
「あら、それをどうやって証明するつもりですか?勇者パーティは特殊区画で遠征軍を助けた代償に全滅。良いシナリオですわね」
「そ、それは…」
「ご安心ください。あなた方の名誉を守るなんて、そんな真似はしませんわ。王族はすでにこの件を把握済みです。私たちの報告がもみ消されることはありません。あとはあなた方の飼い主のゼベル卿のみですわね。今からお話をしに行く予定です」
冷笑するコレット。その瞳には一片の慈悲もない。当たり前か。
俺もここまで勇者が腐敗しているとは考えていなかった。全面的にコレットに同意である。
こいつらには全てを失ってもらう。力も、名誉も、財産もだ。そしておそらくは命も。
「迷宮で理不尽はつきものだ。もし生き延びることができたなら、また俺に挑んで来ると良い。あぁ、お前たちが領地に蓄えている財産は全てもらい受ける。安心してくれ」
「あなた方が不正に蓄えた財産は、理不尽に虐げられた者や遺族に分配します。これで勇者はただの人となりました。そんなあなた方を助けに来る者がいるのなら、必死に魔物から逃げ回ればあるいは助かるかもしれませんわね」
富、名誉、力を失えば、後に残るのは奴らが築いた関係性くらいだ。
さて、迷宮15層まで危険を侵して助けに来る者がどれだけいるのだろうな。
細目たちの顔が青褪める。
自分たちに人望があるかは本人たちが一番理解しているだろう。
これで話は終わりだ。
遠征軍を全滅させようとした者たちは、その全員がレベル1の全裸に。そして迷宮に放置されることとなった。
「さて、それでは最後の一仕事といこうか。安全地帯から俺たちの邪魔をする脚本家気取りの男にあいさつをしに行くぞ」
俺は【蒐集ノ神】と【迷宮主の紫水晶】を起動する。
遠征軍の物資は奪われることが分かっていたため、追跡できるようにしておいた。
それをたどれば、芋づる式にすべてを奪い取ることができるだろう。
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