105 宝箱は勇者の処分を決める
迷宮は力が支配する、法律の及ばない世界だ。
迷宮の中で起こった真実など、当事者が死ねば闇の中である。
「あなたたちのやったことは全部私たちの手柄になるのよ。他種族の無能に力を借りた無能の領主は、迷宮15層にたどり着くこともなく全滅しちゃいましたぁー。って報告しておくわね。ごしゅうしょうさまぁー」
勇者パーティで唯一の女性が毒を吐く。
熟女も相当に性格が歪んでいるらしい。全員不快だ。
コレットが怒りに肩を震わせている。
勇者の非道な行いは、コレットにとってとても許容できるものではないのだろう。
勇者パーティの様子を見るに、今回が初めてではないことは明らかだ。
どれほどの数の冒険者、誠実な者が奴らの毒牙にかかったのか。もったいない。
コレットはレインベル領を守るために、数々の嫌がらせや妨害に耐えてきた。
力を振りかざされ苦しめられることの悔しさを人一倍わかっている。
その理不尽を想像し、コレットは怒りと悲しみで我を忘れそうになっている。
そんなコレットを見てどう思ったのか、ホスローはコレットに細い目を嫌らしく走らせる。
「震えてしまって、最初の強気はどこにいったんだい?そういえば、君はなかなか可愛いね。美しい金髪と青い瞳。スタイルも良い。殺すのは少しもったいないな。なんなら飼ってあげても良いよ」
「…飼う?私をですか?」
「ああ、死ぬよりは良いだろう?籠の小鳥さ。僕の機嫌を損ねて殺されないかビクビクしながら、僕たちに奉仕する人生だ。なに、レインベル領なら僕たちが上手く扱ってあげるよ。水浸しのしけた領地でも、ないよりはマシだからね」
「…ホスロー、あなたに勇者を名乗る資格はありませんわ。勇者とは人族の力と希望の象徴、最高の冒険者のことです。くだらない策略に手を貸し、懸命に生きる者たちを侮辱し、あまつさえ自分の欲望のために人を殺そうとするなど。恥を知りなさい」
「ふぅん、まだそんな口がきけるんだ。なに、きちんと仕事はしているさ。君も今日まで、勇者は立派な人物だと思っていたのだろう?印象の操作など造作もないことさ。それに君も僕たちにしばらく可愛がられれば、きっとわかってくれるよ」
みんなそうだったからね、といやらしい笑みを浮かべる細目。
追従するように他の者たちが嗤う。
「勇者パーティは何をしても良いんだよ。欲しいものは何でも手に入る。見てくれの良い奴はすべて手籠めにできる。気に入らない奴は俺たちの経験値になるのさ。人間を殺すと効率よくレベルが上がるからな。魔物を狩るよりよっぽど楽だぜ」
「コレットさん、ホスロー様の前に這いつくばって慈悲を乞うたほうが良いですよ。死なずに済むし、分不相応な領主をやることもありません。そこの魔物に媚を売ったように、我々に跪き、許しを乞えば良いのです。我々に奉仕するのが、あなたの幸せなのですよ」
「逃げようとしても無駄だぜ。帰還の結晶石を含め、全ての物資は俺たちが回収済みだ。もっとも、持っていたとしてももう使う時間は与えない。お前らは詰んでるんだよ」
「あの虎のケモノ、なかなか逞しくて好みだわ。長持ちしそう。生かしておきましょう」
「お前は相変わらず物好きだな。そう言っていつもすぐに壊しちまうだろう。安心しな領主様よ、俺は優しいからすぐには殺さねぇ。あぁ、この後が楽しみだぜ。強気な女が泣いて許しを乞うのは痛快だからなぁ」
「いえいえ、力のない獣人のメスをどうしようもないほど痛みつけるほうが満足できるものですよ。あの白髪のメスも殺さないようにしてくださいね」
「では知恵ある魔物は殺して、あとは生け捕りで良いかい?報告では獣人と人族に化けた魔物が強い力を持つということだったけれど。この程度の特殊区画に苦戦するなんて、どうやら誤報告のようだしね。さっさと済ませるとしよう」
勇者パーティがまるで戦利品の分配でもするように、好き勝手なことを言っている。
通路を封鎖している者たちもニヤニヤと様子を見ている。不快極まる。
「…コレット、もう良いか」
「はいトシゾウ様。…貴族だけでなく、勇者まで腐敗しているとは。人族の一員として、情けない限りですわ」
「ご主人様とコレットに対する侮辱の数々、許せません」
「人族の悪意には慣れているつもりでしたが、これには開いた口が塞がらないですな」
シオンとコウエンも、勇者パーティに腹を立てているようだ。
奴らは俺の目的の邪魔になる。
自らの欲を満たすための行動は大いにけっこうだが、それが俺の目的に反するのなら、排除する必要がある。
腐っても勇者は優秀な冒険者。
通常なら殺すのは損失だが、こいつらは他の人間を平然と殺す。人族の癌だ。
放置すると冒険者の質が下がる原因となる。
さらに俺の所有物を奪おうとする発言、もう容赦する必要はないだろう。
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