73 干しチンピラは壁を背に踊る
「お前ら、こんなことをしてただで済むと思っているのか!?や、やめろ、落ちる。揺らすなぁ!」
「こ、これは明らかに商業ギルドに対する敵対行為です。我々のバックにはアズレイ王子や迷宮教の高位司祭もいるのです。あなたたち、どうなっても知りませんよ!」
「ミノムシどもが騒いでいるな」
ロープで簀巻きにされたチンピラリーダーと、もう一人の名前は何だったか。そうだ、ボロスだ。
「商人はロボスです。もう一人は…わかりません」
考えていることを読まれたらしい。シオンの読心術はますます冴えわたっているようだ。
ちなみに奴らは全裸である。悪くない装備をしていた。パンツを剥いだのは見せしめだ。
冒険者ギルドの防壁を囲うように、同じく簀巻きにされたチンピラたちが吊るされている。干しチンピラだな。柿とは違って食べても美味しくなさそうだ。
ロボスとチンピラリーダーの顔は腫れ上がっているが、まだまだ元気があるようだ。
まぁ騒いでくれたほうが“虫よけ”にはちょうど良いだろう。
「ところでアズレイ王子とはなんだ?どこかで聞いたことがある響きだが、思い出せないな」
「アズレイはボロ雑巾のことです、ご主人様」
「あぁ、そういえばそうだった。シオンは賢いな。そのボロ雑巾がバックにいるからなんだというのだ?」
「ごめんなさい。わかりません」
「気にするな。道化の言うことは深く考えるだけ無駄だ」
「はいご主人様。…えへへ」
シオンの白耳をモフる。
うむ、よい触り心地だ。
ベルが言うには、チンピラたちを殺すと残虐だと思われかねないので全員生かしておくそうだ。
三日ほど放置して、活きが悪くなったら開放するらしい。
ちゃんとトイレタイムは用意してやるそうだ。防壁が汚れるからだな。
ベルは優しいし、気が利く。
チンピラたちはベルの慈悲に感謝するべきだろう。
「ほっほっほ。いやぁ、良い余興でしたな。人を簀巻きにするのは久しぶりだったので、まるで童心に返った気分ですよ」
「商業ギルドは人族至上主義者とベッタリのめんどくさい連中だったから、すかっとしたよ。トシゾウはやることがいちいち面白くて、見ていて飽きないね」
「ネチネチとうっとうしいんじゃよ。そのくせ半端に力と金を持っておるから実にやっかいでの。仕事ばかり増やしよる。冒険者ギルドが風よけをしてくれるならありがたいわい」
「風よけどころか、風ごと飲み込んじまいそうだけどな」
「ドルフ軍団長、ミノムシを揺らすと良い声で鳴くので楽しいですぜ。軍団長も吊られてみませんか?」
「うるせぇビクター。吊るすぞ」
人族の王弟と姫と宰相と軍団長は、酒の余興を見るかのように宴会を続けていた。
ちなみにビッチは宴に参加していない。スタンピードが終わるとすぐに、
「ユーカクを移設するのじゃ!」
と言ってダッシュで去って行った。
移設が終わったらアイシャと戦いに行く必要があるな。
「閣下、全員吊るし終わりました。こちらの損害は軽症者が3名。すでに治療済みです」
「トシゾウはん、これが奪った装備の目録や。報復はどないする?」
コウエンとベルが俺に報告する。
二人の後ろには100人分の装備が積まれ、ちょっとした小山のようになっている。
きっちりと略奪まで済ませるとは。
コウエンとベルは俺のことがよくわかってきたらしい。良いことだ。
「うむ。ご苦労。ベルとコウエンは役に立つな。これから忙しくなるから、報復の略奪はしなくて良い。まとめて奪い去るよりも、何度かに分けて奪ったほうがたくさん集まるしな」
「了解や。トシゾウはんは商人になっても成功しそうやな」
「うむ、たくましい冒険者から得た教訓だ。今回奪った装備はギルドの資産とする。戦闘班に回すも良し、事業の元手にしてもよい。今後、似たような面倒はすべてお前たちに任せる。俺の方針に沿い自由に動け」
「はっ。閣下の御意にかなうよう、全霊を持ってあたります」
「はじめに言うたやろ。大船に乗ったつもりで任せといてや!」
二人は頼もしい返事とともに去っていった。
ギルドメンバーたちは短くも濃い時間を過ごしたことですでに一人前になりつつある。
迷宮に潜る冒険者の質を向上させることが冒険者ギルドの主目的だ。
今後は俺が細かい指示を出さずとも、方針を伝えるだけで良い働きを見せてくれるだろう。
自分が動かずとも、宝が集まり、仕事が進む。
このことを前世でなんと言うのだったか。たしか、ひm…
「ご主人様はみんなのご主人様ですね」
シオンが尻尾を振りながら俺を見上げる。かわいい。
そうだ、ギルドメンバーは俺の所有物。そして俺は主人だ。何も問題はないな。
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