26 宝箱はスタンピードを知る

「そういえばシオン、スタンピードというのが何か知っているか?」


 俺は迷宮で昼食を食べながらシオンに尋ねた。やはり焼き立ての串焼きはうまい。


 【無限工房ノ主】で無限工房へ収納したものは、任意に時間の流れを変更できる。

 食事はいつも作りたて、酒なら熟成させることができる。


「スタンピードは、あふれ出した魔物の集団が暴走することです。今まではラ・メイズ中央のメインゲートからしか起こらなかったのですが、最近は荒野や、他の迷宮入口からも小規模なスタンピードが起こるらしいです」


「なるほど。スタンピードは魔物の集団暴走の事か。どうして起こる?」


「不明です。偉い人によると、迷宮の魔物が増えすぎた時に起こると言われています」


「ふむ」


「迷宮で魔物を倒す数が少ないとスタンピードが大規模になるという人がいます。ほとんどは、数は多いけど弱い魔物ばかりなので、ラ・メイズの内壁内で討伐できます。でも毎年、だんだん対処が大変になってきていると聞きました」


「なるほどな。というかメインゲートから魔物が溢れたら、冒険者区画は大変なことになるのではないか?」


「スタンピードが起こる日は決まっているので、スタンピード前になるとみんな内壁の外に避難します」


「なるほど、冒険者区画がテントや屋台ばかりなのはそのためか。固定建築を建てず、いつでも逃げられるようにしているのだな」


「はい。みんなスタンピードが終わった後に戻ってくるのですが、場所取りは早い者勝ちです。なのでスタンピードの後はいつも大変です」


「それは面白いな。しかしそれでは、大した商いもしない者が場所だけ取ってしまうのではないか?それにしては全体に活気があったように思うが」


「スタンピードは何度もあるので、扱う商品ごとにだいたいの区分けは決まっているそうです。広く場所取りをしたら、その場所を売ったりすることもあるようです。でもそれで死者が出ることもあったので、今はある程度のルールが決められているそうです。それに場所を取ったら、その場所に応じた税金を払わなければなりません」


 広い土地を手に入れても一時的なものだし、あまり出すぎれば周りから叩かれる。さらに税金も嵩むわけか。

 大商いをできる力がないなら、土地を取ってもデメリットが多いわけだ。


 おそらく貴族や王族はその税収を魔物の討伐や土地の維持などに充てているのだろう。

 なるほど、よくできている。創意工夫に富んだ人族の発想はやはり素晴らしい。


「内壁内に普通の建築物を建てることは禁止されているのか?」


「たぶん、禁止はされていないと思います。でもスタンピードの時は魔物が内壁まで押し寄せるので、内壁の中に建物を建てても、壊されてしまうから誰もやりません」


「なるほど参考になった。シオンは役に立つな」


「ありがとうございます!」


 シオンは嬉しそうだ。

 座ったまま器用に尻尾を振った。かわいい。


 さて、それでは腹も膨れたし、野暮用の方も済ませよう。


「シオン、ちょっとシロに用事がある。付いてくるか?」


「シロ、ですか?」


「あぁ、なかなかかわいいぞ。ペットのようなものだと思えば良い」


「シロ、ペット…。ご主人様の向かわれる場所になら、私はどこへだって付いて行きます!」


 シオンははっきりと宣言する。


 どこへでも付いて行くという言葉に嘘はない。ないけど…、どうせなら恐ろしい場所じゃなくて、白いペットがいる場所が良いです。


 そんな考えが顔に書いてある。

 なついたシオンは割とわかりやすい。

 考えたことがけっこう表情に出るのだ。かわいい。

 シロと同じで実にからかい甲斐がある。


「それでは行こうか。49階層だ」


「はい!…はい?」


 会いに行くのはシロこと祖白竜ミストル。竜の親玉のような存在である。

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