21 シオンは宝箱と眠る 前
私の名前はシオン。
白狼種の獣人です。
幼い時に両親を亡くし、人族の都市であるラ・メイズで拾い屋として生きてきました。
当時の記憶はひどく曖昧で、拾い屋になる前のことはほとんど思い出せません。
幸い、同じ拾い屋の方たちが生きていくために必要なことを教えてくれたので、幼い私もなんとか生きていくことができました。
私がスキル持ちであることも大きかったと思います。
スキル【超感覚】は、五感を強化してくれるスキルです。さらに第六感というか、危険に対しても敏感に反応することができるようでした。
拾い屋の仕事は過酷です。
いつも重い荷物を持って迷宮を歩かなければならないし、魔物の群れに襲われたら真っ先に囮にされます。
何度も死にそうになりました。
私の持ち物ごと荷物を奪われて、【帰還の魔石】を使うまでの囮になれと【魔物寄せの香】を押し付けられた時は本当に危なかったです。
私は左腕を失いながらも、死に物狂いで迷宮を脱出しました。
死にたくない。ただ生きることを考えていました。
【超感覚】で魔物の気配のない場所を必死で走り、命からがら迷宮を脱出した後に、私を囮にした冒険者パーティが全滅したことを知りました。
【帰還の魔石】を発動するまでの時間を稼げなかったのでしょう。
そのことを知った時、私は何とも言えない気持ちになりました。
少しずつ貯めていたお金も装備もすべて失ってしまったけれど、生きていられて良かったです。
どれだけ迷宮へ潜っても、私たち獣人はずっとレベル1のままです。
迷宮は人族のものです。
奴隷紋でレベルを制限されているので、まともに戦うことはできません。
このような生活を続けていたら、いつか死んでしまうことはわかっています。
一緒に眠っていた拾い屋の仲間が、ある日突然迷宮で死んでしまうことも多いです。
でも、私は他に生きていく方法を知りません。
気付けば、私は拾い屋の中でも古参になっていました。
冒険者区画のお店で働けないかとがんばっていた時期もありました。
でも私が獣人で、しかも左手がないとわかったら誰も相手にしてくれませんでした。
獣人だと差別をしない人もいたのですが、獣人を差別するお客様がいるから、雇うことはできないそうなのです。
他に拾い屋以外で獣人が就ける仕事は、奴隷よりもさらに過酷なものばかりです。
冒険者区画の中にある貧民区で私に声をかけてくれた人族の男の人によると、獣人の女は具合が良いそうです。
それがどういうことかは拾い屋の仲間に教えてもらっていました。
男の人の声が悪意に満ちたものであることに【超感覚】で気付いた私は、そこから逃げ出しました。
しばらく私の後を追うたくさんの足音が聞こえていました。
「聞いたか?近々大遠征があるそうだ」
ある時、拾い屋の仲間が嬉しそうに言いました。
大遠征は、複数の冒険者パーティが一丸となって迷宮の深層を目指すことです。
深層を目指すために、倒した魔物を放置することも多いので、大遠征の後を付いて行けばいつもよりたくさん稼ぐことができます。
乞食、ゴミ拾いと散々馬鹿にされるし、時には理不尽な要求をされることもあるけれど、私たちにとっては比較的安全に多く稼ぐことのできるチャンスなのです。
大遠征への同行は途中まで順調でした。
私は遠征隊が倒した魔物のドロップを集めながら5階層まで同行し、そこから地上へ戻ることにしました。
遠征団には他にも多くの駆け出し冒険者のパーティなどが同行しているので、戻るときも比較的安全です。
レベルが1である私にとって、5階層は一人で歩ける場所ではありません。
その時も他の冒険者パーティに加わり地上を目指したのですが、それが間違いでした。
他にも5階層から戻る冒険者パーティはあったのに、私はよりによって迷族の扮する冒険者パーティについて行ってしまったのです。
慣れた足取りで5階層を歩く姿から同行を求めたのですが、それはこの迷族の拠点が5階層にあり、日常的に冒険者を拉致していたからだったのです。
彼らの不穏な会話を【超感覚】で拾ったときにはもう手遅れでした。
周囲を囲まれ、無理やり迷族の拠点に連れ込まれてからのことはあまり思い出したくありません。
もともと尊厳なんていうものは私に与えられていませんでしたが、それでも地上にいた時のことを楽園のように感じるほどには、私は追い詰められていました。
朝も夜もない迷宮で男たちに乱暴され続け、食事はほとんど与えられませんでした。
すごい匂いのする薬を飲まされ、強制的に気持ちよくされたこともあります。
我に返った時は、何が何だかわからなくて、ただただ絶望して。
コレットがいてくれなかったら、エリクサーでも治らないくらいに壊れてしまっていたかもしれません。
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