04 宝箱は依頼を受ける
「まず前提として、トシゾウ殿は迷宮の浅層で冒険者相手に蒐集をされるおつもりだとか」
「そうだ」
「主によると、それではトシゾウ殿が満足するような宝を得ることはできないそうです」
「どういうことだ?」
「はい、迷宮深層に冒険者が訪れなくなった理由ともつながるのですが。どうやら迷宮に訪れる冒険者の質が低下しているらしいのです。身に着けている装備も相応に貧弱になってきているそうです」
「なんだと。なぜそんなことに」
「不明です。主は迷宮を管理する立場ですが、あくまでも分かるのは迷宮の内部のことのみ。迷宮外部から訪れる冒険者の事情を理解することができないそうなのです。そこで、その原因の解明と改善をトシゾウ殿に依頼したいそうです」
「なるほど、話はわかった」
迷宮主の話が本当なら、由々しき事態である。
俺のライフワークである宝の蒐集。
そのお宝そのものが手に入らなくなっていくということだ。
迷宮にとっても、強い冒険者の来訪は歓迎すべきことらしい。
詳しくは着信拒否したのでよく聞いていないが、邪神の力を抑えるのがどうとか、迷宮の維持がどうとか言っていた気がする。
こうなってくると、単に冒険者を探して奪えば良いという問題ではない。
冒険者の質が下がっている現状で、下手に狩りを繰り返すのは、さらなる冒険者の質の低下を招くことになるというわけか。
ジリ貧になる前に、根本的に何とかする必要があるのだろう。
それはわかったのだが…。
「そういうことなら協力するのもやぶさかではない。しかし、どうして俺に?他の眷属ではだめなのか」
「はい、今回の件は非常に柔軟な対応が求められます。原因の究明のためには冒険者に接触する、あるいは迷宮の外での活動が必要になります。ですが、それに対応できる眷属が限られるのです」
なるほど。たしかに俺が知る眷属でも、それが可能そうな者は数名しかいない。
「ビッチに、かろうじて脳筋、あとはシロくらいか」
「あ、あの、彼らにはれっきとした名前が…。いえなんでもありません。トシゾウ殿のお察しの通り、その二名はすでに迷宮外で情報の収集にあたっています。それにトシゾウ殿も加わってほしいということです」
ふむふむ。
「期限はなし。報酬は原因の究明と、冒険者の質の向上ごとに随時支給。迷宮はできる限りの協力をする。あらゆる行動の自由を許容するが、人族の殺害と私腹を肥やすのはほどほどにして欲しいとのことです」
「妥当だな。金の卵を産む鶏は大切にするべきだ。俺にも益がある話だ、引き受けよう」
「ありがとうございます。それではこちらを」
ミストルは紫色の水晶をトシゾウに手渡した。
人の拳より一回り小さいサイズの紫水晶で、表面に精緻な彫刻が刻まれている。
「これは?」
「【迷宮主の紫水晶】です。それを使えば、いつでも主や私と連絡を取ることが可能です。また、迷宮の掌握する土地内のあらゆるものを検索し、指定したポイントへ瞬間移動できます」
「恐ろしく便利な代物だな。移動する手間が省けた。感謝する」
「感謝は不要です。その代わり、ちょうど今5階層に悪質な迷族がいるので、紫水晶の試用がてら狩って来て欲しいそうです」
…箱使いの荒い奴らだ。だがこの紫水晶にはそれだけの価値はある。
俺はもらった報酬、宝には報いる。これは宝への礼儀だ。
迷族は将来の獲物を奪う害虫だ。俺の利益にもなる。
ここは使われてやろうではないか。
俺はシロに別れを告げ、【迷宮主の紫水晶】を使用する。
まずは迷族を駆除だ。その次は迷宮の外へ。
擬態した人族の身体に精神が引っ張られているのだろうか。
停滞していた時間が終わり、俺の心は少しの期待に満ちていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます