番外編 あたしメリーさん。いま転生の女神をやってるの……。
【ある朝、グレゴール・ザムザが不安な夢からふと覚めてみると、ベッドのなかで自分の姿が一匹の、とてつもなく大きな虫に変わってしまっているのに気がついた。】
というのは、有名なカフカの『変身』だけれど、彼女の身に起きたのも、まあ似たような理不尽だった。
『しののめピンク様
お世話になっています。
せんみつ文庫担当のポイズン海山です。
先日発売したピンク様の「勇者になりたかった六つ子はパーティーから強制退会されられて、退職金で田舎にこもってスローライフを始めることにしたんだけれど、裏庭で井戸の代わりにダンジョンを掘り当てた。 -そのまま出来心でダンジョンに潜ったら、兄弟全滅エンドで、最後に残った長男に他の兄弟のステータスとスキルが憑依して、なんかチート能力を付与されました。ついでにダンジョンを攻略したら、かつての伝説になったSSS級勇者の剣に選ばれて、女神と魔女王が嫁についてきちゃった-」ですが、販売状況がはかばかしくないため、当初予定していた続巻は無理ということになりしました。
現在執筆中の次巻の原稿は必要ありません。
また機会があれば原稿を依頼することもあるかと思いますので、その際はぜひともよろしくお願いいたします。
それでは、乳首先生の健康とご多幸をお祈りしております。
草々』
「これ絶対にこのままフェードアウトされる流れだ~っ!」
スマホを握り締めたまま、思わずその場に崩れ落ちて『プラ〇ーン』のエリアス軍曹のポーズを取るペンネーム【乳首ピンク(小説投稿サイトでのもの)→しののめピンク(書籍化に伴い変更)】(18歳・大学生♀)。
「やばいやばい! これこっちからリアクションしないとアカンやつだ!」
慌ててメールに返事をするピンク。
『ポイズン海山様
お世話になしゃいます。
しののめです。
発売中止って、出版からまだ一週間で決まるものなんですか!?
これからブーストがかkりますよじゃないですか。
急にそう言われてもなにそれで鵜。なんとかなりませんか!』
急いで打ったために誤字脱字のオンパレードだが(※作者が推敲しないで打った文章そのものです)、気にせずに即返信する
「へんしーん!」
理性をかなぐり捨てて、意味もなく道の真ん中でポーズを取る錯乱した18歳の女子大生。
だが、田舎と違って都会では、この程度の奇行では誰も見向きもしないところが虚しかった。
まあ、この手のメールに関して編集者のレスポンスが早かったためしがないので、同時に直談判に行くために近くの地下鉄への通路を下りる。
で、列車に乗ったところで意外と早くメールの返事がきた。
『しののめピンク様
お世話になっています。
せんみつ文庫担当のポイズン海山です。
いや、編集会議で決まったことですし、それに発売日ダッシュから三日で二千いかないとなると、完全に採算分岐を割ってますしね。
やはりあのタイトルが長ったらしいのがマズかったのではないかと。
それと契約上、三巻まで出すと明記してない、あくまで口頭での話でしたので。あ、今後の動き次第で、続巻が出ることもあるので、気長にお待ちいただければとお願いいたします』
ウソつけ~~っ! もう完全に見限ってるでしょう。そうでしょ?!
つーか、もともとのタイトルは『元勇者パーティのおっさん、裏庭で魔剣を掘り出す』だったのに、
「ラノベで一番長いタイトルが『元勇者〇おっさん、転生して宿屋〇手伝う(以下略※なお、実在する小説・タイトルとは無関係であり(ry )』の71文字(空欄も含む)なので、それを圧倒的に上回る文字数のタイトルにしましょう! これは話題と注目を浴びますよ。そうなりゃしめたもんです」
とか言って、炎上商法狙いで変えたもんでしょうが!! おまけにタイトルが長すぎて、読者がタイトルの段階で読むのを挫折して、炎上どころか話題にも上らなかったというヒデーオチだったし……!
と、乱雑にメールに返信をしようとして、寸前のところで正気に戻って内容を削除して、
『しののめピンクです。
いま、せんみつ文庫出版社の近くまできているので、お時間がよろしければ詳しくご相談したいのですが』
そう一方的にアポを取りつけて返信した。
そして、その翌日、しののめピンクは取材という名目で、異世界へ転生していたのであった。
「な……何を言っているのかわからねーと思うが、オレも何をされたのかわからなかった……。ゲス編集者に地下室へ連れて行かれて、怪しい魔法陣に乗ったと思ったら、生まれ変わった無敵の体……じゃなくて、異世界で獣人になっていた。頭がどうにかなりそうだった……。催眠術だとかバーチャルリアリティーだとか、そんなチャチなもんじゃあ断じてねえ!」
咄嗟にポル○レフ状態を実演するピンクであったが、ピンク色のウサギ獣人がポーズを取っている姿は、出来の悪いゆるキャラが舞台の上でパフォーマンスをしているようにしか見えなかった。
「元人間ですか……」
スズカが共感を込めて、しみじみとピンクウサギを上から下まで眺める。
「元人間というとジェ○ニモなの! そもそも元人間だから、転生してもヒディアーズになるとは限らないの。ガチャみたいなものなの。特にこの世界は人間以外の種族が、黒十字軍の〇〇仮面並みに多彩だから、ピックアップガチャ大爆死でなかっただけ、まだマシなの……!」
「あー、懐かしいですね。機関車仮面とか牛靴仮面とか野球仮面とか」
「いや、何の話か分からないけど、確かにエルフとかいるわよね」
スズカの相槌に小首を傾げつつ、メリーさんの言葉に同意するオリーヴ。
「機関車仮面とか牛靴仮面とか野球仮面とかで盛り上がるとか、オタクの中でも現代日本におけるサメ映画マニアみたいなマイノリティーなの。あとエルフに生まれ変わったなら逆にアタリなの。同じエルフでも〇作シリーズの主役に生まれ変わったら悲惨なの……!」
「いや、そのエルフはエルフ違いですから……てゆーか、大丈夫ですか、この連中?」
思わずツッコミを入れて、メリーさんたちを斡旋してくれた職員に再度念を押すピンク。
バカがバカを認識した瞬間であった。
「あたしメリーさん。それで、なんでメリーさんが呼ばれたのか不明なの……?」
冒険者ギルド本部で、メリーさんが椅子に座って足をブラブラさせながら、心底どーでもいい口調で職員のカモノハシ(獣人)に尋ねる。
「普段から言動がアレだったので、確認したところ元異世界人の転生者らしく、扱いに苦慮いたしまして。メリー様のパーティーはその手の案件に精通しているとのこと、どのようにすべきかとお知恵を拝借できないかと思った次第です」
完全に人選を間違えたチョイスだが、カモノハシは今度はピンクウサギの方を向いて、メリーさんたちについて説明をする。
「こちらは勇者で異世界転移者で、なおかつ兼業で転生の女神もなさっている幼女だ。お仲間も含めて全方位にバカしかいないが、まあなんとかなるだろう」
「「「「異議あり! 誰がバカ(ですか)(よ)!!」」」」
オリーヴ、ローラ、エマ、スズカが一斉に異議を唱えるが、
「まあ不安に苛まれるのはわかるの。極限の空腹状態で見つけた派手なキノコを食べるべきかどうか、悩むようなものだけど、食わなきゃ死ぬし、それに案外毒キノコのって旨味は食用キノコよりあるらしいの。食ったあとは知らないけど……」
メリーさんが偉そうに講釈を垂れた。
「……大丈夫なんですか、この連中で?」
極限まで不安にさいなまれているらしいピンク。
「目付きが、う〇美ちゃんみたいになっていて、不本意なの。メリーさんを信じるの。だいたい幼女の女神ってご利益が高いの。メリーさんの知り合いの幼女女神も、とある作家の作品を大ヒットさせて、漫画にしたりアニメ化直前まで行ったんだけど、SNSで過去の言動を……」
「あー、あーっ! ストップ!! その話はいろいろと危険なのでやめてください!」
途端に耳を塞いで聞こえないふりをするピンク。
「あと、メリーさんが扱った案件だと、とある小説では9巻で絵師が三回も変わる快挙を成し遂げたりしたの。現代版『ジ〇ード』なの、あれも最初の絵師は山根〇俊先生だったけど、ジャ〇プでの新連載を始めるため、挿し絵を続けることができなったと表面では言われているけど、貧乳好きの作者と巨乳大好き絵師の間に確執があったとも言われているの。メリーさんが扱った案件も、諸般の事情とか言っているけど、絵師と作者の間で、譲れないおっぱい議論があって決裂したともっぱらの評判なの……!(※メリーさんの出鱈目です)」
「あー、『ジ〇ード』はその後、二回絵師が変わって、リニューアル版も含めてトータルで4回変わってますね」
コロコロ絵柄が変わって読者が付いてこられるのかなぁ、と脇で聞いていて他人事ながら心配になるピンク。
ということでなし崩しに丸投げされたメリーさんは、場所を移して話を聞くことになった。
◇ ◆ ◇
「……最近は災害が多いな」
TVに映っている焼け落ちた世界遺産とともに、床に広げた
盛りの付いた中学生じゃないんだから、別段ムラムラはしないが、たまにローテーションが変わる下着は、どこから調達するんだろうとたまに不思議になる。
ちなみに今日は縞パンの日であった。
あと、どーでもいいが、霊子の下敷きになったあの新聞は、濡れてもう読めねーな……。この事実だけでも新聞とる必要がないことが認識できたのはいいことだ。
そうそう、災害と言えば
相変わらず神がかった運の良さを発揮する女性である。
とりあえずホットケーキが焼きあがったので、俺の中ではいないことになっている霊子を無視して、居間のテーブルの上に皿を置いた。
〝どの新聞も最後は「ともかく政治が悪い」「責任を取って総理を辞職しろ」で終わるのが、逆に不自然で気持ち悪いわね”
焼きあがったホットケーキの匂いにつられて立ち上がった霊子が、冷蔵庫から勝手に麦茶とメープルシロップを持ってきてスタンバイする。
【しかし回り込まれた】
なんとなくそんな
>【メリーさん@メリーさんの秘密。実はいつもキャミソールの下はノーブラでB地区解放状態なの】
キャミを着ていることの方に衝撃を受けているのだが……とにかく俺はスマホに出た。
『あたしメリーさん。最近はタピオカが話題にならないけど、あれって天然の「タピオカの実」とかがあって、それから作るんじゃなくて、袋に入った「タピオカ粉」を水でコネて、汚ねーオッサン連中で手でグリグリ丸めている製造工程が明らかになったせいだと思うの……』
う~む、当初は「アリエネーだろ」と思ってたメリーさんの狂った言動が、だんだんと「この程度は平常運転」と思えるようになってきた自分に気づき、ヤベーと感じる今日この頃である。
「いや、それ言ったら寿司も食えないだろう」
『メリーさん他人が握ったおにぎりやおはぎとかも食べないので、寿司も手袋をハメて作る回る寿司以外は食べないの……』
「意外だな。お前がそんな神経質だとは……」
『だって、キタキ○おやじの腋で握ったやつかもしれないし、おはぎにも縫い針が入っているかもなの……!』
「そこまで疑い出したらキリがないだろうが!」
つーか、いまどきグルグルとかひぐらしとか古いぞ、おい。
『それはともかく、最近、異世界に転生する地球からの魂が多いので、メリーさん別な案件で神界へ来たはずなのに、天使に無理やり拉致られて、いま転生の女神をやっているの……』
「…………。あ~、まあ、お前は一応不本意ながら神だからなぁ、食って寝るだけの●んこ製造マシーンから、たまには働くのもいいもんだぞ」
『身勝手な理屈なの! だいたい神なんて、別に警察官でも軍人でもないんだから、人間の生命を守る義務なんかないの! 世界を守るのが仕事であって、人間がそのせいで死滅しても責任とるいわれはないし、人間だけを特別扱いするなら、それに見合った代償を寄こすべきなの……!』
電話の向こうで「働きたくないでござる! 働きたくないでござる!」と駄々をこねるメリーさん。
つーか、つくづく考え方が邪神だな……。
『どうせ人間なんて、「出荷しすぎて売れ残った」「売れ残って埋められた」結果、ア○リ社を潰した「E.○. 」並みに地球にとっていらない存在なの。まとめてTMNT火薬で吹っ飛ばしたい気分なの……!』
「それを言うならTNT火薬な。TMNTだと……あれだ『激亀○者伝』だろーが」
つーか、妙にやさぐれているな。
『朝からロクな転生希望者が来ないの! 「キレイな女子高生になってグループ外のブスの子に〝もっと自信もちなよ~w”とか言ってマウント取ってみたい」とかいう喪女とか、開口一番「謀ったな存在○!」とか叫ぶサラリーマンとか、「幼女神キターーーーーー!」と盛り上がるオタクだとか……』
なるほど、確かにロクな客にロクな要望がないな。
『一番多いのは、「世界最強」「なんかスゴイ」という雑なワードのチートを欲しがる連中なの! そんな御大層なものを、「こんちゃーす! コレくださーい!」とできると思ってるの!? スーパーで洗剤買うわけじゃないの……!!』
さすがのメリーさんもかなりストレスが溜まっているらしい。
「チートねぇ、ぶっちゃけ人間やめるってことだよな」
『その通りなの! 改造手術を受けるようなものなの。たった一つの体を捨てて生まれ変わった無敵の体とか、アイツら入れ墨入れるよりも重大な決断をして、ピ○ミン並みになにも考えずに、剣と魔物が跋扈する危険な世界に行こうとしているの……!』
ピ○ミンは命令しないと、命の危険も顧みずに速攻で危ない道通りやがるからな。
「つーか、お前のところの異世界って、中世ヨーロッパ要素割とガバガバだったんじゃねえのか?」
マジの中世ヨーロッパ風だったら、町歩くときは常に上からウンコ落ちてこないか警戒しないといけないくらい不衛生だろう。その代わり、住人全員がキチガイという、アンデルセンにも思いつかなかったおとぎの世界であるが。
『あたしメリーさん。そうなの! マジモンの中世世界で喜ぶなんて、エ□ゲでお嬢様がカップ麺を喜ぶのと同じようなあり得ないシチュエーションなの。やんだったらご希望通り、トイレもお風呂もない、クラスごとダンジョンに転移させようとしたら、一部の男子が「なら、物陰でヒロインがう●こをした直後に行けば……(ゴクリ)」という、メリーさんもドン引きの驚異の食いつきの良さをみせたの! とりあえず、全員髪型はアフロで統一してダンジョンへ放り出したけど……』
「……やはり、そっちの世界に転生や転移する連中は、ダイレクトにヤバいやつばっかなんだな」
『メリーさんだったら、モンスターボール三十個ぐらい買って、使い切る前にスーパーボール買い始めるみたいな感じで、なるべく危険を回避するのに! あとイきり顔がウザいの。こんなのを朝から相手していて、メリーさん限界なの……! ついでに下界の様子を見たら、オリーヴたちが、明らかにメリーさんがいない方が盛り上がってるし!!』
「ブラック勤めのリーマンみたいに
『あたしメリーさん。
「諦めんなよ!(修三風)」
適当に気休めを口にしつつ、最後に残ったホットケーキを霊子と争奪戦を繰り広げて、半分にして食べる俺。
『とりあえず、最初の案件のピンクウサギは「せっかく異世界転生したのに何のチートもない」と不満だったようだから、適当にチート能力を授けて、さっさと厄介払いをするの。とりあえず、足のかかとから無限に唐揚げが出てくるチートとか需要がありそうなの……』
あるか、そんな能力に需要なんて!?
「つーか、それチート能力か!?」
『「絶対に他にない能力」と言えば間違いはないの。「『面白い!』『続きを読みたい!』と思われた方は、評価をお願いします!」と書いても、「思われた方」なので規約的にセーフみたいなものなの……」
こじつけだと思ったが、所詮は他人事なので「まあ、がんばれー」と、軽く言って俺は通話を切った。
その後、霊子がキッチンで食器を洗っている後姿を眺めながら、ふとスマホメールを見ると、高校時代の同級生で、小説を書くのを趣味にしていた友人が亡くなったとの通知が来ていたので、俺は慌ててメールをくれた元級友に電話をするのだった。
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